第51話 異変
相変わらず、朝になると嫁たちは仕事に行く。俺は、決まった仕事のないミュとネルを連れて、セントラルシティにある軍の中央司令部に行く。
軍庁舎に入ろうとすると、ビルの入り口に立哨している兵士2名が入館を制止してきた。
「どちらの方へ行かれますか?」
「スパロー提督のところへ」
「提督はお忙しい。面会の予定がありますか?」
「いや、入館許可証は持っているから」
俺は金色の縁取りのある入館証を撮り出し、提示しようとした時だ。
立哨していた兵士2名がいきなり敬礼した。
不思議に思っていると、俺たちの後ろからホーゲンとウォルフが歩いて来る。
「こ、こら、ホーゲン大尉とウォルフ大尉であらせられるぞ。跪け」
それには構わず俺たちは立っている。
「こ、こら早くせんか」
ホーゲンとウォルフが俺たちのところに来たと思ったら、二人が跪いた。
「「ぎょ???」」
いかにもそんな声が聞こえたような気がする。
「皇帝陛下には恙なく…」
「ホーゲン、ウォルフ、スノーノースの方はいいのか?」
「その事の報告もあって一時帰還しました」
「そうか、なら提督室に行くか」
「はい、それではご案内しましょう」
二人の兵士は、固まったままだった。
俺とミュ、ネルはホーゲン、ウォルフと一緒に提督室に行くが、廊下を歩いていると、すれ違う人が敬礼をしていく。
特に女性軍人は、ホーゲンとウォルフを目を輝かせて見ている。
俺たちは秘書室の前に着くと、応対に出た秘書官に提督への面会を求めた。
「こ、皇帝陛下!」
秘書官ともなると俺の顔を知っている。それがいきなり俺が現れたものだから、驚いている。
直ぐに提督室の扉が開けられ、俺たちは部屋に入った。
「皇帝陛下、良くいらっしゃいました」
スパロー提督が応接椅子に案内する。
「いや、スノーノースの件でホーゲンとウォルフから報告があるそうなので、直ぐに会議室に移動しよう」
スパロー提督は秘書官に言って、直ちに会議室に高官を集めるように指示を出した。
俺たちも出されたお茶を飲むと、提督と一緒に会議室に移動する。
会議室に入ると、既に呼ばれた高官が並んでいる。
「さすがだな、呼び出してから10分ぐらいしか経っていないぞ」
「陛下、軍は迅速が肝心です。10分で集合できなければ、部下に指示も出せません」
高官の中の一人が言う。
「それでは、スノーノースの報告を頼む」
スパロー提督が、ホーゲンとウォルフに発言を促した。
「スノーノースは官僚が入った事もあり、新しい行政に戸惑いつつも住民は問題なく過ごしています。
ダリアンについてもスノーノースよりは遅れておりますが、こちらも問題は発生していません。
ただ、現在、おかしいと思われる事は気温です。
住民が言うには、いつもの夏より暑いというのです。
そのおかげで、作物の成長も良く、例年にない豊作となる予定ですが、あまりの気温の変化に住民は戸惑っています」
俺たちが北の国に行ったのは春だった。それが今では初夏なので、ここエルバンテでは過ごし易いが、北の国はまだそれほど暑くないはずで、朝晩は寒いはずだ。
「気象がおかしいという事だな。ところで、ネルエランドの方は動きはあるか?」
スパロー提督が聞いた。
「今のところ、大きな動きはありません。既にスノーノースとダリアンがエルバンテに組み入れた事は知っていると思います。
防衛に出るか、それとも攻めて来るか、衛星で分かりませんか?」
「衛星による監視はしているが、こちらの方も何も分からない状態だ」
「そうですか、では、何かありましたら、直ちに連絡をお願いします。こちらは取り敢えず防衛を固めようと思います」
「うむ、レイド将軍にもそのように言ってくれ」
「「はっ」」
ホーゲンとウォルフが敬礼した。
「ところで、陛下はいつ向こうへ行かれますか?」
「2,3か月こちらでゆっくりするつもりだったが、気象の事が気になるな」
「…と、言いますと」
「いや、実はこちらに帰ってきて、例年より暑いと思ったんだ。ここは空調が効いていて外の気温は気にならないだろうけど、さっきまで外を歩いていた俺は、ちょっと汗ばむほどだった」
俺の言葉に他の将軍たちも頷いている。
「確かに、例年より暑い夏になりそうですが…、陛下は何を懸念されています?」
「エリスの知識では、地球は寒冷化に向かっているという事だ。なのにここに来て暑くなるというのはどういう事なんだろうと思って」
「うむ、ですが、寒冷化が進まないということは、穀物の育ちが良くなるので、困らないと思いますが…」
「宰相たちとも相談してみるか。カウバリーに宰相官邸に大臣たちと気象長官、それとスパローも集まるように指示を出してくれ」
「時間は?」
「明日の夕方6時としよう」
「陛下、我々も同席してよろしいでしょうか?」
ホーゲンが聞いてきた。
「お前たちが持って来た情報だ。お前たちが出ないと話にならないだろう。
それまでは、家に帰ってサリーとカリーに顔を見せてやれ」
「あっ、いや、兄さんそれはここで言う話ではないかと…」
「ウォルフ、ここでは陛下と呼べ」
ホーゲンがウォルフを窘めた。
「はっ、申し訳ありません」
ウォルフがそれに答える。
「俺たちは、街をぶらついて帰るつもりだが、どうだ、付き合うか?」
「あっ、いいですね。家に向かう途中ですから、我々もご一緒にしましょうか」
「二人が一緒に来てくれれば、俺に手を出そうとするやつもいないだろうから、心強いな」
「それじゃ、行くか」
「「はい」」
俺とミュ、それにネルと一緒に、ホーゲンとウォルフも軍服姿で軍の庁舎を出た。
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