shortshort collection

英 里子

吐く猫

 最近、私のマンションの近辺で強盗が出るという。内容も酷いもので、金品を奪うだけでなく、鉢合わせた人は無残な姿で発見されるそうだ。

 それはもう、バラバラだとか。

 新社会人で上京して間もない中、そんな物騒なことを聞かされた。不安からか仕事ではミスも増え、上司に怒鳴られる毎日。

 更に、飼っている猫は「お帰り」を言う替わりのように、私の帰宅姿を見て、毛玉と一緒に食べたエサを吐く。

 それも、必ず一日一回律儀に吐く。

 寂しいからといって安易に飼い始めるんじゃなかった。怒られてクタクタの体に、この処理の時間は堪える。ストレスが絶えなくて嫌になる。

 今日も散々怒鳴られた。

 扉を開け、暗闇にただいまを呟く。電気のスイッチに手を伸ばそうとすると、『グチュッ』と足の裏に嫌な感触がした。

 すると、奥から猫の声。

「ナァ~」

 しまった、もっと気をつけるべきだった。

 ふと、鞄の中が光り、携帯電話が母からの着信を知らせる。真っ暗な中、足にゲロを付けたまま電話に出た。

「なに?」

「あ、久しぶりー。元気にしてる? 急なんだけど、お父さんがあんたに会いに行ったのよ。強盗のニュース見て心配だからって」

「そんな、急に、」

 また、猫が「ナァ~」と鳴いて、奥から出てきた。暗闇の中、可愛い顔が薄っすらと見えるまで近づいてくる。

 あ、目が合った。

「あんまり邪険にしちゃだめよー、よろしくねー」

 猫は、私の姿を見て吐いた。

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