女子高生と思春期の傷痕

有象利路

《若年性延長能力覚醒症候群》

 《若年性延長能力覚醒症候群》と呼ばれる奇病がこの国に蔓延して、既に十数年が経つ。

 思春期、即ち十代の少年少女に突如として発現するこの疾病は、罹患した彼らに通常では測り知れない――常識の枠外に在る――モノを授けた。

 念じれば物体が動く。触れたものを石にする。自在に空を飛ぶ――

 俗に言う超能力や異能の力が、そういったものに強く憧憬する年代の子供に現れたのである。


 それだけでも頭を抱えるような事案だが、更にこの《若年性延長能力覚醒症候群》を発症する原因として、発症者の情緒が極めて不安定であることが大きな理由の一つとして挙げられる。

 即ち、子供に特有の社会への不満や批判、親への反目と不信、将来に対する漠然とした不安・諦観等を強く持つと、この奇病はさながら天恵の如く彼らへ降って来るらしい。


 幼子に銃を持たせてはならない。

 それは、銃のもたらす結果を、幼子が全く理解出来ないからである。

 しかし、幼子とて引き金を引くだけの力があれば銃を撃てる。それで人を撃てば、人を容易く殺めることが出来る。

 言うなれば――《若年性延長能力覚醒症候群》に罹った彼らは、幼子であった。


 大人を軽く超えるだけの力。

 理不尽を黙らせることが出来る力。

 何かを変えられるかもしれない力。

 傲慢な我儘を通すに足る力。


 過ぎたおもちゃと言えば聞こえは可愛らしいが――事実として、殺人や強盗等を筆頭に、大小問わず反社会的な行動を取る少年少女の数は、現在爆発的に増えている。

 これは疾病だ。ならば、どこかで頭打ちになり、能力者はその数を減らしていくのではないか。

 そう希望的観測を持つ者が大勢居た。国家すらも、例外では無かった。

 だが、全てを嘲笑うかのように、年々この《症候群》に罹患する者は増加の一途にある。

 これは疾病だ。しかして、人に伝染るものではない。

 伝染るものではないはずなのに――異能者は、異能者を、呼び水の如く次々と目覚めさせた。


 彼らは力の在り方を知らない。天から与えられたとしか思えぬその力を、ただ浅い考えの中で振り回すだけ。 

 やがて――何故か、いつしか、誰かが、どこかで、彼ら異能力者をこう呼んだ。


 《思春期ブルー傷痕スカー》と。

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