第5話 ホームセンターとブルーベリーマフィン
仕事が早く終わったので、帰りにホームセンターに寄ることにした。
目的は草取り用の鍬だが、郵便ポストを取り付けるための太いネジ釘も買っておきたい。
二本もあればいいよね。
そして野菜用の支柱や剪定バサミ、トマト用の雨よけ、そして追肥をするための肥料が必要なことがわかった。
昼休みに、咲子が郵便ポストの取り付け方と野菜の育て方が載っていそうな本を検索していると、友人の
「咲子さん、なんだか急に所帯じみてきたみたい。やっぱり家と結婚するって言ってたのは本気だったの?」
「そうよ~。あ、あった。木工はやっぱり一階の生活の棚で、野菜は二階のノブちゃんとこにあるのね。」
「うん、そう。南の四列目ね。野菜や庭木の本は年度末に三列目から移動したの。」
「最近、二階に行ってないな。旅行用の本を探しに冬休みの頃に行って以来かも。」
「もー、児童書担当はへき地だねー。」
児童書や絵本は図書館の南の外れにまとまって置いてあるし、書庫も別だ。絵本の読み聞かせなどのイベントも多いため、全体会議や休憩の時以外は、なかなかこっちの本館棟に来る用事がない。
それに今までは図書館の本も、本館の一階の小説を借りることが多かったので、実用書の
二階の専門書か…世界が広がるな。
ホームセンターに着いて、園芸コーナーで草取り用の鍬と剪定バサミなどを買って、先に車に乗せておくことにする。
その後、ネジ釘を買って、観葉植物のコーナーをぶらぶらしていたら、ペット用品をカートいっぱいに乗せた男の人が咲子を見て、声をかけてきた。
「あの~。先日は、ごちそうさまでした。」
「あ、子犬の…。」
「
「ああどうも、私は
咲子が今住んでいる家は、中西さんのご両親が田んぼに建てた別れ家だと聞いている。おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなったので、家を売りに出されたそうだ。
この人はその田んぼの田植えをしてたんだから、中西さんの息子さんなんだろうか?
「いや、
「そうなんですか。…あ、それ。この間のワンちゃんのものですか?」
カートに乗せられているのは犬用の製品ばかりだ。
「ええ。結局うちで飼うことになりまして…。女の子だったので名前は『
「ハナコ、いい名前ですね。」
「あのう…、こんな機会もないですから聞いてもいいですか?」
中西さんはちょっと考えた後で、言いにくそうにそんなことを言った。
「…何でしょうか?」
「この間のケーキをおふくろに一個、食べられましてね…。美味しいから彼女に作り方を教えてもらってこいと言われたんです。彼女じゃないって言ったんですが信じてもらえなくて…。」
「はぁ…。」
「そのレシピというんですか? そんなのがあったら教えてもらえませんか?」
なんだ、そんなことか。
何を聞かれるのかと思っちゃった。
「いいですよ。でもうちに帰らないとわからなくて…細かいことを覚えてないんです。」
「だったら車の後をついて行きますよ。あ、すみません。まだ買い物がありましたか?」
「いいえ、もうすみました。ここのは来月に買おうと思って見てたんです。」
「観葉植物だったら、うちのを株分けしてあげますよ。鉢だけ買っといてください。」
「そんな…。」
「レシピのお礼です。」
中西さんの田舎の人らしいあけっぴろげな提案で、咲子は鉢を大小二つと観葉植物の土だけを買って帰ることになった。
◇◇◇
家に帰り、庭で待っているという中西さんに縁側に座っておいてもらって、咲子はブルーベリーマフィンのレシピを書き写していた。
☆ ブルーベリーマフィン(直径六センチ 九個分)
・ 薄力粉 二百グラム
・ ベーキングパウダー 小 一と二分の一
・ ベーキングソーダ 小 二分の一
(なければベーキングパウダーを小さじ二杯でよい)
・ 塩 小 二分の一
◎ バター 百五十グラム
◎ ブラウンシュガー 八十グラム
◎ グラニュー糖 七十グラム
◎ 卵 二個
◎ 牛乳 五十㏄
◎ ブルーベリー 適量
(ラムレーズンやクルミでも美味しい)
◎ グラニュー糖 大 一 (私は入れないです)
◎ キルシュ 大 一
(私はオレンジキュラソーを少し振りかけるだけです)
<作り方>
一 ボールにバターを入れ、ハンドミキサーでクリーム状に
よく練る。
二 一にブラウンシュガー、グラニュー糖を加えながら
擦り混ぜる。
三 二に卵を一個ずつ混ぜ、牛乳を加える。
四 三に上記の粉類をふるい入れ、さっくりと混ぜる。
五 グラニュー糖と、キルシュをかけて置いておいた
ブルーベリーを四に手早く混ぜ、マフィン型に
流し入れる。
六 それを百八十度~二百度のオーブンで
二十五分~三十分焼く。
咲子が中西さんにレシピを渡すと、中西さんはお礼を言ってその紙をポケットに入れながら、それはそうと…と切り出した。
「素敵な郵便ポストが出来てますが、柱に取り付けないんですか?」
「ああ、取り付けようと思って、今日ネジ釘を買って来たんです。」
「あれは二人いないと取り付けにくいでしょう。ポストを持っててくれたら、付けてあげますよ。」
咲子も三段ボックスを持って出て、本を重ねて、その上にポストを置かないと支えられないかなぁと思っていた。
その申し出はありがたい。
「それは助かります。ぜひお願いします。」
中西さんは男の人だけあって、キリでちょっと穴をあけただけで力技でネジ釘をねじ込んだ。
その作業の間、咲子はポストを支えてすぐ側に立っていたのだが、ついつい中西さんの筋肉質な二の腕をぼんやりと見てしまった。
身体が資本の農家の人だけあって、がっちりした筋肉がついてるんだなぁ。
「よし、できた。いい感じですね。」
「ええ、ありがとうございます。」
「それじゃあ、今度はうちについて来てください。車で五分もかかりませんから。」
今度は咲子が、中西さんの軽トラックについて行くことになった。
ほんのちょっとした知り合いだったのに、こんなことになるなんて…。
なんだか、不思議なご縁だな。
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