第9話 水やりと厚焼き卵とパッチワーク
ガーデニングの本を読んでいると、植物への水やりは午前中の十時までにした方がいいと書いてあった。
夜に水やりをするとナメクジが発生しやすくなったり、根腐れをすることもあるそうだ。
咲子は夕方、家に帰ってから水をやっていたので反省して、今日から朝、水をやることにした。
自分が顔を洗った後に、二つの鉢と三本の苗に水をやる。その時に植物の様子を見て、ご機嫌伺いをする。キュウリとトマトとナスの苗は、やっと土に馴染んで落ち着いてきたみたいに思える。
今日は帰ってから支柱を立ててやろうかな。
枝を支柱や紐に「誘引する」というのをしなきゃいけないのよね。
朝ご飯は、ブロッコリーを茹でて、厚焼き卵を作った。
咲子の家の卵焼きは塩や出汁が効いたものだったのだが、高校生の時に友達に甘い卵焼きを一切れもらって食べてから、咲子はその卵焼きの味の虜になった。友達のお母さんに教えを請いに行ったほどだ。
今日もたっぷりとお砂糖を入れて、塩はほんのちょっぴり味をしめるためだけに入れる。卵は三個使うので、四角い卵焼き用のフライパンで焼くと、綺麗に厚焼き卵が出来上がる。
ポイントはフライパンにしっかりと油を馴染ませること。薄焼き卵の表面が乾く前に巻いていくことだ。大抵三回巻くと出来上がる。
ブロッコリーの方は茹でて、ザルでお湯を切った後、皿に盛り付ける時にキッチンペーパーでもう一回水分を取ることがポイントだ。こうすると食べる時に水っぽくならない。
ご飯、ジャガイモとワカメの味噌汁、厚焼き卵、ブロッコリー、それにヨーグルトをかけた黄桃の残りで朝食にした。
お弁当のメインは鶏もも肉と野菜の煮物だ。お弁当の底にマヨネーズを絞り出して、その上にブロッコリーをおくと弁当箱のフタが汚れない。その隣に残った厚焼き卵を詰めると緑と黄色で目にも鮮やかだ。
色に
ふっふっふ、綺麗だな~。
緑・黄・ピンク・茶…色とりどりの宝石箱やー!
ついつい食レポをする人の真似をしてしまった。
◇◇◇
昼過ぎから降り出した雨はだんだんと激しくなり、咲子が職場から帰る頃にはザンザン降りになっていた。
あーあ、これは今日は支柱を立てられそうにないな。その上、朝に水やりしたのって、何だったんだろう…。
気分転換にパッチワークの布を買って帰ろうかな。
咲子は今、ナインパッチという一番簡単な柄の真ん中に花の刺繍を入れて工夫を凝らしたベッドカバーを作っている。グリーンを基調とした布を集めては、付け足している状態だ。
今日はどんな布との出会いがあるかな~?
仕事帰りに図書館を出て、家とは反対方向に五分走ると手芸品店がある。
ここの店は品揃えがいいので、いつも中に入って見て回るだけでも楽しくなる。
布切れがたくさん並んでいるコーナーに行くと、前に来た時とは違った柄の布が増えていた。
おー、この緑の色って変わってる。小花柄は使いやすいよね。
あれもこれも欲しくなるので、一回に買う布切れは三枚までと決めている。
今日はこの三枚だな!
咲子は選んだ三枚の布を持って行って会計をしてもらった。
外に出て雨の中、駐車場へ走って行ったが、車に乗るまでにだいぶ濡れてしまった。鞄に入れているタオルで頭の上や手を拭いたら、出発だ。
景気づけに、大好きなフォークデュオのCDをかけて、道々一緒に歌いながら家に帰った。
今夜は雨が降って涼しいので、トマトスープを作ることにした。
鍋のお湯に入れた玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ、大豆の水煮、ベーコン、ローリエの葉一枚、コンソメの素五個をグツグツ煮込む。タイマーは十五分だ。
スープの具が煮える間に、買って来た布を四角に切っていく。
今日は真ん中に刺繍をしないで、赤色の布を入れてみるかな。
何枚か繋ぎ合わせたところでタイマーが鳴った。
スープの鍋にカットトマトの缶詰を入れて、砂糖、塩、粒胡椒、ケチャップで味を調える。このままもう少し煮込んだら出来上がりだ。
昨日のてんぷら粉の残りをビニール袋ごと冷凍庫に入れておいたのだが、それを出してきて、同じく豚こま肉も少しだけ冷凍庫から取り出して解凍する。
これと袋入り千切りキャベツの残りと卵一個で、お好み焼きを作る。長いもがないので、お好み焼き粉を少し足して衣の味を補った。
フライパンで焼いて、最後におたふくソースを塗って、鰹節をかけたら、残り物のお好み焼きの出来上がり~!
トマトスープもお好み焼きも、どっちも咲子が好きな物なので、少々ちぐはぐなメニューでも全然問題ない。
パリッと焼けた外側と中のふんわりモチモチしたお好み焼きは、残り物の寄せ集めとは思えない美味しさだった。
咲子はトマトスープの味にはうるさい。今日のようにすべての調味料のバランスが一発で決まると、嬉しくなる。
こちらも残り物のブロッコリーを加えて、山盛りいっぱいのスープをたいらげた。
あー、お腹いっぱい。
部屋にインストゥルメンタルの曲を流しながら、咲子はチクチクとパッチワークの続きを仕上げた。
なんだか肩が凝っちゃったな…。
咲子は紅茶を入れて、図書館から借りてきた本を読むことにした。
★ 畑のおうち 岡崎英生 著 株式会社 日本インテグレート 発行
これがものすごく面白かった。
クラインガルテンという共同の畑を田舎に借りて生活する、十二か月のお話だ。
楽しみと美味しさがいっぱい詰まっている本に、咲子はワクワクしてしまった。
今日は田舎の陽だまりの匂いに包まれて眠れそうである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます