由莉とえりかは射的をしました

 射的回、とんでもない長さになりました

 7000字行きそうなので2話に分けます


次話は11時に投稿です!

 __________________


「三人とも、どこに行ってたんですか?」


「トイレだにゃ。由莉ちゃんとえりかちゃんがそう言っていたから急いで連れていったのにゃ」


(ね、ねこさん……)


(しかも、全然嘘を言っているようには聞こえない……)


 阿久津の前で平然と嘘をつく音湖に二人とも顔を引き攣らせていた。そんな表情をしている二人を見て阿久津は少し疑問に思ったが、この場は流すことにした。


「……まぁ、いいです。さて、二人ともこれからどうしますか?」


 ―――どうするか……ね。うん、もう決まってる


 ―――たぶん、ゆりちゃんも同じ事考えてる


 二人は互いに顔を見やると、同じことを考えてますと言わんばかりの表情で頷くと同時に指でその場所を指した。


「あれがやりたいです!」

「わたしもやりたいです……!」


 何故か? 言うまでもないだろう。


 ―――このまま何もしずに帰るのは癪だよ


 ―――なんかやらないといけない気がする


 音湖に笑われるきっかけになったものをみすみす見逃すほど甘くはなかった。


「いいですが……普段とは性能から何まで全然違うことをお忘れなく。あのピストルについても教えておきましょう。重量1.3キロ、全長73cm、弾はコルク……柔らかい木の弾ですね。初速は73m/s、空気による圧縮で先端のコルクを前に飛ばします。撃ち方はボルトを思いっきり引いてからコルクを前に詰めれば、後は引き金を引くだけです。一気に説明しましたが大丈夫ですか?」


「問題ないです」


「はいっ」


 拳銃よりかは重く、もちろんライフルより遥かに軽い微妙な重さに首を傾げたがなるとかなると思い、その場所へ向かった。


 先にやっている子供たちの列に並んだ2人は子供が撃っている様子を見逃さないように見ていた。出来ればどんな反動なのか、軌道はどうなのか見ておきたかった。


(えりかちゃん、みんなやっぱり使い方がまるでなっていないよ……あの構え方だと反動で銃がブレるし、ストックが肩に乗っているのも少し良くない……本物の銃だったら10mの的も当てられないよ……)


 立射はあまりやった事はないが、銃を使う身としてはみんなの構え方が由莉には少し不満だった。


(そうだね……うーん……でも、みんな2つくらいは当ててる……もしかして簡単、なのかな?)


(どうなんだろう……取り敢えずやってみれば分かるよね)


 そうこうしているうちに前の子供たちが終わったようで、いよいよ2人の番が来た。阿久津から貰っていたお金を400円ずつ、その屋台をやっているおじさんにあげると、コルクの弾が10発入ったトレイを持ってきた。


「はいよ、頑張ってね〜」


「ありがとうございますっ」

「ありがとうございます!」


 浴衣を着た可愛い二人の挑戦を後ろに並んでいる子供や大人もその様子を眺めていた。中には、どのくらい当たるかな? なんて声も聞こえてきた。


「10発だから……4発かな?」


「えー2回くらいじゃない?」


 多分そのくらいだろう、と後ろから声が聞こえてきて、二人とも少しだけムスッとした。完全に舐められてると感じて、やってやろうという挑戦の気持ちが膨れ上がった。


「……えりかちゃん、やろっか」


「……うん」


 ―――熱意は心の奥に潜めろ。いらない力は全て抜いて、ただ敵に弾を当てることに集中しろ。


 由莉は自分の心に言い聞かせると銃を手に取りボルトを思いっきり引いた。いつも、バレットのコッキングレバーを引いているせいか信じられないくらい軽く感じてしまった。そして、撃つ前に取り敢えず引き金を引いて反動を確かめてみた。


(あっ、こんな感じなんだ……全然軽い…………さて、後ろの人も待ってるから、やろっかな)


 由莉はもう一度ボルトを引いてコルクを1つ手に取ると力の限り銃口に押し込むと肩にストックをしっかりと押し当て、

銃口の上についている照星(照準を合わせるための前方の部品)と、

銃身の真ん中付近についている照門(後方の部品)を重ね合わせながら、小さいお菓子を狙った。


 そのただならぬ集中力に子供たちも固唾を飲んで見守っていた。えりかも邪魔をしないようにと弾を込めてからは由莉が撃つまでは絶対に引き金を引かないように指をトリガーにはかけなかった。


(これを外すなんて…………と思っても初めて撃つ銃だし、どんな軌道を描くか分からないからまずは様子見かな)


 コルクだから重さが均一と言う訳でもない、面が平たいから空気抵抗が想像以上に働くなど、色々な条件が由莉を悩ませたが、一発で当てる必要がないから取り敢えず、標的の上部の淵を狙って撃ってみることにした。

 自分の中のタイミングを見計らい、くっと息を止めると軽い引き金を引き絞った。


 実弾には程遠いものの高い音が屋台の中に響き渡って圧縮された空気によってコルクが前に飛ばされた。由莉が見立てた通り弾は狙った所よりも下に行ったが、上の淵を狙っていたこともあって下の淵に上手く着弾し、その勢いでお菓子が落ちていった。


(ふぅ、弾の形も良かったから取り敢えず上手くいって良かった〜でも、結構下に落ちるんだ……あれ? みんな何で静かなの?)


