由莉とえりかはお裾分けしました

 結局合わせて前話と合わせて7000字超えました

 そのお詫びに食べるor飲む物のいずれかが後半の話に入りますよ!

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 二人はクスッと笑うと由莉は両手で、えりかは片手で銃を構え、次々にお菓子を撃ち落としていった。


 撃てば必ず落ちる様子に通り過ぎる客も次第によってきて最後の弾を放つ頃には子供たちの数が3人から12人にまで膨れ上がった。


「おねーちゃん達、今何発当ててるの?」


「しょうぶ? をし始めてから7発撃って、ピンクのお姉ちゃんも水色のお姉ちゃんも全部当てて落としているよ!その前もピンクのお姉ちゃんは全部当てて落としてるし、水色のお姉ちゃんも1回当てて落とせなかったけど、全部当ててるよっ」


「って事はこれが当たれば二人とも全弾命中!?」


 全弾ヒットという未だかつて見たことのない光景が見れるのでは、と子供たちはハラハラしながら見えていた。普通ならばこんな状況誰でも緊張するのだが、二人は一切緊張していなかった。

 まるで淡々と作業をこなすように、流れる手つきで銃を構えると、偶然か否か二人の銃から同時に銃声が発せられ―――由莉は青色の小さいラムネの入った容器を、えりかは赤色で容器が同じものを後方へと吹き飛ばしていた。


「……よしっ」


「うん!」


 由莉とえりかは銃を机の上にそっと置くと、お互いに10発全弾命中させたことを喜び、両手でハイタッチした。


「すげぇ…………」


「あの女の子たち誰だろう……あんなに可愛い人たち見たことないよ……」


「すごい……二人ともすごい息があってた……今の見てましたか?」


「はい。あれほどの精密さはお見事の一言ですね、お嬢様」


 見ていた人達もまさかと呆然としていたが、1番驚いていたのは屋台のおじさんだった。年端もいかなさそうな女の子2人組が次々に景品のお菓子を落とす様は見ていて、ただ笑うしかなかった。


「いやぁ〜お嬢ちゃんたち上手いなー! 俺も20年やってきて全弾命中させた人なんて他に1人くらいしか見たこたぁねぇよ! ほらよ、これが2人で取った菓子全部だ! 持ってけ可愛いドロボーたちめっ、あっはははは!」


 二人は渡された袋を手に持つと出来るだけの笑顔でお礼を言った。


「ありがとうございますっ、おじさん!」

「ありがとうございます!」


「おう! 今度来る時をヒヤヒヤしながら待ってるよ!」


 そのおじさんは豪快に笑い飛ばしながら二人の背中を見ていたのだった。


「それにしても……取りすぎたね……こんなにも私食べられないかな…………」


「うん……あっ、ゆりちゃん耳かしてくれる?」


「どうしたの、えりかちゃん?」


 由莉とえりかは持っているビニール袋を見ると合計19個の菓子が中には入っていた。流石にやりすぎた感が否めなくて、どうしようかと思っていた時、ふとえりかが何かを閃いたように由莉の耳元で何かを囁いた。


「こしょこしょこしょ…………どうかな?」


「うん……!それがいいと思う!」


 二人は頷き合うと袋のお菓子を、まず最初から見てくれた子供たち3人に分けてあげた。


「はい、どーぞっ。私たちじゃ、こんなに食べられないから皆んなにもあげるね」


「いいの、ピンクのお姉ちゃん? 僕たち、ただ見てただけなのに」


 差し出したお菓子を受け取っていいのかと迷っている幼い男の子に由莉はそっと頭を撫でてあげた。


「うんっ、そのお礼だよ。だから、受け取ってくれると嬉しいな」


 純粋な由莉の気持ちはその男の子に届いたようで笑顔でそれを受け取った。


「ありがとう、ピンクのお姉ちゃん!」


「気にしなくていいよ、さぁ、次は君の番だから頑張ってね」


「うん!」


 男の子は勢いよくお礼をするとおじさんの方へと走っていった。


 そして、由莉が同じ流れでもう一人の同じ身長の男の子にも上げようとしている頃、えりかは女の子にお菓子を渡していた。


「はじめはごめんね、期待していてくれたのに失敗しちゃって」


「う、ううん! でも、水色のお姉ちゃんもピンクのお姉ちゃんも本当にすごかったよ! 片手でお菓子を撃つのすっごくかっこよかった!」


「ふふっ、そう言ってくれるとわたしもうれしいな。見ててくれてありがとうっ」


 無垢なえりかの思いを聞いて女の子も笑顔でお菓子を受け取った。


「次はあなたの番かな? がんばってねっ」


「うん! あっ、あの!」


 えりかは他の人にもお菓子を上げようとした所で女の子に引き止められ、不思議そうに振り返った。


「ん?どうしたの?早くしないと次の人たちが困っちゃうよ?」


「ええと……水色のお姉ちゃんの名前、教えてください!」


 女の子はきっと『水色のお姉ちゃん』じゃなくて普通に呼びたかったのだろうと、えりかは微笑みながらしゃがんで女の子の方をしっかりと見た。


「わたしは『えりか』、だよ」


「えりか……さん…………いえ、お姉様!ありがとうございますっ。私、『陸花(りはる)』って言います。また、会いたいです!」


「…………っ!」


『また』会いたい、その言葉はえりかにとって重みのレベルが違いすぎた。大丈夫だとは思っていても、万が一の不安がたまに頭をよぎるのだ。けど、その女の子……陸花りはるが言ってくれたおかげで改めて決意する事が出来た。


