第10話 ノンデイル将軍

「よし、俺がやる。お前たちは後方へ引け」

 見れば、隊長らしき男が剣を抜いて、こちらにやってくる。

「私が対応します」

 言ったのはエミリーだ。

「エミリー、任せる」

 体格の良い、鼠人の隊長が腰の剣を抜くと、かなり重そうな剣が現れた。

 その剣を軽々と構える。

「来い」

 エミリーは無言のまま、男に向かう。

 だが、エミリーの剣はレイピアなので、剣と剣がぶつかれば、軽いエミリーの剣は弾き飛ばされてしまう。

 この点、重い剣の方が有利だ。

「チン、キン」

 何度か、剣と剣が合わさるが、相手の鼠人もなかなかの使い手であり、エミリーといい勝負だ。


 再び、剣を交えようとした時だ。鼠人の男が粉をエミリーに投げつけた。

「くっ」

 エミリーが目を覆って、その場に蹲った。

「汚いぞ!」

 俺が相手を諫める。

「何を!これは命がけのやり取りだ。汚いも何もあるか」

 鼠人の男は剣を手に持って、エミリーの方に近づくが、その間に割って入ったのはミュだ。

「おいおい、選手交代か。それは汚いんじゃないか」

「目潰しを使う方が汚いだろう」

「これだって武器だ。武器は使う為にあるんだ。自分の武器を最大に使って何が悪い」

 男の言わんとしている事は理解できる。

 現代だって、相手より優れた武器を開発する事が、力関係で優位に立つ条件なのだ。

 優位な武器を持つ必要がなければ、核兵器なんかも出来なかっただろうし、現代でも剣だけの戦いで十分だったろう。

 この男が言っているのは、相手より優れた武器を持つという事だ。


「ヒール」

 エリスがエミリーにヒールをかけた。

 するとエミリーが立ち上がった。

「エミリー、大丈夫か?」

「はい、エリス姉さまのヒールで良くなりました。相手の人がそういう考えなら、こちらにも考えがあります」


「ほう、姉ちゃん、まだやるつもりかい。今度は手加減しねえぞ」

 男が剣を振りかざしてエミリーに斬りかかってきた。

「パン」

 鼠人の男の眉間に赤い点が付いている。

 それと同時に、男は前のめりに倒れた。

 エミリーを見ると、右手には拳銃が握られている。

「私だって、持っている武器を最大限に使わないと」


「く、くそー。引けー、引けー」

 兵士の中の誰かが叫んだ。

 兵士たちは、城の中に向かって後退して行く。

 俺たちはそれを眺めていたが、キチンに乗り、その場を離れようとした時だ。

 城の城壁の上から、矢が飛んできた。

 だが、エリスとミュの二重結界に全て弾かれる。

 見ると城壁の上には、びっしりと兵士が弓を持ってこちらを狙っている。

 そして、俺たちの前方と後方には兵隊が走り出てきた。

 俺たちは、囲まれた。

 その中から、一人の高身長の屈強な男がゆったりした歩調で歩いてくる。

 虎顔のいい男だ。身なりも颯爽としており、これは女にモテるに違いない。

 そして、背中には長剣を背負っている。


「あれが、噂の『ノンデイル』とか言う虎族の将軍ですね」

 ラピスが言う。

「そのようだな」

 俺の言葉に全員が同意し、首を縦に振る。


 虎族の男は俺たちの前に一歩進み出ると話しかけてきた。

「俺は将軍の『ノンデイル』だ。もし、お前たちが俺たちの力になるというのなら、お前たちの罪は問わない。それどころか客人として歓迎しよう。

 だが、俺たちの力にならないというのなら、ここで、死んで貰う。他のやつらに加担されては困るからな」

 なるほど、俺たちの力を知って仲間に引き込みたいという訳だ。

 ここで、全兵力と敵対するより、どれかひとつの仲間に加わって、他の二つの力を削いだ方が良いかもしれない。

 そのためには、一番力のある勢力と組むのがいいだろう。


「話は理解した。それではこちらも条件がある。今、客人として迎えると言ったが、それは本当だろうな。

 もし、裏切ったら、命で償って貰う事になるが、それでいいか?」

「ははは、たった6人で大層な事を言う。だが、話としては飲もう。俺の権限において、お前たちに手出しはさせない」

「もう一つ、条件がある。俺たちの持っている武器や素性について一切、関わらないこと」

「なるほど、隊長を倒した魔道具の武器については秘匿という訳か。それも飲もう」

「契約成立だな」


 俺たちは虎族の将軍である馬に乗ったノンデイルの後について、王城の中に入った。

 兵士たちが両脇を開けて、キチンと白馬に乗った俺たちを見ているが、ノンデイルの言ったとおり、誰も手を出して来ようとはしない。

 俺たちは、いくつかの城壁門を通り、王城の中心部に向かう。

「馬はここまでだ」

 ノンデイルがそう言うと、馬を降りた。俺たちもそれに習ってキチンを降りる。

「フェニ、ビビとキチンたちを頼むぞ」

「ピー」

 フェニは翼を広げると一声、鳴いた。

 俺たちは、ノンデイルに続いて、王城の中に入る。

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