二人の本当の絆

普段からしたら文量が倍あります

それくらい大事な部分なので今回は分けません

それではどうぞ!

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 しばらくして由莉とえりかが落ち着いたのを確認すると阿久津は二人を近くに呼んだ。


「二人とも少しいいですか?……大事なお話があります」


 由莉はまた何かの依頼かな?と思いふとえりかを見ると少し元気がなさそうだったことからすぐにえりかに関する事なんだと理解した。


 ____また、えりかちゃんに何かしようとしたらあの子で頭をぶち抜くって言ってやるんだ、うん。


 そう軽く決意すると阿久津のそばまで近づいた。


「それで、大事な話ってなんですか?……と言うか、えりかちゃんの事ですよね?変なことを言ったら……本当…………に……?」


 まくし立てるように喋る由莉だったが阿久津の少し沈んだ表情を見てそんな気もなくなってしまった。


「はい……由莉さんの言う通りえりかさんの現状についてです……由莉さんもえりかさんも覚悟して聞いてください」


 由莉はえりかと目を合わせるとうなずき合い阿久津を見た。


「まずは……えりかさんの過去ですが……恐らく、あなたは殺し屋……もしくはそれに近いものであった可能性が極めて高いです」


「っ、……なんとなく、分かってました」


「えりかさんのナイフの技術、由莉さんに教えてもらって急に出来るようになったと思ってるかもしれませんが……身体に染み付いていた動きを思い出したんだと思います」


 阿久津から語られるその言葉に由莉は黙って聞いていた。少しだけ異常だと思っていたのかすんなり理解出来た。


「そして、えりかさんの殺気を前にした時の堂々とした様子、あの身体の動き……最低でも4年、もしくはそれ以上やってきたはずです」


「4年……っ」

「よ、4年ですか……!?」


(つまり……えりかちゃんは、幼い頃から殺し屋として育てられたの……!?)


 由莉には信じ難かった。だが、心当たりもあった。阿久津の殺気を初めて見て普通の人が無事に立っていられるわけがないと由莉は思っていた。


「ということは……わたし、もう人を……」


「そう、でしょうね。さっき戦った時のえりかさんの行動……死線を何度もくぐり抜けてきた人のように感じました。最低でも……50人」


「っ!?」

「…………っ」


 えりかは違うっ!……とは言えなかった。少し蘇ってきた記憶の中に血がべっとりと付いた自分を見た時、なんとも思わなかった。


「ゆりちゃん……多分、阿久津さんの言ってることは本当のことだよ……っ。わたしも……人を殺したことあるみたい……それもこんなにもこの手で……っ」


「……そっか。でも、そんなことでえりかちゃんから離れたりなんて絶対にしないよ」


 震えるえりかの肩をそっと持つと少しだけ震えが収まった。これを知って由莉が怖がらないかえりかはとても不安だったのだ。


「ゆりちゃん……」


「えりかちゃんは私のこと受け入れてくれたのに、逆の立場になったら離れるなんてそんな真似、できないよ……信じてくれる、かな?」


「うん……っ」


 その言葉を聞いて安心したのか震えていた肩から力が抜けていった。

 これで、大丈夫____


「……由莉さん、実はもう一つあるんです。それは……いや、これはえりかさんから直接聞いた方がいいのかもしれませんね……」


「えっ?どういうこと……ですか?」


「…………っ」


 えりかも心当たりがあった。だが、阿久津から話を振られると思っておらず動揺を隠せなかった。


「ねぇ、教えてよ……えりかちゃん!!」


 不安をかき消すように尋ねる由莉にえりかは少しだけ落ち着くと一言ずつ喋っていった。


「…………ゆりちゃん、わたしさ記憶を無くしてるよね」


「う、うん……」


「そして……ゆりちゃんは何もなかったわたしに『えりか』って名前をくれたよね」


「うん」


「それで、ちょっとすれ違ったけどずっと楽しくやってきたよね…………っ」


「うん、うん……!」


 嫌な予感がした。ただ、単純に聞いちゃいけないことのように由莉は感じた。


「もし……これが正しいならっ、わたしは…………記憶を取り戻した瞬間、」


「っ、待っ____」


『えりかとして生きている今の記憶がすべて消えるかもしれない……っ』


 考えていた中で最も最悪の答えだった。頭の中が一瞬で真っ白になった。__嘘だ、そんなことあるわけ……だって……っ!


「……っ!!そんな……嘘だよね……?阿久津さん、えりかちゃんの言ってることは……」


 助けを求めるように阿久津を見ると深刻そうな顔でいるのを見て由莉は足の力が抜け一歩後ろにたじろいた。


「そんな……っ、そんなことって!」


「……記憶喪失の状態から戻った時、記憶を失っている間の記憶は忘れるケースが数多くあります。普通なら性格まで変わる、なんて事は無いはずなのですがなくしている記憶が殺し屋時代の記憶だとしたら……性格まで変わってしまう可能性もあるかと」


「っ………!」


 あまりのショックで崩れ落ちた由莉をそっとえりかが支えになった。


「ごめんね……わたし1ヶ月前から何となく分かってたんだ……でも、ゆりちゃんには言えなかった。だって、」


 えりかも同じように膝を折ると悲痛さに顔をゆがめている由莉をじっと見つめた。


「あんな辛そうにしているゆりちゃんにこんなよく分からない事話したらどんな反応するのか怖かった…………っ」


 由莉が自分の正体を明かすのに苦しんでいる裏ではえりかも同じように自分の記憶が戻った先の事を考えて苦しんでいたのだ。その事実に気づいた由莉はえりかにしがみつき大粒の涙をこぼした。


