それから何日もしたある日……わたしは口と手足をテープでぐるぐるまきにされました。


 ……もう、わたしにはにげる力ものこっていなくて、そのままひっぱりだされると、くるまのトランクになげいれられました。


(すてられるのかな…………)


 どうやら、ごはんをあげるおかねがもったいなくなったらしいですが……もう、そんなのどうでもよかったです。


 よるになると、おじさんはわたしをくるまからつれだし、ゴミの山の近くにすてて、くるまの音と共にいってしまいました。


(さむい…………)


 つめたいかぜがだんだんと眠気をさそってきます。眠るときだけは……すべてをわすれていられると、そのままおきることのない眠りにつくことにしました────、


 だけど、なにか音がきこえてまぶたをあげてみると、目のまえがまっしろになって、すぐに目をつぶりました。


(まぶ……しい…………)


 よくわかりませんが誰かがいるみたいでした。その人はわたしをだきかかえると、そのままくるまのうしろに乗せられました。


 久しぶりにかんじるやわらかい感しょくに、わたしは心のどこかで「たすかった」と、思っていました。


 その後も、あざだらけのわたしを手当てしたり、ごはんを食べさせたりしてくれました。

 まえにくらべたら……ほんとうにてんごくなのかもしれないって思いました。



 …………それも、ある『目的』のためだとわたしはしるわけもありませんでした。


 ──────────────────


 5日くらいがたちました。

 あざも少しずつ引いて、

 、わたしはたすけてくれた男の人に連れそわれて1つのへやに入りました。

 その時のわたしは、その男の人がまるでかみさまにも見えるくらい、しんじていました。


 そこに入るとすこしくさいにおいがしました。それをがまんしてついて行くと、そこで2本の黒くて細いナイフと、1つ黒くて少し小さめのもの───銃をもたされました。


「これ……は?」


「お前にはこれから人を殺してもらう。拒否すれば殺す」


 そのことばに……体がふるえあがりました。

 いきをすうのもこわくて……そんな思いは……もういやだと、首をたてにふるしかできなかった。

 すぐに、使い方をおしえられました。

 まちがえたり、はずしたりすると、なんどもおじさんより痛くなぐられるから……はずせなかった。


 つぎのひには、はずすことがなくなり、わたしは少しあんしんしました。これで……いたいおもいをしなくてすむと思ってしまいました。


 ほかにもかぎをあけたり、かべをのぼることもやらされました。

 ほかにもやる人がいて、その人たちもすごいかおでやっていますが……あけられなかったり、おちたりした人はなんどもけられていました。

 みみがいたくなるくらい叫んで……うごかなくなった人が、どんどんはこばれていくのをわたしは見ていました。




 つぎの日から………その人たちを見ることはもうありませんでした。




 そのとき、わたしは感じてしまいました。




 …………このままじゃ、わたしも死んじゃう。




 もう、人のことなんて気にするよゆうなんて……なかった。

 生きるためなら……みんな敵だ。


 必死に色んなことをおぼえました。

 かぎをあけるのだってだれよりも早く、かべをのぼるのもだれよりも早く、銃だってだれよりも早く、だれよりも外さないように……。




 もう─────なぐられないように。



 ──────────────────


 それから半年たったころには、力くらべ以外ならまけなくなりました。2本のナイフの使いかたも、ずっとれんしゅうしていたので、かなり使いこなせるようになりました。


 すると、そんなある日の夜、自分を助けてくれた男の人によばれて、2人のこわそうな人が見張っているへやに入ると、服をわたされたので、急いできがえました。


 黒くて、うすくて、すごくうごきやすい服でした。いつも着ているぶかぶかの服よりずっときごこちがよかったです。

 でも…………急にどうしたのだろうとその男の人───ここでは『ボス』ってよばれている人に1つのしゃしんを見せられました。




「っ、おじ……さん?」


「こいつを殺せ」


「………………」


 わたしには……その時は、『はい』とこたえるしかありませんでした。

 もし…………ここで、いやって言えば………





 殺されるから。


 ───────────────────


 それから5分で自分のよういをすませました。

 弾がいくつも入った銃を太もものホルスターに入れ、腰の左右にナイフを差し込むと、すぐにボスのくるまにのって出発しました。




 そこから、40分くらいすると着いたのは……わたしの家でした。


「ボス……? ここは…………、」


「あいつは今、ここに住んでいる」


「ぇ…………?」


 分かなかった。……分かるわけがなかった。

 わたしを……なぐって、いたぶって…………パパとママを…………わらった人が……ここに住んでいる? 




