第35話 鳥人の情報

「そ、その方はもしかして、女神さまでは…?」

 エリスを見てそう聞いてきた。

「ええ、その通りです」

 俺が答える。

 その言葉に鳥人たちが土下座の状態になった。

 そして、今度はビビを見て、目を丸くしている。

「そ、それはペガサスでは…?」

「ええ、そうです。ペガサスです。我々はビビという名で呼んでいます」

「おおっ、寿命が10年延びるかもしれない」

 その言い伝えって鳥族の言い伝えだったのか?それが、広まったのかもしれない。

「あなたさまの肩に居る、その赤い鳥は……」

「これは不死鳥のフェニです」

「…」

 鳥人が黙った。しかし、長老が、おずおずと聞いてきた。

「あ、あなたさまは一体何者ですか?ネルエディットさまのご主人でありながら、女神さまも妻にし、更にペガサスや不死鳥まで手名付けていらっしゃる。

 それにこちらの黒髪の女性、この方も先ほど翼を出しました。普通の人とは思えません。ですから、あなたも普通の人とは思えません。」

「いえ、私は至って普通の人族です。ちょっと黒髪というのだけが、変わっていますが」

 黒い鳥人は髪が黒いので、ここでは髪の色が黒くても特に違和感はないが、普通の人族には髪が黒色の人はほとんどいない。

「…」

 鳥人たちは、黙ったが、納得した顔はしていない。


 その後、長老に連れられ、この家を案内して貰うが、奥の方は広くてさらに隣の家と繋がっている。

 これは、敵の攻撃を受けた時に、他に逃げれるようになっているとのこと。

 そして、まだ、奥の方に穴を掘っているということだ。


 鳥人たちの話を聞いて、ミストラルとアセンの事を思い出した。ミストラルとアセンの先祖ももしかしたら、この国から逃げて来た人たちの鳥族だったのかもしれない。

「私の国にも、黒い鳥人と白い鳥人が居ます。黒い鳥人の先祖はこの国から逃げてきた人たちかもしれません」

「なんと、そうでしたか。その方たちはどうしていますか?」

「普通の生活をしています。女性はミストラルと言いますが、私の秘書をやってくれています。

 旦那さんのアセンは農学者として修業中です。娘さんは今度、学院を卒業するのかな?進路はどうするか、エリス聞いているか?」

 いきなり振られたエリスがびっくりしている。

「えっ、いえ、聞いてないわ」

「なら、画像通信で聞いてみるか。エミリー準備を頼む」

 エミリーが、外に近いところに画像通信装置をセットし、ミストラルたちを呼び出して貰う。

「お館さま、お久しぶりでございます。そちらはいかがですか?」

「ああ、久しぶり、こちらはかなり涼しいよ。ところで、紹介したい人が居るので替わる」

 鳥人の長老が俺に替わった。

「私は鳥族の『ララバード』という者だ。お初にお目にかかる」

 同じ黒色の鳥人を見て、ミストラルがびっくりしている。

「私たちと同じ人種を初めて見ました。既に同じ鳥族はいないものと思っていたので」

 ララバードが、500年前の事についてミストラルに話す。

 ミストラルも古い言い伝えで、同じ事を聞いた事があると言う。

 どうやら、鳥人の話は間違いではないようだ。

「どうやら、我々はシンヤさまと協力していった方が良いと思う。そのことについて、族人には私から言おう」

「もし、良ければ、南の我々の国に来ませんか?ここには何人ぐらいの方が住んでいるのでしょうか?」

「ここには約700人が居る。そして、南の国に行く件について、協議させて貰いたい。

 正直、この地の冬はかなり厳しい。食料も年によって豊作の年と凶作の年があり、凶作の時は悲惨な状況になる。

 それを考えると、南の地へ行く事も吝かではないと思う」

「では、これを置いて行きます。私との連絡用です。決まりましたら、連絡下さい」

 俺は、衛星電話を渡した。


 長老のララバードにスノーノースについて知っている情報を貰うが、スノーノースの情報はそれほど多くないようだ。

 その結果、スノーノースの王宮はここよりも更に北にあり、そこは夏でも雪が溶けないところという事だ。

 だが、国民はその王宮より、かなり南の方で生活していて、そこには王はいないらしい。王は寒い王宮を離れないということだ。

 政治は宰相が行っていて、必要な時だけ王に伺いを立てるらしい。

 そこはダリアンと似ている。まさか、スノーノースも女王でバンパイヤなんて事はないだろうな。


「長老、ここからスノーノースに行く道は、どのように行けば良いですか?」

「ここより、スノーノースに行く道はありません。この山を下りると、また草原になります。その草原の先はまた山になりますが、山の高さはそれ程でもなく、斜面もなだらかです。

 歩いて越えれない事はないと思います。

 ただ、我々もその山より先は見た事がありません。恐らく、山の向うがスノーノースだと思います」

 この先の草原と更にその先の山は、少なくとも越えなければならないようだ。


 その夜は鳥人たちの歓待を受け、翌朝、村を後にした。

 鳥人たちが草原に出るまで見送りに来てくれ、そこで別れる。

「ララバードさん、決意が固まりましたら、連絡を下さい。その時は陸亀ホエールという空を飛ぶ鮫を寄こします。それに乗って我が国にお越し下さい」

「いろいろとありがとうございます。それでは、この先お気をつけて」

 GPSを確認すると、この先真っすぐを差している。やはり、先にある山を越えなければならないのだろう。

 GPSで示された距離は約200km。200kmの草原が続く事になる。

 キチンの足だと、2日ほどの距離になる。

 鳥人たちと別れた俺たちは、草原に踏み出した。

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