第110話 帝国会議

 フェニはあっち向いてホイを覚えてから、暇があると俺にあっち向いてホイの戦いを挑むようになった。

 だが、狩猟本能があるので、どうしても勝てない。俺もいちいち戦勝の数を覚えてはいないが、負けた事は1度もない。

 それは俺以外でも同じであり、エリスやミュ、ネルとやってもいつもフェニは負けている。

 負ければ止めそうなものだが、それでも飽きずに戦いを挑んで来るので、さすがに可哀そうになってきた。

「シンヤさま、フェニが負けて負けても、『あっち向いてホイ』を挑んで来るけど、さすがに可哀そうになってきちゃった」

「エリスさまの言うとおりです。こちらの方が相手をするのも、気の毒な感じがしてきて…」

 ラピスの言葉に、他の嫁も同意している。

「なら、俺が負けてやろう」

「どうやって、負けるんですか?」

「俺にも自信はないが、これでうまくいくと思うんだけどな」

 俺たちはフェニが居るリビングにやってきた。フェニはいつもは、ここにある暖炉の中で、木を燃やしている。

 なにせ、火の鳥なので、マッチ要らずで火が点く。

 俺たちが入って来たのを見て、フェニが暖炉から出て来て、フェニ専用の鉄の止まり木に止まった。

「ピー、ピー」

 早速、「あっち向いてホイ」をやろうと言っている。

「今日は1回だけだぞ。いいか?」

「ピー」

 どうやらいいようだ。

「では、いくぞ。『あっち向いてホイ』」

 俺は右手の小指を出した。

 すると、フェニはその小指に釣られて、右側を向く。

 だが、俺は小指にちょっとだけ遅れて、人差し指を左側に出し、小指を引っ込めた。

 フェニは思惑どおり、右側を見たままだ。

「あっ、フェニに負けた。フェニの勝だ」

「ピーピーピー」

 フェニが高らかに鳴き、翼を羽ばたかせて、部屋の中を飛び回る。もう、壁にぶつからないかという勢いだ。

 フェニは飛び終わると、再び止まり木に戻って来た。

「ピー、ピー」

 再戦をしようというのだろう。

「さっき、1回だけと言ったじゃないか。今日は負けたからもうしない」

「なら、私がしてあげる」

 エリスが相手をするようだ。

 エリスも俺と同じようにやって、フェニに負けた。

 すると、フェニはまた喜び、部屋の中を飛び回る。そうやって、嫁たち全員と「あっち向いてホイ」をして、全勝した。

 フェニは何度、部屋の中を飛び回っただろう。今日はフェニにとって、最良の日になった事は間違いない。


 俺たちはエマンチック国に滞在していた訳だが、それでもちょくちょくエリスの転移魔法で、エルバンテにも帰っている。

 国の運営は宰相に任せているとは言え、俺がやるべき仕事はたくさんある。

 今日はそのうちの一つ、帝国会議の日だ。これは宰相から皇帝である俺に、現在の帝国の現状報告と課題、それに解決策が示される。

 俺が煌びやかな会議室に入り着席すると、会議テーブルの周りに立っていた、宰相以下、各大臣と各方面の代官が着席した。

「それでは、私の方から全体の報告を行い、その後、各大臣および各代官からの報告となります」

 宰相のカウバリーが準備した資料を読み上げる。それに続いて、各大臣もそれぞれの分担に関する資料を読み上げた。

 次は各代官からの報告だ。

 西部方面の代官はシュバンカだ。こちらは昔のカーネル国を中心とした領地になるが、今ではエルバンテの統治が行き届いており、大きな問題となるような事はない。

 次は南部方面の代官であるヘドックが報告する。こちらも夏場のタイフーンが来ているが、災害対策も進んでいるので、今のところ大きな問題となっている事はないとの報告だった。

 次は北部方面代官のエミールだ。

 エミールは代官の中で一番若く、しかも新たに領地に加わった所の代官を努めるので、手腕を疑問視する声もあったが、今のところ、無事に治めている。

「以上のとおり、交通機関の整備と道路の整備は急務となっています。また、空港、港については、建設が終了したものの、そこへのアクセスが悪い状態です」

 エミールの治める北部地方は、新らたにエルバンテに加わったばかりで、それだけでも難なく治めているのは評価に値するだろう。

 最後は東部方面代官の「ナルディ・キロル」だ。

 この男は、最初の官僚試験で優秀な成績で合格した男だ。たしか、男爵家の次男坊で、エミールと同じようにジャーネル公の元で執事をしていたと聞いた。

 エミールとは同期であり、昔からの知り合いということだったが、エミールに聞くと良く知らないらしい。

 執事といっても多種の仕事がある。自分と関わらない人間は顔と名前は知っていても、そんなに深くは知り得ないということだろう。

「先の東部方面の不祥事につきましては、この場を借りて陛下に陳謝致します。この東部方面代官である私の責任でごさいます」

 謝罪から始まったナルディの報告は、これも資料に基づいて報告された。先のエマンチック国への介入問題はその後、無事に収束が図られた事で、今ではエルバンテに合併するのも時間の問題となっている。

「ところで、ケント・バークレイはどうした?」

 俺の名前を騙って、エマンチック国を侵略しようとしたケント・バークレイの事を尋ねた。

「ケント・バークレイは、現在、こちらの収容所にて収監しております。今後、裁判を行い、罪に服す事になります」

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