 構えるのをやめて、それを腕の中でしっかりと支えた由莉は後ろの子供たちがしんとしていた事に不思議そうに振り返りながら首を傾げた。子供たちも呆然としていたが、ふと糸を切ったように歓声が上がった。


「おぉ〜当てた!」

「ピンクの浴衣のお姉ちゃんすごい!」

「水色のお姉ちゃんもやってみて!」


 さっきまで疑い深そうにしていた子供たちもその腕前に興奮を隠せなかったようだった。そんな中、えりかも一人の子供からそう言われるのを聞いて銃を構えた。


(うまくいくかな……ううん、ゆりちゃんもやったんだから、わたしも……!)


 若干の不安を持ちながらもえりかはキャラメルの箱に狙いを定めて引き金を引いた。

 えりかも狙い通り、コルク弾はまっすぐにキャラメルの箱に当たった―――が、箱は揺れるだけに終わってしまった。


「う、そ……当たったのに…………」


 確かな手応えがあったのに失敗した事にえりかは少し落ち込んでしまい、がっくり項垂れた。後ろで子供たちも残念そうな声を上げていた。


「えりかちゃん、まだ弾はあるから……ね? ……多分だけど、あれを取るのには少し工夫しなくちゃいけないかもしれないよ」


 由莉はえりかの肩に手をやってそう励ますと、当たっても倒れなかったキャラメルの箱を睨んだ。絶対に取ってやると由莉はもう1回ボルトを引いてコルクを思いっきり押し込むとすぐさま箱のある一点を狙って弾を撃った。


 狙い澄まされた弾は見事に箱の左端に命中すると錐揉み回転をしながら後ろに吹っ飛ばされていった。


「うぉおーー!ピンクのお姉ちゃんすげぇ!」

「すごーい!」

「うらやましいー」


 再び声援が上がり由莉は少しだけ嬉しかったが今も少し浮かない顔をしているえりかを見て耳元である事を囁いた。


「―――――――――――してみて?」


「えっ……?」


 えりかはその由莉の提案に迷った。明らかに違う形なのにそんな事が出来るのかと。でも、ゆりちゃんの言うことなら、とえりかは信じて1回やって見ることにした。


 弾を詰めるところまでは由莉と一緒だったが…………えりかはその銃を片手で構えた。

 後ろで見ていた子供たちはまさかのえりかの行動に『えっ!?』と声を上げていた。


「えっ……?」

「水色のお姉ちゃん、片手で撃っても大人の人じゃないと当たらないよ〜!」


 重心もブレるから絶対だめだと、思っていたが由莉はその銃に弾をこめながらその子供たちにこっそり教えた。


「みんな、大丈夫だよっ、あのお姉ちゃんはあのほうが……絶対に当たるよ。だから信じてあげて?」


 由莉が笑顔を浮かべながらお願いをするとその可愛らしさに3人とも見とれていたが、すぐに返事をした。

 そんな様子をえりかは聞きながら集中力を高めていった。由莉に信頼されている嬉しさが自信へと昇華し、震えが完全に止まったタイミングで引き金を一気に引いた。そして、今度は狙い通り左上の角に弾が当たり後ろへと落ちていった。


「おおー!水色のお姉ちゃんもすげー!」

「片手で撃てるなんて大人みたい!」

「すごいなぁ〜!」


 子供たちに喝采されたえりかは嬉しそうにしながら頬を赤らめた。


「ゆりちゃん……なんだか照れるね…………」


「こんなに小さい……と言っても私くらいの身長の子もいるけど……子供に囲まれるなんてなかったもんね……。それにさっきのえりかちゃん凄かったよ〜やっぱり、えりかちゃんは片手撃ちに慣れているからなのかな……?」


「うん…………多分、そうだとおもう。……取り敢えずみんなを待たせちゃうとだめだから早めに終わらせよ?」


「そうだねっ。あっ、えりかちゃん、ここから何回当てられるか勝負しよ?」


「……うんっ!負けないよ、ゆりちゃんっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る