遊び
ノザ鬼
第1話 夏休み
それは、私が八歳の時の小さな大事件。
まだ、子供だった私は不満を爆発させる。
「どうして一緒じゃないの!」
「仕方ないでしょ、ミサキ。急なお仕事が入ったんだから…。」
なだめる母親もうんざりする程私はしつこかった。
その年は父親が長期の夏休みを貰えたので、避暑に家族全員で母の田舎へ行く計画だった。
出発直前、会社からの突然の電話で父親が行けなくなった。
「終わったら、直に電車で行くから…。」
困り顔で私に言う。
でも、両親を困らせるほど私は楽しみにしていた。滅多に無いお父さんと過ごせる休みに。
「夕方までには、終わるだろうから、直に電車で向かうよ。ミサコ。」
「判ったわ。ヒロキさん。」
「車の運転大丈夫かい? 長距離の高速道路は久しぶりだろ。」
「渋滞もまだ無いだろうから、サービスエリアに止まりながらゆっくり行くわ。」
笑顔で答えるお母さん。
「そうだね。ゆっくりと安全運転で。」
少し不安そうなお父さんの顔を今も思い出す。
荷物を車に詰め込むお父さんとお母さん。お土産やら、何やらで結構いっぱいになった。
「ミサキ、乗って。」
お母さんが私を促(うなが)す。
「お父さん、早く来てね。」
お父さんは笑顔で答える。
「終わったら直に行くからね。」
「約束だよ。」
「じゃ、先に行ってるわね。」
走り出す車に、見えなくなるまでお父さんは手を振っていた。
車が見えなくなると、
「さて、とっとと終わらせて行かないと、ミサキのご機嫌が治らないな…。」
胸の前で握った拳に力が入る。
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