マスターと6年前の約束
___由莉が阿久津の元へ訪れるちょっと前
「…………はぁ」
マスターは一人机の上で肩を落としていた。普段の威厳など今だけはなかった。
「あれから……6年が経つのか」
ふと棚の方を見るとかなり時間がたったせいかセピア色に色あせた手紙が一つ置いてあった。
「はぁ…………」
「浮かない顔をしてますね、マスター」
「阿久津か……」
阿久津が部屋の中に入ってきてもマスターの顔色は変わることはなかった。
「6年……ですか。信じたくないですね……時が進むのは」
「まったくだ……約束も果たしてやれてないからな…………あの二人にも顔向け出来ないな……」
マスターはそう言うと引き出しから1枚の写真を取り出した。マスターと阿久津の後ろにいる男女2人。この二人との約束を果たすことが出来なかった不甲斐なさにマスターは思い出す度に一人で項垂れていた。
「何せ情報が少なすぎて調べられませんし……」
阿久津も声のトーンが落ちていた。
「そうだな……必ず私の元で幸せにすると約束したのにな…………6年が経ってしまった……」
「…………」
二人の間にはなんとも言えない沈黙が広がっていた。……それほどまでにこの二人との関係は深かったのだ。でも今は、もう____
「……阿久津、しばらくここを任せていいか?」
マスターに突拍子もない質問をされ目を丸くする阿久津だったが、すぐに事情を察した。
「私は構いませんが……他の場所で何かあったんですか?」
「あぁ……そこで問題が発生してな、今すぐ私がいかないと手遅れになりそうだ。3ヶ月くらいで戻ってくるつもりだが、いいか?」
「…………分かりました。けど、せめて由莉さんやえりかさんに1回会ってからでもいいのでは……」
阿久津がそう尋ねるとマスターは少し考えがあるように目を閉じながら話した。
「由莉は少し私に甘えすぎな気もする。たまにはいない時にも慣れておかないといざと言う時耐えられなくなるからな……」
「不謹慎ですよ、マスター。それ由莉さんの前で言ったらまず泣きつかれますからね?それに、マスターが死ぬなんてことはありえませんよ」
マスターへの絶対的な信頼故の確信が篭った口調で話す阿久津を見てマスターも少し顔が綻んだ。
「そうだな……さて、もう私は出るとしようか。由莉の事、頼んだぞ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
玄関口までマスターを見送ると、阿久津はそろそろ二人がどうなったのか見に行こうかと地下へ向かおうとしていたその時、
「はぁ、はぁ…………阿久津さん!」
前から息を切らしながら走ってくる由莉の姿が見えた。
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