第14話 フェニのピンチ
俺たちは王都に凱旋した。
凱旋した軍の先頭を行くのは、ヒキアベックス軍だ。
いかにも自分たちが、敵を倒したような勢いで進んで行く。
王都に到着した軍は、解散式を行い、兵士は帰宅する。だが、将軍たちは国王に拝謁して戦闘の報告をしなければならない。
報告を行うのは、総大将であるノンデイル将軍だ。
「我々は夜に到着しましたが、一人松明を2本持つことによって、応援の兵士が2倍の10000人来たと見せ、相手方を心理的に揺さぶりました。
翌朝、シンヤ殿が城壁の上の弓兵を魔法で全滅し、門を破壊してくれたので、我々が突入し、宰相派を殲滅することができました」
「ノンデイル将軍、ひとつ忘れている事があるじゃろう」
「は?、何か忘れておりましたでしょうか?」
「たしかに門を破壊したのは、そのよそ者たちだが、正門は既に我々の攻撃で脆くなっていたのです。
そこに、このよそ者が魔法を使ったので、崩れたに過ぎません。そこに我々ヒキアベックス軍が突入し、敵方を殲滅できたのです」
ヒキアベックス将軍が胸を張って、報告する。
戦闘に参加した他の将軍はそれを苦々しく聞いている。
「ヒキアベックス将軍、たしかに最初に突入したのは、貴殿の軍に間違いはないが、そもそも作戦では、我々の軍が先陣を切る手はずだった。
それにこちらの兵を倍に見せる作戦や、城壁の上の弓兵を倒したこと、正門を破壊したのは、シンヤ殿たちではないか。
自分だけの功績を誇るのは、やり過ぎというものだろう」
「人族なんぞ、何をやろうが、手柄には入らん。
それにお主も我々が先陣を切ったと認めたじゃろう」
「だが、それは命令違反だ」
「我々の手柄が大きいので、妬いているのではないか?」
「何?誰が妬いているだと」
「なんじゃ、剣で勝負しようと言うのか?」
「もう、止めよ」
そう言ったのは、国王だ。
「お主たちの会話で分かった事が一つある。それはシンヤ殿たちが居なかったら、宰相たちを倒す事が出来なかったという事だ。
そうだな、ノンデイル?」
「はっ、その通りでございます」
「では、今回の論功行賞は追って沙汰をする。
シンヤ殿それでいいかの」
「はい、それで結構です」
その場はそれでお開きとなり、俺たちはキチンの給餌小屋の隣にあてがって貰った家に帰った。
家で寛いでいるとエリスが話し掛けて来た。
「シンヤさま、国王たちはこれからどう出てくるかしら。それと、あのノンデイル将軍とモークレア将軍って信用できるのかしら?」
「ニードリアンとムーギリアンの討伐にも俺たちの力を借りる事になるだろうな。
ところで、ラピス、あのノンデイルとモークレアの心は読めたか?」
俺の問いにラピスが答える。
「モークレア将軍は嫉妬が渦巻いています。もしかしたら、ヒキアベックスを暗殺するために、旦那さまの力を借りに来るかもしれません。
ノンデイル将軍の心は正直分かりません。暗い闇があるようですが、余りにも暗くて心が読めません」
ラピスは人の心が分かる。それは読唇術と言っていいものかもしれないが、ラピスに聞いてもなんとなく分かるぐらいしか答えてくれない。
「ピー、ピー」
夜、寝ているとフェニが鳴いた。
俺たちは直ぐに起きると、頭に置いていた剣と拳銃を取った。
天井から吊るしたLEDランタンをリモコンで点けると、そこには黒い衣装に黒い覆面をした賊が5人、フェニを攫おうとしているのが見えた。
「ゴッドチェーン」
俺が叫ぶと、手に持った15cmほどの筒から光の粒子が出てロープのようになった。
そのロープを賊に向かって投げると賊を包み縛り上げる。
だが、俺の力では5人の賊を掴まえておくことは不可能だ。
「ミュ、頼む」
俺はゴッドチェーンをミュに渡すと、ミュが賊を縛り上げる。
ミュの握力は片手で600kgの握力がある。賊5人ではどうにもならない。
縛り上げた族の覆面を取ると、そこには鼠耳を持った男たちが居た。
「さて、誰の命令でやったか聞きたいが、そう簡単に答えてくれないだろうな」
「……」
俺の言葉にまったく反応しない。
「では、ミュ頼めるか」
ミュが男たちの中の一人の目を見つめると、男の目の焦点が合わなくなってきた。
「まず、お前たちの目的は何だ?」
「その不死鳥を盗むこと」
「それは誰の命令だ?」
「ヒキアベックス将軍」
俺の質問に、すらすらと答える男を見て他の男たちが驚いている。
俺たちの横ではエリスがビデオを回しているので、後から惚けても言い逃れは出来ない。
「それで、不死鳥を手に入れてどうするつもりだ」
「もちろん、戦闘で使う。不死鳥は強力な武器になる」
「だが、フェニはお前たちの言う事は聞かないぞ」
「飴と鞭で、どうにか出来ると将軍が言っていた」
なんと、計画性のない事か。俺たちは呆れてしまった。
男たちは後ろ手に手錠をして、カイモノブクロの中に放り込んだ。
翌朝、国王の前で犯行を暴露させる事にして、俺たちは再び布団に潜り込んだ。
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