第11話 ピンチ弁当と偶然の出会い
咲子は悩んでいた。
どうしよう。
ろくな食材がないわね。
でもこういう時は常備野菜の出番だ。
ニンジンを細めの短冊切りにして、きんぴらを作ることにした。
油で炒めて、少しのお湯、かつおだし、三温糖、みりん、醤油、ほんのちょっとの塩で炒め煮にする。水分がなくなったらゴマをふって、ニンジンのきんぴらが一品できた。
拍子切りにしたジャガイモとベーコンを炒めて、メインのおかずにする。
冷蔵庫の煮卵もどきも二つに切って添えたら、食材がピンチな時用のお弁当の出来上がり~。
緑のものはきゅうりの漬物だ。ついでに梅干しもつけて日の丸弁当にしようかな。
朝ご飯はネギとソーメンの味噌汁に、昨日の残りのサバ味噌煮缶を食べた。デザートはヨーグルトのハチミツがけにした。
咲子はソーメンの味噌汁が好きなので、野菜が少ない時はよく作る。
つるんと食べられて、美味しいのよねー。
今日は買い物に行かなくちゃね。
村のスーパーは土曜日が五倍ポイントなので、たっぷりと買い物ができそうだ。
◇◇◇
学校が休みなので、図書館は家族連れのお客さまが多かった。
そんな訳で返却本の整理の仕事も多く、職場を出るのがいつもより遅くなってしまった。
たぶん品薄になってるよね~。
村のスーパーは、
それでも土曜日なので、平日ほど品薄ではないだろうと思い、咲子は自宅の方向に向かって車を走らせた。
スーパーの駐車場に車を止めた時には、まだたくさんの車が止まっていた。
やっぱり、土曜日はゆっくりしてる人が多いわね。
咲子は大勢の仲間がいることに安心して、店の中に入っていった。
ここは田舎なので夜が早いのだが、さすがに土曜日だとこんな遅い時間でも人出があるようだ。
今日は疲れたから、簡単に魚の塩焼きにしようかな~。
あった! こういう時はアジだよねー。
二切れや二匹でパック詰めしてあることが多いので、続けて食べると飽きてしまうため、滅多に魚は買わない。でもアジは安いし、味を変えて食べられるので、夕食とお弁当のおかずを兼ねて、月に一度ぐらい買うことがある。
それと野菜の煮物かな。カボチャを買っておくか…。
後は豆腐と黒酢味のもずくがいいかも。
咲子がそんなことを考えながら買い物をしていたら、中西さんに声をかけられた。
中西さんの側にはどこかで見たことがあるような女の子が立っている。
…誰だっけ?
「こんばんは、お仕事お疲れ様です。」
「あ、こんばんは~。」
咲子たちが挨拶をしている時に、興味深々で咲子の方を見ていた女の子が「あっ!」と叫んだ後に「図書館のお姉さんだー!」と大声をあげた。
それを聞いて咲子も思い出した。
昨日、男の子と帰って行った常連さんじゃないの。中西さんだったよね。やっぱりうちの近くに住んでいる人だったんだ。
「なんだ
そうそう、更紗さんっていったよね。
ん? …中西さんって、私のことを咲子さんって言ってたっけ?
ああ、お母さんの
「ちょっと!
「バ、バカ! こんなとこで大きな声を出すな!」
「………。」
中西さん…彼女がいたんだ。
いるよねぇ、こんな優しい人。
思ってもみないことに、咲子はちょっとショックを受けていた。
ただのご近所さんだと思ってたけど、少しはいいなぁと思ってたんだ…。
咲子は自分を笑って、微笑みを顔に貼り付けた。
「あの…、失礼します。」
咲子はお辞儀をして、そそくさと二人の側を離れた。
その後、何を買ったのかよく覚えていない。
いつものように値段や品質などを吟味して、楽しく買い物をしたのではないことは確かだ。
馬鹿ね、咲子。
こんなことは学生の時に、何度もあったことじゃない。
恋愛には見切りをつけて、家を買ったんじゃないの?
でも社会人になってからはこんな経験もなかったので、久しぶりに落ち込んだ。
地味な私は、男性から見ると恋愛対象外なのよね。
わかってはいたんだけど…。
はぁ~あ、今日は疲れのダブルパンチだわ。
家に帰る頃には気持ちの整理も出来て、気分も持ち直してきていた。
ああ、もう!
今日はたっぷりとやけ食いして、寝ちゃおう。
咲子は、カボチャとニンジンと玉ねぎの煮物を作りながら、アジを一匹塩をふって魚焼きグリルに放り込んだ。
玉ねぎとニンジンを薄切りの千切りにして、細長いタッパーの中に入れる。そこに白砂糖、料理酒、酢,みりん、醤油、塩で甘酢のタレを作った。
もう一匹のアジは、塩コショウをふって小麦粉をまぶして油でトコトン揚げる。それを甘酢のタレが入ったタッパーの中にジュンと音がするぐらいの熱さのまま入れて、タレがからんだ玉ねぎ等をまとわりつかせて、アジの南蛮漬けにしておく。
これは、明日のお弁当になる予定だ。
料理ができあがって、咲子が食べようとしていたら、外から「こんばんは!」という声が何度も聞こえてきた。
誰だろう?
…中西さんの声に似ている気がする。
「…はい。」
玄関で咲子が用心深い声を出すと、ドアの向こうからも遠慮がちな声が聞こえてきた。
「夜分遅くにすみません。中西哲也ですが…あの、ちょっとお話が…。」
いったい何の話があると言うのだろう?
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