青葉の父親・・・

第22話 大成、青葉の出生の秘密を聞く勇気を・・・

 青葉あおばはいわゆる私生児だ。民法では非嫡出子と書くらしいが俺はそこまで詳しくない。つまり青葉の母さん、藻琴もことおばさんはシングルマザーだ。

 大人の話になるので俺も詳しくは知らない。青葉が高校入試の時に俺にちょっとだけ教えてくれた。「私の出生届にはお父さんの名前が無い」と。

 俺が知ってるのはこれだけだ。当然だが青葉は自分の素性を話す事はしないし、青葉の爺ちゃんや婆ちゃんも教えてくれない。真実を知っているとすれば青葉の母さんである藻琴おばさんだけだろうが、おばさんも話す事をしない。恐らく、串内くしない家のトップシークレットなのだろうが、俺の年齢で青葉の出生の秘密を聞くのは恐れ多い事だ。とてもではないが聞く勇気もない。

 俺はもの心ついた頃から青葉と一緒にいた。お互いの母親同士がハイハイする前からの付き合いであった事や、お互いが仕事を持っていたというのもあるから、俺と青葉を一緒に遊ばせていた。いや、かえでみどりという双子の存在が俺たちと1歳違いという事が母さんの負担になっていたから、俺と青葉は串内家が預かっていたという方が正しいかもしれない。

 だから俺は青葉には父親がいないという事を幼稚園の頃から知っていた。もちろん、その事で青葉を問い詰めるような事は少なくとも俺が記憶している限りは無い。青葉が父親の話を俺にする事もなかった。逆に話すのをはばかっていたのかもしれないけど、そこは分からない。


「・・・たいせー、道場から帰ったらこの写真とDVDを一緒に見ようよ」

「写真?」

「うん。この封筒の中に入ってるのは写真のはず。おそらく中東のどこかで撮った写真が入っている」

「中東のどこか・・・」

「多分DVDも同じ。中東のどこかの戦場か難民キャンプで撮った物をヨルダンのアンマンから私宛に送ったと思うんだ。お父さんは戦場ジャーナリストだから」

「戦場ジャーナリスト?」

「・・・私が知ってるのはこれだけ。Shari Shiretoko つまりシレトコ・シャリというのはあくまでペンネームのような物で本当の名前じゃあない。お母さんもお爺ちゃんも、お婆ちゃんも本当の名前を教えてくれない。ただ、年に1~2回、こうやって送られてくるDVDや写真を撮ったのがお父さんだというのは以前にお母さんが教えてくれた事がある。それにこの文字は私も何度か見た事があるからシレトコ・シャリ本人の筆跡なのは間違いないよ。ニューヨークやパリ・ロンドンとかから送られてくる時もあるけど、そういう時は印刷されたシールのような物が貼られてるけど現地から送った時には手書きだから、今回も中東で取材した時に発送したと思うんだ。それに、お父さんが取材した映像や写真がテレビや雑誌に使われた事が何度もあるのは知ってる。でも、シレトコ・シャリは決して自分の顔を公表しない事でも知られているジャーナリスト。私が知ってるのはそれだけ・・・」

「そうか・・・」

「たいせー、ちょっと辛気臭い話になっちゃうからこのくらいにしようよ。それよりかえでちゃんとみどりちゃんが待ってるから行こうよ」

「あ、いっけねえ、忘れてた。緑の事だから『遅いぞ、バカ兄貴!』とか言いそうだよな」

「それもそうね。じゃあ、しゅっぱーつ!」

「はいはい」

 俺はさっきShari Shiretokoという名前を見た時にどこかで聞いた事がある名前だと思ったけど、青葉の話を聞いて思い出した。たしか中学1年の時だと思ったけど、衛星放送でやった、中東やアフリカの紛争を取材するフリーのジャーナリストやカメラマンを特集した番組を何故か青葉がわざわざ録画して俺に見せた事があった。その時に出て来たジャーナリストの名前の中で日本人として唯一人紹介されたのが『謎の日本人ジャーナリスト シレトコ・シャリ』だった。青葉の言う通り取材はNGだったが、彼が撮った写真や動画は世界中で高い評価を受けていると番組では言っていた。

 あの謎の日本人ジャーナリストが、青葉の父さんだったとは・・・。

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