第59話 大成、罰ゲーム中にさらに罰ゲームをやらされる

 紅葉山もみじやまさんはニコニコしながら紹介してくれたけど、何でここにパッキーが出てくるんだあ!?

「ちょ、ちょっと待ってくれ!ボクが知る限りこの店のメニューにパッキーは無いぞ。しかもボクは注文した覚えがない!」

「あー、これはわたしのオヤツ用のパッキーだけど、特別にお二人に進呈しまーす」

 そう言ったかと思うとニヤニヤしながら俺と華苗穂かなほ先輩を交互に見ている。おいおい、まさかとは思うけど・・・

「デートなら、お互いに『あーん』してパッキーを食べさせないとねー」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!マジでそれは勘弁してくれよお。それにこれは罰ゲームだぞ」

「そうですよ、俺もマジで勘弁して欲しいです」

「あらー、罰ゲームとはいえデートには違いないでしょ?」

「「それはそうだけど・・・」」

「なら決まりね。あー、そうそう、もしお互いに『あーん』でパッキーを食べさせたらコーヒー代はサービスしてもいいわよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、お金の問題じゃあない!パッキー代も払うから勘弁してくれ」

「大丈夫大丈夫、大蝦夷銀行本店様はうちの超お得意様だから全然OKよ。それに平日のランチタイムには本店の人が大勢きてくれるし、頭取を始めとした役員クラスの人にも御贔屓ひいきしてもらってるからコーヒー代はサービスで構いませーん」

「だいたい、紅葉山さんの独断だろ?マスターが首を縦に振る訳ないから紅葉山さんが自腹を切る事になっちゃうから勘弁してよお」

「ノーノー、これはお爺ちゃんが既にOKしてますから」

「「はあ!?」」

 そう言われたから俺と華苗穂先輩はカウンターの方を見たけど、マスターはグラスを布巾で拭きながらニコニコ顔でこちらを向いている!つまり、紅葉山さんが言っている話は嘘じゃあないという事だ。マジかよ!?

「そういう訳ですから『あーん』して下さいねー。もしやらなかったら防犯カメラの映像を頭取に提供しちゃいまーす」

「フン!お爺様はボクに甘いからな。全然脅しにならないぞ!」

「じゃあ、君のお婆ちゃんがこの店に来た時にボソッと言っちゃおうかなあ」

「ちょ、ちょっと待て!ここでお婆様を使うとは卑怯だあ!!」

「なら『あーん』で食べさせる事ね。じゃあ、後はお二人でじっくり検討して下さいねー」

 それだけ言うと紅葉山さんはスタスタとカウンターの方へ戻って行ってしまった。


 残された俺と華苗穂先輩はお互いの顔を見合った後に「はーーーー」と長いため息をついた。

 でも、その直後、お互いに顔が真っ赤になっている事に気付いた。そう、紅葉山さんが言った言葉が意味する事が分かっているからだ。

「・・・ホントにやらないと駄目なのか?」

「先輩!やる気なんですかあ!?」

「バ、バカを言うな!ボクだって本音は絶対却下だ。でも、あの紅葉山さんが『お婆様にボソッと言っちゃおうかなあ』って言ったからには、やらなかったらボソッどころか堂々とお婆様に言う気だ!」

「たしかにあの人ならやりかねませんね。何しろ有言実行という意味では青葉あおば以上の人ですから」

「それに・・・ボクは君と一緒にいた事がお婆様にバレると非常にマズい!」

「た、たしかに・・・俺だってほぼ百パーセントの確率で若菜わかな先生経由で母さんの耳に入るから後で何を言われるか分からない!」

「い、いや、ボクの方は・・・と、とにかく大成たいせい!これは罰ゲームでの出来事だぞ!!分かったな!!!」

「先輩、顔を真っ赤にして何を興奮してるんですかあ!?」

「たいせー、これが興奮してるように見えるのかあ!冗談じゃあないぞ、超がつくほど恥ずかしいから真っ赤になってるに見えてるだろ!」

「先輩にも羞恥心はあったんですかあ!?」

「あったりまえだ!こんな事を真昼間から、しかも自分から設定した罰ゲームでやらされるんだからボクとしてはだ!ある意味、踏んだり蹴ったりだぞ!」

「俺もですよお」

「だ、だがここでやらないとそれ以上の事が起こるのは間違いない!だから大成、何度も言うがこれは罰ゲームの延長という事でいいな!分かったな!!」

「分かりましたよ、俺も腹をくくりましたから」

「ところで・・・どっちが先に食べさせるんだ?」

「へ?・・・」

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