第33話 スノーノースへの出立
「まあ、可愛らしいお嬢さん方、よろしくね」
ホノカたちは可愛らしいと言われて、満更でもないみたいだ。
「そ、そうですね。新しいお母さん、今後ともよろしくお願いします」
だが、そこにはタケルの姿がない。
「タケルはどうした?」
「多分、魔石研究所へ、キューリットさんを訪ねていると思います」
「キューリットの所へ?」
「ええ、最近タケルは魔石に興味を持ってきて、何かあれば直ぐにキューリットさんの所に行くんです」
三姉妹が交互に説明してくれる。
「タケルにもネルの事を話しておいてくれ」
「お父さま、分かりました。ちゃんとタケルにも言い聞かせておきます」
「すまないが頼む。多感な時期だから特に注意してくれ」
「私たちだって、多感な時期です」
最近、大人になってきて、口が達者になってきた。小さい頃は親の言う事をよく聞いたのに。
ラピスにそんな事を言ったら、口に手を当てて笑われた。
「ほほほ、そう言えば、あの頃は私もお父さまに口答えをしていましたわ」
その話をネルが聞いている。
「羨ましいわ。私には親というものが、いなかったので、家庭というものを知りませんでしたから…。せめて父親だけでもいたら、違っていたかもしれない」
その言葉に他の嫁たちがしんみりとしている。
両親が分からないのはマリンだが、マリンにはサリーが居たし、ホーゲンたちも居た。
孤児だったが、兄弟として育ってきたので、一人ではなかった。
エリスはクローンだが、その元は前の女神エリスだ。前のエリスが母親と言ってもいいだろう。
だが、ネルはどうして生まれたかさえ、自分で分からない。
王都を出て、北へ向かう道を全員で進む。
ラピスだけはペガサスのビビに乗っているが、それ以外はキチンに乗っている。
だが、ネルのキチンはなかったので、どうしたかと言うと、ソーチャが渡してくれた箒に乗っている。
箒に乗っているといっても跨っているわけではなく、腰掛けているという感じだ。そこのところは、やはり女王の振る舞いなのだろうか。
北へ向かいながら、ネルといろいろと話をする。それは嫁たちも興味のあるところだろう。
何故、ネルが女王になったかというと、昔からネルの国では不老不死になる薬があるという言い伝えがあったらしく、それを狙っていろんな所から攻められていたということだ。
そうなると、軍が通る村は蹂躙されることになる。それに対抗するために国として、建国することになったらしい。
そして国王を誰にするかという時にいつも強い魔法で敵を撃退してくれたということで、ネルが国王になったらしい。
だが、ネルは死なない。それが返って不老不死の薬のためだという事になって、他国からの侵略に繋がっている。
今回、ネルがダリアン国を出た事で、他国から狙われる理由はなくなった。これは国民としては有難い事だろう。
そして、その事を気にしていたネルにとっても、戦争の種の自分が居なくなったので、気が楽になったのではないか。
「ところで、ご主人さま、いつかはご主人さまの血を飲ませて下さいませ」
「「「「「却下」」」」」
ネルの提案は嫁たちによって却下された。
俺たちは北への道を歩いていたが、そのうち、道もなくなった。だが、それからは緑の草原を歩くことになり、気持ち良い。
今の時期は夏だが、北の方に来ているためか、気温もそれほど高くなく、草原を渡る風が涼しい。
時々、魔物の肉食うさぎやグレイウルフが群れで出て来るが、そんなのは俺たちにとっては雑魚だ。
退治しては、魔石を回収しつつ、先に進む。
ダリアンの王都を出発して、20日目、GPSを確認すると山脈が切れるところになっている。
現地に着くと、完全な平地になっている訳ではなく、やや高い丘のようだ。
俺たちはその丘へ向かうが、ここに来て川幅200mぐらいの大河が流れていた。
川原に降りて休憩しつつ、反対側に渡る方法を考えてみる。
「やっばり、カイモノブクロを使うか」
「そうね、それが一番手っ取り早いわね」
俺の意見にエリスが同意する。
「グルル」
思わずその声の方を全員が見た。
その先に居たのはホワイトパンダだ。
ホワイトパンダは、昔魔物の森で見た事がある。狂暴なやつで動きも俊敏だ。
ホワイトパンダがこっちに向かって来た。
「ゴットアロー」
俺がゴッドアローを射ると、光の粒子の矢がホウイトパンダの額に吸い込まれ、ホウイトパンダはその場に倒れた。
普通の矢なら、ホワイトパンダの皮膚は貫通しないが、キューリットが開発した魔石を使ったゴッドアローは、苦も無く魔物を倒す事ができる。
しかも、目標を絶対外さない。矢の腕が下手な俺でも命中する優れものだ。
ミュが走り寄って、ホワイトパンダから魔石を回収する。
河原で、キチンをカイモノプクロに入れ、そのカイモノブクロを俺が持ち、俺をミュが抱えて、反対側の岸に飛んで貰った、エミリーはラピスと一緒にビビに乗り、マリンは川を泳いで渡った。
河原について、出立の準備をしていると、草の中がガサガサと音がする。
その音のするところを注視していたが、出てきたのは黒い鳥人だ。
それは、ミストラルと同じ人種かもしれない。
「俺たちは怪しい者ではない」
言葉が通じるか不安だ。言葉が通じないと、いきなり敵と認識される可能性がある。
「そのまま動くな」
鳥人の一人が喋った。どうやら言葉は通じるようだ。
「我々は南の国から来た。ここを通過して、スノーノースへ行く途中だ。通して貰えないか?」
「ここは我々の国だ。通す事は出来ない」
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