第52話 嫁たちのお仕事
ホーゲンとウォルフが先導して道を歩くと、通る人々が道を開ける。
「おっ、ホーゲン大尉とウォルフ大尉だ」
「ホーゲンさまとウォルフさまだわ。ポールさまはいないのかしら」
「すてき、こんな街中を気兼ねなく、お歩きになるなんて、なんて庶民的なのかしら」
「ほんと、偉くなると公用車を使うのに、気取っていないところがいいわ」
「ところで、二人の後ろをついて来る、あのオッサンは誰?」
21歳でこの世界に転生し、それから15年、36歳になったとしてもオッサンはないだろう。お兄さんと呼べとは言わないが、言いようがあると言うものだ。
「ほんと、でもそのオッサンの後ろの美女二人は?」
たしかに、ミュとネルは美女だ。
前をイケメン二人が歩き、後ろを美女二人が歩けば、この連中は何だと思うだろうな。
ましてや、その中心に居るのはオッサンだ。
いかん、いかん、自分で自分の事をオッサンと認めてしまった。
そんな市民の声を聞きつつ、俺たちは自分の家へと向かう。
「それでは、我々はここで失礼します」
軍宿舎の前で、ホーゲンとウォルフが言って来た。
二人は軍の宿舎に家族といっしょに居る。
「ああ、サリーとカリーにもよろしく、それと子供たちにもな」
「サリーとカリーに言うと、何で連れて来なかったと言うでしょうけど、兄さんも忙しいでしょうから、仕方ないですね。
それと子供は、まだそんな事は分かりませんよ」
「そうだな、ははは」
ホーゲンの子供は、まだ生まれたばかりだ。
俺たちは夕闇の中を歩きだした。
「ご主人ま、自宅まではまだかなりありますが、このまま歩きますか?」
ミュが、聞いて来た。
「そうだな、お腹も空いて来たので、ジェコビッチさんでも呼ぶか」
ミュがジェコビッチに電話をしているが、それほど時間も掛からずに車が来た。
「ジェコビッチさん、速いな」
「お館さまが、街の方へ行ったと侍女から聞きましたので、もしかしたらと思い、こちらの方で待機していました」
「さすがだな。ジェコビッチさんは秀吉みたいだな」
主人である信長の草履を懐で温めておいた話を思い出したので、言ってみる。
「秀吉とは?」
「ああ、悪い。俺の世界で、主人の草履を温めておいて出世した人だな。そして、最後には国の皇帝になった人物だ」
「私は、お館さまに代わって、この国の皇帝になろうなどと、些かも思っていません」
「まあ、そういう昔話だ」
「でも、我々にとっては未来の話です」
そう、ここは俺の居た2017年より1億8千万年前の世界だ。
ジェコビッチの運転する車で自宅に戻ったら、既に嫁たちは帰って来ていた。
今夜も全員で夕食を採り、今日あった事を順番に話していくのは、俺の家のルールというか、そうなってしまっている。
エリスは学院での医学部の講師のことを話すが、さすがに医学を目指す学生は優秀な者が多いらしい。
ラピスは元公主邸で、俺に代わって貴賓客のもてなしの話だ。俺が貴賓客に会うのを嫌がっているため、代わりにラピスが対応してくれている。
エミリーは国防学校で剣術指南をしてきたが、アシュクを超える使い手は出てきていないらしい。
「アシュクはそんなに上達したのか。しかし、ホーゲンやウォルフ、ポールはそのランキングには入っていないのか?」
「彼らは、三獣士と呼ばれて、ランク外とされています」
そうだったのか。
マリンは演劇場で公演したそうだが、結婚したのにまだまだ人気が高く、公演は大入り満員だったそうだ。
貰った花束がトラックで運ばれ、届けられた花束は自宅のロビーに置かれていた。
「あの花束はどうするんだ?」
「うーん、侍女にあげちゃおうかな」
それだと、名古屋の喫茶店の開店時みたいになっちゃうんじゃないか?
頭で思っても、声に出してはいけない事は、今までの人生経験で十分に分かっている。
最後はネルだ。
ネルは、献血に行って、俺の血を飲んだ事を嬉しそうに話した。
その話を聞いた他の嫁は顔が引き攣っている。
「だ、旦那さまの血を飲んだのですか?」
ラピスがネルに聞いてきた。
「ええ、そうです。また半年後にも、連れて行ってくれる事を約束して貰いました」
ネルは、いかにも半年後が楽しみと言った感じで話す。
「シンヤさま、本当にいいの?」
今度は、エリスが聞いてきた。
「まあ、献血だと思えばいいかなと思って」
「それでは、ネルは、ご主人さまの精はなくてもいいんじゃないでしょうか?」
ミュがネルに言う。
「いえ、それはそれ、これはこれという事で…」
「ところで、北の国の事だが、気温が上がってきているらしい。エリスの知識では、これから徐々に地球は寒冷化に向かうはずなので、寒くなるハズなんだが…」
「寒冷化になると言っても毎年寒くなっていく訳じゃなく、暑い時もあれば寒い時もあって、それが長い年月を見れば寒くなっていくという事」
「だが、それまでは毎年寒くなっていたみたいだ」
「もしかして、オーロラを倒した事と関係あるかもしれません」
そう言ったのはミュだ。
「オーロラと?」
「彼女の魔法で極地の寒冷帯を南の方に持ってきていたのかもしれません。もし、そうだとすると、これから気温が上がっていく事が予想されます」
「ミュの意見に私も同意するわ。寒冷化になるといっても、たしかに温かい地域が南に寄り過ぎていて、ちょっと不自然だったもの。
それが元に戻るかもしれない」
「そうなると、エルバンテはどうなる?」
「うーん、亜熱帯になるかもしれない」
そうすると、ダリアンの辺りが日本と同じ緯度になる。
「そうすると、もう少し北の方へ首都を移した方がいいかもしれないな」
「シンヤさま、遷都をするという事?」
「それも案の一つだ」
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