広内金 華苗穂

第42話 大成、罰ゲームを宣告される

 俺と青葉あおばはいきなり後ろから話に割り込む形で声を掛けられたのでビクッとなって立ち止まった。しかもこの声は・・・

 俺と青葉はお互いの顔を見合わせた後、恐る恐る後ろを振り向いた。そこには・・・

「よお、会長!いつも通り駒里こまさとと仲良く御一緒にお帰りですかあ?」

 そう、そこには広内金ひろうちがね先輩がニコニコしながら俺と青葉を交互に見ていた。でも、明らかにコメカミがピクピクしている。

「か、華苗穂かなほ先輩!え、えーと、これはですねえ」

「会長!いや、串内くしない青葉!今日だけは先輩ヅラして説教させてもらってもいいか!」

「ゴメンナサイ!」

 そう言うと青葉は腰が直角になるくらいまで頭を下げて広内金先輩に謝った。当然だが俺も真っ青になって青葉に倣って腰が直角になるくらいまで頭を下げた。

「青葉!駒里!いっつもいっつも一緒に帰るとは校内の非リア充から見たら風紀を乱している以外の何でもない!よって、お前らは一緒に登下校する事を禁止する!」

「えー!華苗穂先輩、それだけは勘弁してくださいよお。それに私と大成たいせいは彼氏彼女じゃあないですから、リア充している当麻とうま君や双葉ふたばちゃんとは別ですよー。だからそれは筋違いですよお」

「うーん、たしかにリア充でないのなら風紀委員長としての職権乱用かもしれないなあ」

「そ、そうですよね!」

「じゃあ、一つ確認するが、間違いなくお前ら二人は単なる幼馴染で、それ以上でも以下でもないな?」

「もちろんです!この串内青葉、生徒会長として嘘は言いません!」

「よろしい!では、先ほどの発言は撤回する」

「「あ、有難うございます!」」

「その代わり、罰ゲームをやってもらう!」

「「罰ゲーム?」」

 俺と青葉は思わず顔を見合わせてしまったけど、一体、広内金先輩は俺たちに何をやらせるつもりなんだあ?

 広内金先輩はニヤニヤしたまま

「駒里大成!」

「はい!」

「明日の土曜日、ボクとデートしろ!」

「「はあ?」」

「青葉クンは単なる幼馴染だから駒里が誰とデートしようが止める権利はないよなあ。断っておくが、当然だが駒里に拒否権はない!!」

「えー、ちょ、ちょっと待ってくださいよお。華苗穂先輩と大成がデートするって事は、その、その・・・手を繋いだりとか、それに、それに・・・」

「おー、もちろんデートだから当たり前だ。駒里、いや大成!文句はないよな」

「えー!・・・分かりましたよ。デートすればいいんですよね、すれば」

「投げやりな口調でいうなー!君は今からボクの彼氏だ。年上の女性に対してそんな口調をするのは許さんぞ。分かったな!」

「はいはい」

「『はい』は1回だけ!」

「はい!」

「もちろん、気に入ったらそのまま付き合ってもらうぞ。当然、彼氏彼女として全校生徒に堂々公表するからな」

「「はあ?」」

「問答無用!」

「「はい!わかりました!」」

「それじゃあ大成、待ち合わせの時間と場所は後でメールするからねー」

 それだけ言うと広内金先輩はニヤニヤした顔で俺と青葉の前を歩いて行った。


 俺と青葉は広内金先輩の姿が見えなくなるまでその場で立っていたけど、広内金先輩の姿が見えなくなったら歩き始めた。

 でも、その間の青葉は今にも泣きだしそうな顔をしていた。

「たいせー、華苗穂先輩は冗談だよね、冗談で言ってたんだよね」

 青葉は必死になって俺に聞いてくるけど冗談なのか、俺には全くもって意味不明だ。

「あおばー、落ち着けよー。だいたい何を焦ってるんだ?」

「だってさあ、『気に入ったらそのまま付き合ってもらうぞ。当然、彼氏彼女として全校生徒に堂々公表するからな』って言ってたでしょ?もし本当に華苗穂先輩が大成を気に入ったら私はどうすればいいの?教えてよー」

「落ち着け!だいたい、広内金先輩が最後までニヤニヤしてたのは青葉も気付いただろ?もし本当に俺に気があるなら、ニヤニヤじゃあなくてニコニコだろ?言葉通り罰ゲームだと思って間違いないぞ」

「たいせー、でも本当に華苗穂先輩が大成の事を気に入ったらどうすればいい?」

「だーかーら、どうして青葉がそこまで気にするんだ?」

「そ、それは・・・とにかく、大成が華苗穂先輩の彼氏になったら逆に不幸になると思うから、ぜーったいに華苗穂先輩に気に入られないような態度を取ってよ、お願いだよ」

「不幸になる?広内金先輩が?」

「違うよー、大成の方だよ」

「はあ?」

「だってー、『災いをもたらす男』なんだから、ぜーったいに華苗穂先輩と付き合ったら大成は不幸になるからやめた方がいい、いや、そうに決まってる!」

「落ち着け!仮に俺が災いをもたらしたとして、不幸になるのは広内金先輩だぞ!俺が不幸になるっていう意味が分からない!!」

「あっ・・・  ^_^; 」

「だろ?何を焦ってたんだ?」

「そ、それは・・・とにかく、ぜーったいに華苗穂先輩と付き合ったら駄目だからね!」

「はいはい、分かりましたよ。広内金先輩の罰ゲームに付き合うだけだから心配するな」

「ホントにホントだよ、約束して」

「わーかったってばあ。それより特にみどりがこの事を知ったら大騒ぎになるから絶対に言うなよ」

「あー、忘れてたあ!たしかに最近の緑ちゃんは変よね。下手をしたら風紀委員長相手でも喧嘩吹っ掛けるかもね」

「そういう事だ。かえでだって内心は何を考えてるか分からないから、二人が暴れ出したら、それこそジイでもない限り止められないぞ」

「それもそうね」

「悪いけど、明日はうまく楓と緑を足止めしてくれ。俺は絶対に広内金先輩に嫌われるように振舞うからさあ」

「まあ、正直不満はあるけど、ここは大成を信用するわ。華苗穂先輩がどこへ行くつもりなのかは分からないけど、まさかキラキラちゃんの家へ押しかけてくるとは思ないから楓ちゃんと緑ちゃんと一緒に行くようにするよ。「朝から女の子だけで遊ぼう」って言えば多分楓ちゃんも緑ちゃんも、それにキラキラちゃんも賛成すると思うよ。まあ、カラオケこま犬とかに行くかもしれないけど、華苗穂先輩も超目立つであろう学校周辺でデートするとは思えないからねえ」

「広内金先輩がどこを指定するかは分からないけど、その連絡が来てから考えても遅くないはず」

「分かった。とりあえず今は帰ろう。それと多分ジイが待ってるわよ。それに鬼峠おにとうげ先生だけでなく目名めな先輩や浜中はまなか先輩も」

「ああ、そう言えばそうだな。とりあえずは一度帰ろう」

「そうしましょう」

 やれやれ、広内金先輩はイベントを用意してくれたなあ。マジで勘弁して欲しいぞ!


 でもなあ・・・何で青葉はあそこまで焦ってたんだあ?

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