第2節 抗いの始まり
二人の思い出作りが始まろうとしていました
「あ、でも……本当にダメだったときも考えないとよくないよね」
「うぐっ……」
えりかの言う通りだったが、由莉にはどうすれば一番いいのか分からなかった。
「分かってるよ……分かってるけど、えりかちゃんを殺すのはどんな事があっても嫌だ、自分でもそれは言っちゃだめ。分かった?」
「うんっ、もう言わないよ。……でもどうすればいいのかな……」
100%成功させるつもりだが、万が一の事も考えなければいけない。常に理想の結果が出るなんてありえないのは由莉もえりかも分かっていた。
だが、その状況になった場合どう対処するのが正解なのか分からず悩む二人。
これを打開したのはまたしても阿久津だった。
「でしたら、簡単に言ってしまえば『えりかさんの実力に由莉さんが追いつけばいい話』じゃないですか?もし襲ってきても由莉さんがその時のえりかさんより強ければ問題なく無力化出来ると思いますよ」
「…………あっ!」
「ゆりちゃん、それなら!」
由莉とえりかは驚いたように顔を見合わせた。だが、二人とも意見は同じようで自信に満ちた声で、
「行ける!!」
「行けるよ!」
「うーん……えりかちゃん強いからな〜、本気でやらないと追いつけないよ……あはは、でも……やるしかない」
「わたしもそんな力あるのか分からなくてびっくりしてるけど……でも、ゆりちゃんのためならわたしも頑張る」
えりかを超える、それが難しいどころの話じゃ済まされないのは由莉も分かっていた。
1ヶ月に対する1時間の相手ではなく、1ヶ月に対する4年以上の相手をしなくてはならないのだ。つまり……単純に時間だけだと50倍以上、さらには近接格闘での死線をくぐってない由莉にとっては実力差は確実にそれ以上の差を追いつかないといけない。
「えりかちゃん……練習付き合って欲しいんだけど……いい?」
「うん、ゆりちゃんとならいくらでもっ」
にっこり笑うえりかを見てどうしようもなく可愛いと思ってしまう由莉だったが今は集中しなくちゃと頭を振った。
「分かりました。それでは……今までの倍くらいキツくなると思ってくださいね」
「ば、倍ですか!?……分かりました!」
(筋肉痛……どうしよう…………)
不安もあったが、えりかちゃんのためならと由莉は頷いた。
「えりかさんも、かなりきつい練習になりますがついていけますか?」
「はいっ、がんばります」
「むぅ……(なんか接し方の違いが気になるけど……まぁ、いいや!)」
「さて……今日は、」
今日から練習かな……と二人ともどんな練習が来るのか身構えていたが来たのは全くの別物だった。
「外に行きましょうか」
「…………え?」
「……?」
思わず、ずっこけかけた由莉はなんで!? と阿久津に聞こうとしたがニコニコしているその様子を見て確信した。またからかってる、と。
「からかってたら本当に許しませんよ?私の愛銃で頭を吹っ飛ばされたくなかったら本当のこと言ってください」
「いいえ? 本当に今から行くのですよ?」
「……本当にですか?」
「もちろんです」
「…………物騒なことをいってごめんなさい」
「自覚はあったのですね」
「くぅ……っ!」
ここでからかわれている事をやっと知った。本当の事を薄い膜のように張り巡らせ安心させてからそのベールを脱いだ先にはからかいの罠、今までにないパターンにやられ由莉は若干へそを曲げた。
「まぁまぁ、ゆりちゃんも抑えて?」
「……分かったよ、えりかちゃん」
えりかに宥められ少しだけ落ち着きを取り戻した由莉。だが、阿久津は火に油を注ぐようにさらなる追い討ちをかけた。
「からかわせてくれたお礼に後で甘いものをプレゼントしますね」
由莉の血管の一つがプチンと音を立てて切れたような気がした。
「うわぁああぁぁあーーー!! えりかちゃんやっぱり離して! 今からあの子で阿久津さんの頭を吹き飛ばすから!」
