[え?] -1-

 蝉が煩くて、なかなか寝付けない。微睡んでいたら、足音が聞こえてきた。母にしては粗忽で軽い音。きっと姉だ。傍に来て見下ろしている気配がする。

「ねえ」

 反射的に身を固くする。この姉、性格にかなり難があり、母とも折り合いが悪い。触らぬ神に祟りなし。無視を決め込んでいたが、

「母さん殺したよ」

 縁起でもない。苛立ちも顕わ、布団をはねのける。


 誰もいない。


 よく考えたら、私は一人暮らし。姉は数年前、自殺した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る