 ―――元の自分に戻っても、この気持ち、この思い出は絶対に忘れさせない、忘れてたまるもんか……っ


「うんっ、いつかまた会えるよっ。りはるちゃん、またね」


「またね〜〜!!」


 そう言うと、陸花りはるは射的のおじさんの所へ、えりかは由莉と一緒に他の人へお菓子をお裾分けをしに向かった。


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 その後も見てくれた子供達、全員にお菓子を配ると由莉とえりかは阿久津と音湖の方へと戻った。その頃には由莉とえりかの手元にはお菓子は5つにまで減っていた。


「二人ともおかえりなさい。射的であれだけ取る人は初めて見ましたよ」


「すごすぎるにゃ……子供たちを根こそぎ引き込んで、取ったお菓子を皆んなに分けるなんて由莉ちゃんとえりかちゃんは本当に優しい子だにゃ」


 帰ってくるなり褒められた由莉とえりかは二人揃って素直な嬉しさを表へと出した。


「えへへっ、ありがとうございます! あっ、これ阿久津さんどうぞ!」


「ねこさんも、どうぞっ」


 そう言って二人は残ってたお菓子を1つずつ阿久津と音湖に分けた。


「ありがとうございます、由莉さん」


「えりかちゃんも由莉ちゃんも本当にいい子だにゃ〜そんな二人にはうちからご褒美にゃ〜」


 由莉とえりかを両腕に抱えるように音湖が抱きついてくると何やらひんやりとしたものが二人の首筋に引っ付き、思わぬ不意打ちに飛び上がってしまった。


「うわぁ!? 冷たいっ」

「ひゃあっ! 何これ……」


「にゃははっ、二人とも喉が乾いた頃だと思ったからこっそりとラムネを買ってきてたんだにゃ」


 音湖が持っていたのは透明な水色で真ん中より上がちょっと窪んでいるビンに液体が入っているものだった。

 その時、二人は自分達が凄く喉が乾いていることに気付き、早く飲みたくて仕方がなくなった。


「にゃ〜?二人とも今すぐに飲みたいと思ってるにゃんね。けーど、ちょっと待つにゃ。何も知らなくてこれをあけようとすると地獄を見るにゃ。あっくん、開け方わかると思うから一つやって欲しいにゃ」


「そうですね、分かりましたよ」


 由莉とえりかは疑問に思いながらもその様子をじっと見ていた。


「二人とも、よく見てるにゃ。ん〜にゃっ!」


 音湖がキャップみたいなものを上に思いっきり押し込んだ、その瞬間! カタンと何かが落ちたと同時に内部の液体が一気に泡立って瓶の中を支配していった。それを見て二人とも確信と共に目を輝かせた。


「音湖さん! ラムネって炭酸なのですか!?」


「すごいきれいだし……おいしそうです……!」


 昼にコーラを飲んで感動した二人にはラムネが美味しいものだとすぐに分かった。


そうだソーダにゃ〜。あっく〜ん! そっちのは由莉ちゃんにあげるにゃ。うちはえりかちゃんにあげるにゃ」


「はい。どうぞ、由莉さん」


「ありがとうございます! いただきますっ」


「えりかちゃんもどうぞにゃ」


「ねこさん、ありがとうございますっ んっ……」


 二人は受け取ると同時に一気飲みしないようにゆっくり飲んだ。コーラとは打って変わって、爽やかな甘みが、限界まで冷やされた炭酸に乗って若干火照った体の中を透き通るように伝っていき、熱が一気に引いたような感触を覚えた。


「美味しい……!コーラとは全然違うよ……んぐっ……」


「すごい……、コーラもおいしかったけど、ラムネの方が好きかも……んっ……」


 夢中で飲んでいた二人はいつの間にかその中にカラカラと転がるビー玉のようなものしか無いことに気付き少し物悲しさを覚えた。


「音湖さん、おいしかったです!」


「ねこさん、買ってくれてありがとうございますっ」


「そこまで笑ってくれるならうちはいくらでも買ってあげるにゃ! けど、飲みすぎるとお腹壊すから飲むなら少し時間を置くにゃ」


「は〜い」

「はいっ」


 イカ焼きを食べ、射的も満足に終わり、ラムネも飲んだ二人だったがまだまだ食べたいものも山ほどあった。そしてふと、二人は残った3つのお菓子をどうするか悩んだ。


「3つあるね……えりかちゃんもう一ついる?」


「ううん、ゆりちゃんが貰って? 勝負は引き分けだったけど、ゆりちゃんの方がたくさんお菓子落としてるから」


「そ、そう……?じゃあ……ありがと、えりかちゃん」


 えりかは1つ、由莉は2つビニール袋の中からお菓子を取り出すと、袋の中にはきれいさっぱり何もなくなっていた。


「さて、二人とも、次はどこに行きますか?」


「えーっと……あっ、その前に……少し行ってもいいですか?」


「わたしも……行きたいです……」


 二人は口にしようとしなかったが阿久津と音湖はどこにいきたいのかすぐに分かった。


「向こうの方にありますから、早めに戻ってきてくださいね」


「はい!行ってきます!」

「いってきま〜す!」


 由莉とえりかは脱兎のごとく、阿久津の言われた方へとかけ走っていった。


「まぁ、あの二人ならすぐに帰ってくるにゃ。あっくんが負かされたんだから誰かにちょっかいかけられてもすぐに追っ払いそうだにゃ」


「……ねこ、それをフラグと言うのですよ……まぁ、そんなこと滅多にないから大丈夫でしょう」
























 ―――結局これもフラグとなった事に気づくまでに……二人は16分かかるのだった。



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