「だ、だめだよーっ、冗談だよね? ねぇ!」
由莉の本気の抵抗にえりかも必死に耐える。その内、ゆりちゃん本気なの……?とも思い始めてきた。
「由莉さん、あまり物騒なことを言うもんじゃないですよ?」
「くううぅぅ……!」
由莉はえりかにしがみつかれながら幼い子みたいに地団駄を踏んだ。
「や、やめてくださいっ、このままじゃ本当にゆりちゃんがやっちゃいそうで怖いです! ねぇ、ゆりちゃんしっかりして!」
えりかも必死に由莉を正気に戻そうと何度も揺さぶった。すると、少し時間が経つと由莉は我を取り戻した。
「はっ!、あれ……?私、今なにを……」
「阿久津さんにからかわれまくってからゆりちゃんすごい暴れたんだよ……」
「……………………」
ぽかんとしながら由莉は直前の記憶を辿った。
___阿久津さんにからかわれて、一旦落ち着いて、それから…………それから……あっ、
「あんな事言われたらぶちギレちゃうよ……」
めちゃくちゃなこと言ってたんだなと、やっと思い出した由莉は顔を赤らめた。
「阿久津さん気をつけてくださいっ、さっきのゆりちゃんだと本当にやりそうでした……」
「そうですね……からかいすぎるのはよくないですね、気をつけます」
絶対またからかうくせに……と顔をぷくっと膨らませて由莉は阿久津を睨んだ。
「さて、二人とも行きますよ。服装は……うーん、そのままでいいですか。ついでにですしね、車まで来てください」
「……はぁ〜い」
「はーいっ」
またもサラッと阿久津に流され不満だったが、しかたないと諦めえりかと手を繋いで車まで向かうのだった。
「阿久津さんほんっと意地悪……優しいのに……ふぐぅ……」
「あはは……でも、ゆりちゃんくらい心を許せる人だから言えることなんじゃないのかな?」
「そうなのかな……」
階段を登る間、由莉は阿久津の愚痴をこぼしまくっていた。
「確かにすっごく頼りになるし、ご飯だって美味しいし……だけど、あんなにからかわれるとちょっと凹むよ……」
「それでも、ゆりちゃんと阿久津さんってすっごく気があってると思うな〜」
「むぅ、そう言われると……否定出来ないじゃん…………」
由莉は少しだけ照れながらえりかと一緒に一段一段階段をあがっていった。
_______________
「どうぞ、乗ってください」
「……ありがとうございます」
「ありがとうございますっ!」
由莉は少しだけムスッとしながら、えりかは元気にそう言うと二人で後部座席に乗った。もちろんシートベルトはしっかり付ける。
由莉は最初だけ少し機嫌が悪かったものの乗っている内にだんだんとテンションが上がった。
(だって、よく考えたら普通に外出るの初めてだよ!1回目は必死になって逃げてきただけだし、2回目はえりかちゃんを売買しようとした人たちを狙撃するためだったから……)
次第に嬉しそうに足をバタバタさせ始めた由莉を見て安心したえりかも笑顔になった。
「そう言えば、阿久津さん、どこへ行くのですか?」
「思い出を作るための準備をしに行きます。それと好きな服も買っていいですよ」
「服……えりかちゃんそう言うの分かる?私、全然分からないよ……」
「うん……わたしも全然…………」
服に関する記憶がないえりかと、そもそもほぼジャージ生活を送ってきた由莉。二人とも服を選ぶことには縁が全くなかった。
「大丈夫ですよ、私もついて行きます。……少しはそういったものは見てきましたし」
「……?」
変にためを入れた阿久津に少しばかり疑問が残る由莉だったが、気にしないことにした。
「それにしても、えりかちゃんと一緒に外に行けるなんて嬉しいな〜」
「わたしもだよ〜どこに行くのか楽しみだねっ」
「うん!」
二人は車の中でも手を繋いでくっつきあいながら、車の揺れに身を任せながら目的地に到着するのを心待ちにするのだった。
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