第3話 猪牛

 俺たちはキチンに乗って来たが、ラピスだけは、ビビに乗って来た。

 ビビは地上に居る時は普通の白馬だが、その実態はペガサスだ。なので、いざという時は、上空に飛び上がる事ができる。


 俺たちが、キチンで村の正門を出ると遥か彼方に砂塵が見え、猪牛がこちらに向かっているのが確認できた。

「それじゃ、対処」

「「「「はい」」」」

 ラピスはビビに乗り、空へ舞い上がった。

 ミュは、キチンを降りて、カイモノブクロを改造した鞘からオリハルコンの剣を抜く。

 エミリーはキチンに乗ったまま、キチンの馬具に取り付けた格納箱から携帯レールガンを取り出し、右肩に乗せて構えた。

 マリンは、キチンに乗ったままだ。

「フェニ」

 俺が木の上に居る不死鳥のフェニを呼ぶと、舞い降りて来て、俺の右肩に停まる。

「フェニ、今から猪牛の群れが来るらしい。俺たちはこれからその群れを退治するから、お前にも手伝ってほしい」

「ピー」

 フェニは空に向かって一声鳴いた。恐らく「いいよ」と言っているのだろう。


 猪牛の群れが俺たちの前に来たが、そのままスピードを落とす事もなく、こちらに突っ込んで来る。

「よし、フェニ頼むぞ」

 俺がフェニを大空に向かって放つと、フェニは上空を一周してから、猪牛へ赤い閃光となって向かって行った。


 フェニに続いて、今度はミュが駆け出した。

 ミュは右手にオリハルコンの剣を持っている。

 オリハルコンの剣は、俺の妻でもある女神エリスが神剣エクスカリバーと統合した剣で、ミュ以外が持つと持った手が蒸発する。

 もちろん、斬った物も蒸発してしまう、恐ろしい剣だ。

「ドン」

 エミリーが携帯レールガンの引き金を引いた音がすると同時に、群れの先頭を走っていた猪牛の頭が吹っ飛び、倒れた。

 それを見た他の猪牛の脚も止まる。

 止まった猪牛の上空から同じような音がした。

「ドン」

 低いが重い音だ。

 群れの中に居た猪牛の脳天から一筋の紅い光が抜けて、頭部をぶち抜いている。

 瞬く間に2頭がそこに倒れる。

 2頭が倒れた猪牛は動揺しているようだが、その中にミュが飛び込み、オリハルコンの剣で、あっという間に2頭の頭部を切り落とした。


 俺の横に居たマリンがキチンに乗ったまま、駆け出した。

「ウォーターリング」

 キチンの上からマリンが叫ぶと、マリンの頭の上から平たいドーナツのような輪が猪牛へ飛んで行き、1頭の首を切り落とす。

 こうなると猪牛は右往左往しているが、そこに突っ込んだのはフェニだ。

 フェニは上空から赤い閃光となって、猪牛の横腹から反対側に抜けている。

 その間にミュは更に2頭倒している。

 残り2頭になった猪牛は、俺たちの居る方が手薄と考えたのか、こちらに向かって物凄い勢いで突っ込んで来た。

「エリス」

「合点承知」

 この駄女神、中身はおっさんだな。

「シールドバリア」

「ドン、ドン」

 物凄い勢いで突っ込んで来た猪牛は、目に見えない壁に当たると、走って来た勢いが凄かっただけに衝突時の衝撃も凄まじく、頭部が身体にのめり込むようにして絶命した。


「どうにか、終わったな」

 俺たちが後ろを向くと、村人たちが口を開けて茫然と佇んでいる。

 そちらに向かって、俺たちが行くと、村人が無言で道を開けた。

「「「「「おおっー!」」」」」

 一斉に歓声が上がった。

 俺とエリスに続いて、ミュやラピスも来た。その後ろにはエミリーとマリンも居る。


「ありがとうございます。ありがとうございます」

 長老が、深々と頭を下げてお礼を言ってきた。

「猪牛の肉は食べれます。急いで回収すると良いでしょう」

「はい、直ちに。おい、若い衆を全員で回収に当たらせよ。ぐすぐずするな、血の臭いを嗅ぎつけて他の魔物も来るかもしれんから、素早く回収するんだ」

 長老の指示で、村人全員が車を出して、猪牛の回収に向かった。

 車といっても時代劇に出て来る大八車みたいな物で、人が引くか、馬が引く訳だが、この村に馬はいない。

 恐らく、役人が税の代わりに取り立てたのだろう。


「長老、肉はご自由にして頂いてかまいませんが、魔石はこちらに貰って良いでしょうか?」

「魔石をですか?私たちは肉ぐらいしか使い道がありませんが、魔石は何かに使えるのでしょうか?」

「魔石だけでは使い物にはなりません。他に魔道具という物が必要です」

「そうですか、いずれにせよ我々には無用の物ですので、魔石はお渡しします」

 俺たちは村人から、魔石10個を受け取ると、カイモノブクロに入れた。


 その夜は狩った猪牛の豪華な宴席が広げられた。

 村人も総動員で、祝ってくれている。

 俺たちを遠くから見ていた子供たちも警戒心がなくなったのか、俺たちの周りに集まって来た。

 その中での一番人気は、相変わらずエリスだ。反対に、人気がないのはミュだ。

 ミュは、悪魔族のサキュバスであり、クールビューティな感じなので、子供たちからすれば近寄り難いのだろう。

 俺はそんなミュを慰める。

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