「ごめん……っ、あの時もっとえりかちゃんのことも考えてあげられれば…………」


「ううん、気にしないで……?前のことを悔やんだってしょうがないよ……だから、今は後のこと考えよ?」


 今だけは……由莉はえりかに甘えたかった。えりかがまるでお姉ちゃんみたいに___


「うん……っ」


「それでなんだけどね……ゆりちゃんに一つだけお願いがあるんだ……多分、わたしの最後のお願いになると思う」


「……なぁに?言ってみて?」


 その由莉の優しい声を聞いて安心したえりかは覚悟を決めて話した。


「……わたしが記憶を取り戻して、殺し屋としての記憶だけが残ったら……多分、ゆりちゃんを傷つけちゃう。この体で大好きな人を傷つけて……殺してしまうなんてそんなことしたくない…………」


「…………」


「だから、もし記憶を取り戻したわたしが本当にゆりちゃんを傷つけようと動こうとしたら……その時はわたしを殺してほしいな……っ」


 えりかの心からの思いを聞いた由莉は黙って下を向きながら抱きつくのをやめると、




 思いっきりえりかの頬をぶっ叩いた。




(えっ…………?)


 えりかは由莉の突然の行動に辛うじて頭は守ったものの理解出来ずに床にせることになった。


(いったい……っ!急に何を……っ!?)


 左頬の痛さに呻きそうになりながら由莉を睨むと……


 由莉は顔を真っ赤にして涙を流しながらえりかを睨み返していた。


「……なんでそんな事を私にさせようとするの!?もし、えりかちゃんを私が殺さなきゃいけなくなったら……その時は口に銃を突っ込んで私も死ぬから!」


「なっ……そんなのわたしはして欲しくな___」


「じゃあ、諦めないでよ!?一緒に考えようよ!一人で……一人で考えて勝手に決めつけないでよ!それに、そんな悲しい最後なんて私が絶対に否定する!」


「だったら……どうすればいいの…………っ、もう分かんないよ…………うぅぅ……っ」


 これしかないと決めていた事を全力で拒否されどうすればいいのか分からなくて泣きじゃくるえりかを起こすと由莉は額と額をしっかり合わせた。


「でもさ……絶対に消えるとは限らないんだよね?もし、記憶が消えるか消えないかが運ならえりかちゃんは絶対に勝てる。だって、えりかちゃん運に関しては私より遥かに強い。単なる運ゲーだったらえりかちゃんは確実に勝てるよ」


「でも、こんな危険な賭け……失敗したらどうするの……?」


「それは……っ。そんなこと考えなくてもいい。絶対に勝てる、そのために……そのためにも……っ」


 由莉は考えた。脳細胞一つ一つを壊すつもりで考えまくった。幾億とあるえりかを殺すエンド、自分が殺されるエンド、絶望を何度も何度も乗り越えた。自分だっておかしくなりそうだった、けど、えりかちゃんを助けるためなら死ぬギリギリまでやってやる!そんな思いで意識のさらに奥へと潜り底まで探したその先にたった一つある可能性を探り出すことが出来た。最も単純で最も可能性のある賭け。


 ___あった!これならえりかちゃんならほぼ100%勝てる!


「……じゃあ、絶対に消えない思い出を作ろうよ!えりかちゃんが生きている今、たっくさんたっくさん思い出を作って記憶が戻っても……殺し屋としての血の記憶に負けない……いや、それに勝っちゃうくらいすっごい思い出をさ!」


 目を輝かせている自信の塊の由莉にえりかも惹き込まれた。絶望をひっくり返す逆転の一手のようにも思えた。それでも、えりかにはまだ不安なことが一つだけ残されていた。


「でも、いつまでわたしがわたしのままでいられるか……」


「それまででもいいっ!!私は……っ、記憶を取り戻したえりかちゃんとも仲良くしたいし、今だって仲良くしたい。ずっとずっと……私はえりかちゃんのことが好きだよ!!」


「……そっか、やっぱり……ゆりちゃんだ。わたしが大好きなゆりちゃんだぁ……っ」


 どんな自分でも受け入れてくれる。そうはっきりと言ってくれる由莉がたまらなく心強かった。もし、それでも記憶が消えちゃってもゆりちゃんなら本当のわたしとでもきっと仲良くやっていける、そんな確信をえりかは持った。


「えりかちゃん、やってやろうよ。悲しい運命なんて私たちで塗り替えちゃおうよ!」


 運命を覆すこと、それがどんなに苦しく辛いことなのか由莉自身も分かっているつもりだった。それでも……いや、だからこそえりかに付き纏うそれも変えたかった。


「うん……!ゆりちゃんとの記憶なんて消させない、絶対に……っ!」


 由莉とえりかの目にはもう戸惑いなんてものは無かった。覚悟と挑戦、二つの大きな感情で埋め尽くされていた。



 二人のえりかの記憶を賭けた戦いと言う名の思い出作りが始まろうとしていた。

 その先に待つのはハッピーエンドか……はたまたバットエンドか____その答えはかみのみぞ知る…………


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