第12話 作戦
翌朝、公邸前広場に行くと、既に出兵の兵士たちが並んでいた。
鼠族の兵士が一番煌びやかな鎧を着けている。次が豚族、その次が鼬族の兵士だ。
一番質素な武具を持っているのは、猫族、犬族、猿族、うさぎ族などのそれ以外の兵士で、この兵団が一番多い。
これを見ると兵士にも階級があり、鼠族や豚族、鼬族以外は兵士として見て貰えないのだろう。
武器についても一番立派な物を持っているのが、鼠族だ。鼠族や豚族は馬に乗っているが、鼬族で馬に乗っている者は半分ぐらいで、それらの族以外は徒歩になっている。
このようなところにも種族による差別が伺える。
だが、この中に人族と虎族はいない。
俺たちが兵団の方に行くと、鼠族で一番立派な武具を付けた将軍らしき者が近寄って来た。
「お主たちは、たしか国王陛下の客人となった『シンヤ』とかいう者たちだな。
陛下も物好きに人族の力を借りようなどと。恐らく、兵士60人を全滅させたとか、猪牛の群れを全滅させたとか、程があるわい。
いずれにせよ、お前たちの実力、トンと見てやる」
将軍が言うが、俺は気にも留めない。
そこにノンデイル将軍がやって来た。
「ヒキアベックス将軍、彼らの敵に廻らない方が良い。そうでなければ、全滅するのは我々ですぞ」
「ふん、元々虎族であるお前に、この軍団の総大将を任せる事自体が気に食わんのだ。虎族のくせに我々鼠族に指揮しようなどと、恐れ多いわ。
国王陛下のお気に入りでなければ、儂がお前からその地位を奪ってくれるものを」
「将軍、我々は軍なのです。陛下の命令の元に動いている事をご理解下さい」
「お前なんぞに言われなくとも、分かっておる」
「よし、揃ったな出発する」
「「「出発」」」
各隊の隊長が出発の命令をすると、軍団が動き出した。
俺たちは、ノンデイル将軍の後方を移動する。
将軍の横には、常に2,3人の参謀のような鼠族が居て、ノンデイル将軍が何か言うたびに、その場から離れ、また戻ってくる。
恐らく何か、各隊への指示をしているのだろう。
そして、俺たちに噛み付いた、ヒキアベックスという将軍は遥か後方から自分の隊を率いている。
ノンデイル将軍の近くに居た、参謀連中が居なくなったところで、ノンデイル将軍が手招きして俺を呼んだ。
俺は将軍の馬に並ぶ。もちろん、俺の横にはミュが来た。
「シンヤ殿、恐らく今日の夜には到着すると思います。そうなると、相手を攻めるのは、到着後直ぐに攻めるのと、朝、陽が明けてから攻めるのとふたつ方法がありますが、どちらが良いと思いますか」
「今回、出兵したこの軍団の数はどれくらいですか?」
「5000です」
「10000で囲んでいるところに、5000が来る訳ですね。それで相手方は何人が立て籠もっているのでしょう?」
「相手は1000人ですね。だが、ニードリアンとムーギリアンの兵がどれくらい動いているかは分からない。既に到着している可能性もある」
「10000人で囲んで、1000人の城を落とせないのは何故ですか?」
「城が天然の要塞と言って良い位置にある。そこは崖の中ほどにあり、下から弓を射ても届かない。さらにそこに向かうには、正門を突破しなければならないが、その正門が高くて、しかも鉄の補強がしてあるので、火で焼こうにも焼けないし、正門に近づけば、矢で射殺される」
聞けば、かなり攻めるのが難しそうな城になっている。
「そこが個人の領地だったのですか?」
「いや、そこはもともと国王の物だった。万が一、王城が攻められた時、その城に逃げ込む事で籠城できるように強化したものだ。
だが、それが今回仇になった」
「なるほど、大体分かりました」
「それでシンヤ殿はどう考える」
「到着後、直ぐに攻めるのは兵士の体力、気力を考えると不利です。ですから、明日の朝攻めるのが良いかと思います。
ただ、相手の気力を削ぐために、兵士が多く到着したと思わせる方が良いでしょう」
「今回は5000人だ。それ以上兵士は増えないぞ」
「一人に2本ずつ松明を持たせます。それで倍の10000人に見えるはずです。
ニードリアン派とムーギリアン派もそれを見ると、攻めて来ないでしょう」
「なるほど、そういう手があったか。よし、それで行こう」
ノンデイル将軍は参謀に指示を与えると、参謀たちが四方に散って行く。
陽が落ちる前に草木を集めて松明を作り、一人2本松明を持って進行していく。
陽が落ちると、10000人の兵士が来たように見えるだろう。
俺たちは夜遅く、宰相派が籠城しているという城の前に着いた。
翌朝、明るくなると相手方の陣容が見えてきた。
かなり高い城壁があり、正面に大きな門がある。
その門は一見鉄製のように見えるが、それは木の門に鉄の養生がしてある門だ。
最も、こちらで鉄とは青銅のことを差すので、我々が考えている鉄に比べると強度は低い。
その先には、やや登ったところに城がある。
ここからの距離は約1kmといったところだろう。
「あの門を破るのに手こずっています」
現地の責任者である、モークレアという将軍が説明してくれる。
「ここは、シンヤ殿の意見を聞こうではないか?」
「人族の意見など、そんなの聞く必要もないわい、人数が増えたのだから、押せばいいだろう」
ヒキアベックス将軍の意見にノンデイル将軍やモークレア将軍も困った顔で見ている。
それが出来るなら、今こんな事にはなっていない。
「ヒキアベックス将軍、様々な意見を出して、最良の手を打つ、それが戦です。まずは聞いてみましょう」
ヒキアベックス将軍が黙った。
「あの門を破壊するだけなら簡単です。それは我々がやりましょう。
その後、突撃するのは、お任せしたいが、それでいかがだろうか」
「あの門、破れるのか?」
モークレア将軍が聞いてきた。
「ええ、出来ます。破った後は、モークレア将軍にお任せするという事で良いでしょうか?」
「分かった、門さえ破れれば、我々が突入する」
作戦は決まった。
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