四時間目 社会3
「……なんでこうなった」
膝から崩れ落ちる柳瀬。何が不満なのだろうか。勇者に気がある将来有望な女の子。しかもエルフの王女さま。お金持ちで顔は可愛い。優良物件なのに。
「さらに巨乳だよ。たぶん胸囲は八十くらい」
「それ胸筋だろ……」
頭を両手で抱えて、柳瀬は呻いた。
「俺は、守ってあげたくなる子が好きなんだよ……。お前知ってるだろ……。あれじゃ、どっちかっていうと守ってほしい」
「守ってあげたくなるというと、背が小さくて華奢で、可愛い系ロングヘアの、B組の大塚さんみたいな?」
「おまっ! ちょ、ほんとやめて! 誰かに聞かれたらどうすんの!?」
柳瀬は石原の口を塞いで、赤い顔で周囲を見回した。誰もこちらに注目していないことを確認し、ホッと胸を撫でおろした。
石原は一応気を使って、声を落として言う。
「でも大塚さん、好きな奴いるよね」
「知ってます! それでも好きなの!」
柳瀬も小声で応じた。
それから柳瀬は、どさっと椅子に腰を下ろし、だらしなく机に身を預けた。
「ていうか、なんで王女さま、あんなムッキムキにしたの。いいじゃん華奢で」
「え? だって武闘家でしょ? ムキムキじゃないと戦力にならなくない?」
「嘘! エルフなのに武闘家なの!? 魔法使いじゃなくて!?」
ガバッと身を起こして叫ぶ柳瀬。石原は軽く首をかしげた。
「だって、ワーウルフの群れを一人で倒したっていうから。
魔法使いは後方支援がメインだし、単身で敵地に乗り込むのは、無理があるんじゃないかな。だから身体強化魔法を使う、エルフの武闘家にしたの」
「遠くから、大きな攻撃魔法でどかーんっていうのは?」
「考えなかったわ、それ」
ごめんごめん、と軽く謝ると、柳瀬は半眼でこちらを睨んでくる。
「ほんとかよ」
石原はペロリと舌を出した。
「さあ、どうだろ。何しろ俺は、性格歪んでるらしいから」
「完全にわざとじゃねえか! っていうか根に持つなぁ!」
柳瀬は両腕を前に伸ばし、机に突っ伏した。しばらくそうして、顔だけを石原に向けてくる。
「……やっぱりチェンジって、なし?」
「してもいいけど、たぶんグーで殴られる」
「死亡フラグじゃん……。ハーレムの夢は潰えたな」
「元々お前、ハーレム向かないよ」
柳瀬は口をぎゅっと結んで黙っていた。それからちょっと不貞腐れたように言う。
「ハーレムじゃなくていいから、一人でいいから……振り向いてほしい」
石原は頬杖をついて柳瀬を見た。それから少し目を細める。
「それについては、応援してるよ」
「……おう。頑張るわ」
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