 かんがえればかんがえるほど……手に力がこもって、口が…………しぜんにひらいて……ながれるように声が出てきました。






「………………殺します」


 ───────────────────


 くるまを出ると、だれにもバレないように全速力でいえのかべの側にかくれました。

 バレないように窓からのぞくと、いつもわたしと……パパとママでご飯を食べているところの近くにあるテレビのソファーにねているようでした。


 そのすがたをかんがえるだけで……手がふるえるくらいイライラしました。


 とりあえず、音をたてると気づかれるので、いえの反対にあるドアの前にくると、持っている2本の針金をつかって、5秒であけました。これくらいならもうかんたんです。

 いえの中だとバレると思ったので、先に銃をうてるように、カチャっと手前にスライドを引いておきます。

 そこからは音をたてないように中に入りました。


 ずっと、足音をならさないように訓練していたので、ほかの人でもしっかり聞かないとわからないと思います。


 そのまま、おじさんのいる所のちかくまでやってくると、銃を手に取りました。

 かべのうらにかくれて、ほんの少しだけ、心を沈めるために目をとじました。


 ────的が人になっただけだから……ぜったいに外さないし……外せない。だいじょうぶ、出来る。


 バレないように忍びより、おじさんのあたまに銃口を向けて、引き金に人さし指をかけました。

 …………そのまま殺してもよかったですが、せめて……わたしが殺すことをおしえてもいいと思ったので、お別れのことばのかわりに一言だけ……なるべくやさしく口にしました。




「えっと…………撃つね?」


「っ!?」


 反応してくれたなら、もういいです。


 声も聞きたくないので、ぶれないように構えた

 まま、すぐに引き金を引きました。



 パァンっ!



 そんな音がひびくと、おじさんはソファーから倒れるようにして、たくさんの血を流しながらたおれました。


「…………」


 たしか、あたまを撃っても死なないことがあるって聞いたことがあるので、とりあえず、回りこんでおじさんの正面に立つともう一度、銃をかまえました。


 ぜったいに殺すために……と、言っておきながら……引き金を引くわたしは……きっと、しあわせそうにわらっていたと思います。


 パァン、パァン……パァン


 3発全てあたまに弾を撃つとぴくっ、ぴくっ……ぴくっ、と撃つたびに身体が跳ねて……おもしろかったです。


 さいごの弾を撃ったとき、ピシャっと血がかおにかかりましたが、もう動かないことをかくにんすると、もう…………ここにいてはいけないと、すぐさまにげようとしました。


 そのとき、ふと、3人のしゃしんが入ったペンダントが目にはいると、それをうばうように取って、ふところに入れると、今度こそいそいで逃げました。


 わたしはいそいで飛びこむようにボスのくるまに乗りました。すぐさま、出発しましたが…………わたしの心はその時、おかしくなり始めていました。


「あははっ……あははははっ!」


 笑いが……とまらなくなりました。

 わたしをきずつけたり、パパとママが死んだことを笑っていた…………あのおじさんをこの手で撃ち殺した。

 あの瞬間が……きもちよくてたまらなかったです。


 銃を撃つことになれてしまって、さいきんはとくになにも思わなかったですが、こんなに気持ちがいいなんてしりませんでした!

 反動がきもちよくてたまりません!


「あはっ、あははははははははははははは!!!」


 ───────────────────


 ボスのくるまが着く40分のあいだ、ずっと笑いつづけていました。もう、自分ではおさえられないくらい、快感で…………くるってました。


 ボスのくるまを出て部屋に入ると銃のマガジンを抜きとり、床の上にナイフとともに置くと、ベットに身をなげました。


「わたし……人をころしたんだ……! きもちいいなぁ〜、こんなに……きもちいい…………っ!?」




 そのとき、しんぞうが……ドクンと鳴る音がきこえました。それと同時に…………わかってしまいました。




 


「あぁ………ぁぁああ……っ!」


 人を……殺すのをたのしんで、わらって…………まるで、おじさんがわたしにしたように、今度は…………わたしが…………っ!!!


「あああっ、あぁぁああああああーーー!!!! あぁあ……あああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ワタ、シ…………はっ! こんなことをしようと思ったわけじゃ…………っ、そんなつもり……なかったのに…………


「うわあああァぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁあぁぁあ!!!!! パパぁ……ママぁ…………っ!!!」


 こんなこと…………しようと……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!


「ゴメン……ナ、サイ…………っ。うわあああぁぁぁあーーー!!!!」

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