2ページ

「大学を卒業して就職して特に大きな問題もなく過ごしていたと思っていたのに、あの子にはあの子なりの考えがあったみたいで。正直すぐに相談してもらえなかったのはちょっとショックだったんですけれど、悩み抜いて出した答えだったので、どうにか送り出すことが出来ました」

「あの差支えなければでいいのですが、娘さんの今のお仕事って?」

「あぁ、アパレルのショップ店員です」

「え、そうなんですか? あの、娘さんが?」

 言っちゃ悪いけど、娘さんって奥さんに似てとても静かと言うか、お淑やかって言うか、アパレルのショップ店員って柄じゃなかったような・・・?

「ふふ、花菱さんも驚きますよね? 私も旦那もそうで。大学を卒業して就職したのが物流会社のOLだったからどうして急にそっちに? って気持ちも大きくて。今まで本当に地味な子だったから、アパレルの店員さんなんて結びつきもしなくて。ふふ、今はこんな感じで仕事しているんですよ」

 見ます? と言って差し出されたスマホの画面には想像の三倍くらい派手な娘さん。つい一瞬固まってしまった。だってプラチナの髪にカラーコンタクト、それから真っ赤なリップが引かれていたから。あの黒髪で派手とは無縁だったあの子が・・・いや、本当に何て言うか、凄い。

「驚いたでしょう? 母親である私だってあの子がこんな風になるとは思わなかったもの」

 今までの全くの真逆と言っても過言ではないくらいだもんな。親でもそう思うくらいなんだもん、そりゃ驚くわ。

「転職してこの仕事に就いたことは本当に驚いたけれど、もともと負けず嫌いな子だから。多分一人でも頑張っているんだろうけれど・・・なんせ今まで一緒に暮らしていたから一人の生活での身体と心が心配で」

 ライフスタイルが一変すると誰だってその流れに乗るために無理をするし、心配がそこにあるのも凄く分かる。そうけれど、

「そんなに心配し過ぎないでください。親だからこそ心配することも子供は分かっていたりしますから」

「そうでしょうか?」

「えぇ、だからこそ頑張ろうと気持ちが湧いてきたりするものです。どうか娘さんを信じてあげてください」

 そして帰って来た時には娘さんの大好物を沢山作って待っていて。それが一番のパワーチャージになるはずだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る