第46話 大成、優雅な振舞いをする美少女に見惚れる

「お、おはようございます。ひ、広内金ひろうちがね先輩」

「おーい、その『広内金先輩』は禁句だぞ。『華苗穂かなほ』と呼べ」

「えー、勘弁してくださいよお。それだけはホントに申し訳ないけど勘弁して下さい」

「仕方ないなあ、じゃあ『華苗穂先輩』で勘弁してやる。これなら文句ないだろ?」

「はーーー・・・分かりましたよ、華苗穂先輩」

「よろしい。じゃあ、手始めにスナバで優雅にカフェと行こうじゃあないか」

「分かりましたよ、先輩の好きにして構いませんよ」

「まあ、そう力むな。肩の力を抜いていいぞ」

 そう言ったかと思うと広内金先輩・・・いや、華苗穂先輩はスナバに向かったので俺は先輩を追いかける形でスナバに入った。

「おーい、たいせー、何を飲む?」

「あー、俺はドリップコーヒーでいいです」

「じゃあボクもドリップコーヒーにする」

 その瞬間、俺たちの周囲にいた人の視線が一斉に俺たちに集中したのが分かった。しかも「おい、今の聞こえたか?」「ああ、もしかしてボクっ子?」「マジかよ!?おれ、初めて見た」「あー、しかも超可愛い」「あー、でも彼氏持ちかあ」「でもさあ、結構カッコいいわよね」「あーん、羨ましい」とか言ってる声が俺の耳にも聞こえる。華苗穂先輩、勘弁して下さいよお、マジで目立ち過ぎです。

 俺は素早く自分のズボンのポケットから財布を取り出したけど、それをする前に華苗穂先輩が既にクレジットカードを取り出していて、それを店員さんに手渡していた。しかも俺は目を疑った。あのカードは・・・

『お待たせしましたー』

 そう言って店員さんはドリップコーヒーを2つトレーに乗せたから俺が受け取り、華苗穂先輩が先導する形で俺たちは空いている席に座った。座ったら座ったで視線が俺たちのテーブルに集中しているのがアリアリと分かる。いや、正確には華苗穂先輩に集中しているのが丸わかりだ。

 俺たちはコートを脱いで手に持つと向い合せに座った。お互いにコートを膝の上に乗せるとコーヒーカップに手を伸ばした。華苗穂先輩はコーヒーをブラックで飲み始めたけど、その飲み方は美しいというか優雅だった。普段のガサツな華苗穂先輩とは別人のような飲み方だった。

「・・・どうしたんだ?まさかお子ちゃまみたいに『コーヒーは飲めません』とか言わないだろ?」

「あ、いやー、そのー・・・」

 俺はミルクだけを入れ砂糖は入れずに飲み始めたけど、正直、今でも目の前にいるのが華苗穂先輩だというのが信じられない。この声は間違いなく華苗穂先輩だけど、本当は双子の妹や姉であって欲しいと本気で思っているくらいだ。

「・・・たいせいー、ひょっとして本気でボクに惚れたのか?」

 あまりにも俺が華苗穂先輩を凝視していたから、華苗穂先輩はまるで俺を揶揄うかのようにニコッとしてから喋り始めた。

「あー、いや、そうじゃあなくて、眼鏡を掛けた先輩は初めて見たので・・・」

「たしかに。普段はコンタクトだけど、今日はわざと眼鏡をしているからな」

「わざと・・・ですか・・・」

「それとも、普段通りの方が良かったのか?」

 そう言ってニコッと微笑んだかと思うと、華苗穂先輩はニットキャップと眼鏡を外した。

 あー、これなら広内金先輩だ。でも、先輩は再び眼鏡を掛けた。ニットキャップだけはコートのポケットに入れたので普段通りのボーイッシュな髪型だ。

「・・・先輩、もしかしてメイクしてるんですか?」

「・・・薄く、だけどね。それでも・・・いつもとは違う事をすると結構グサッとくるだろ?」

「へ?」

「まあ、それは冗談だ。本当はバレるのが嫌だから今日はコンタクトをやめて眼鏡をしてるに過ぎない」

「そうだったんですか・・・」

「だがなあ大成たいせい、君があんなメールを送ってきたからをクローゼットから引っ張り出してきたんだぞ」

「あんなメール?・・・ま、まさか・・・」

「そう、『先輩と素敵なデートをしたいので、できれば青葉あおばも真っ青になるくらいの女の子らしい可愛いお姿で登場してくれる事を期待しています』とか書かれてたからなあ」

「・・・・・ (・_・;) 」

 おいおい、青葉の奴、お前が余計な事を書いてくれたお陰でトンデモナイ状況になっている事が分かってるのかあ!?あー、でも今頃はカラオケに夢中になってるだろうから言っても無駄だな。

「・・・あのー、華苗穂先輩」

「ん?何だ?」

「コーヒー代、払いますよ」

「気にしなくてもいい、今日はボクが持つ」

「いや、それじゃあ」

「悪いが、小遣いだけで言ったら恐らく君とは1桁、いや、もしかしたら2桁、3桁違うかもしれないからな」

「はあ?」

「あー、そうかあ、今の生徒会メンバーの中でボクの素性を知ってるのは恵比島えびしまクンだけだったなあ」

「素性?」

らん先生を除いてボクの素性を知ってるのは恵比島クンだけだ」

「恵比島先輩が?どういう意味なんですか?」

「無理もないさ、恵比島クンのお爺様は・・・」

「『ラベンダー はた』校長ですよね。元々はイギリス系アメリカ人(作者注釈:イングランド系アメリカ人とも呼ぶ)で英語の講師として清風山せいふうざん高校に赴任したけど、日本人と結婚した時に日本に帰化して、同時に名前を『ラベンダー 畑』にしたというのは俺も知ってますけど、元の名前まではさすがに知らないですよ」

「そうだ。たしかに恵比島クンのお爺様は校長先生だ。だが、彼は同時に学校法人 桑園マルベリーガーデン理事長であるオサワ・トマム氏の実父である初代理事長ホロカ・トマム氏のだ」

「マジですかあ?俺は校長の孫だというのは知ってましたけど、初代理事長のだとは知らなかったですよ!」

「恵比島クンの父親はイギリス人と日本人のクオーター、母親はイギリス系アメリカ人と日本人のハーフという事になる。母方から見たら恵比島クン本人はクオーターになるけど、クオーターとハーフの息子だからちょっと複雑な血だな。ホロカ・トマム氏の長男が今の理事長オサワ・トマム氏だけど、ホロカ・トマム氏の二女の二男の二男が恵比島クンになるし、だいたい苗字が『恵比島』だから殆どの人が知らないに等しい」

「そうだったんですか・・・」

「んで、ボクのが、ホロカ・トマム氏がこの学園を作った時に個人で出資した人物さ。君も『広内金ひろうちがね 山遠矢さんとおや』という名前を聞いた事がないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る