由莉は秘密を打ち明けました

 ____そして次の日



「それじゃあ……色々と準備あるから……1時間後に阿久津さんに連れてきてもらってね」



「うんっ、分かったよ」



 由莉はえりかの優しい笑顔を見て少しうれしかったが……これでこんな笑顔を見れるのは最後なんだと思うと辛くて辛くてどうしようもなかった。



 ___けど、えりかちゃんには弱音を吐けない。……吐くわけにはいかないから。



「それじゃ……行ってくるね…………っ」



「っ、ゆりちゃん!」



 感情を食い殺して何とか笑顔を浮かべた由莉はすぐに何かを耐えるようにえりかの制止を振り切って部屋を飛び出していった。



(ゆりちゃん……なんで…………)



 ____________



「うぅ………うううぅぅ………っ」



 由莉は涙をボロボロ流しながら無我夢中で地下室へと走っていた。



(いやだ……えりかちゃんと離れたくない……離れたくないよぉ……でも、このままじゃ……ダメだから……教えるって、約束したから…………っ)



 涙で視界が歪み、阿久津の横を通り過ぎたのでさえ由莉は気づかなかった。そして、その様子を阿久津は少し悲しそうに見ていた。



 ___由莉さん……そんなにあの子の事を……そう、ですよね……



 阿久津は少しため息をつくと由莉の部屋にいるえりかの元へ向かった。部屋に行くとドアの向こうにベッドに座っているえりかの姿があった。



「失礼します」



「あっ、阿久津さん。おはようございます……あの、まだゆりちゃんの言った時間には少し早いと思いますけど……」



「はい、知ってます。それも含めてえりかさんにお話しなければいけないことがあって早めに来ました」



「なん……ですか?」



「それはですね…………」



 ________________



「はぁ……はぁっ、はぁ…………っ」



 地下室についた由莉は頭がおかしくなりそうだった。あまり走っても疲れない距離のはずなのに動悸が激しく、涙で視界が歪んでいるのと目眩があいまって今にもぶっ倒れそうだった。



「これで……いいんだよ……これでいい…………」



 自分にそうやって言い聞かせていたが、ついに耐えきれなくなり、誰もいない、自分しかいない地下室で由莉は誰にも言えない自分の本音をぶちまけた。



「そんなわけないでしょ!?人に嫌われる事が大丈夫?そんなこと出来るわけないでしょ!?大好きなえりかちゃんとこのままずっと楽しく過ごしていたい……もっと話したい。もっと遊びたい。もっと……もっと笑っていたかったっ!!なのに、私がスナイパーだから……人を殺すのが役割だから……えりかちゃんがこれを知ったら……もう…………っ」



 心の限り、涙の限り、声の限り、一人の少女は大好きな子のために苦しみ、泣き叫んだ。



 ふらふらになりながら由莉は銃の保管庫にある自分のケースを持って出ると中にある自分の愛銃、バレットM82をすばやく組み立てた。



「ねぇ……これでいいんだよね……」



 由莉は返ってくることの無い質問を抱きしめた銃に対してしてみた。当然、答えはない。



 ____今日で……えりかちゃんとの関係は崩れる。それなら……もうえりかちゃんが私を見ても苦しまないように…………




 突き放してさよならしよう…………




 由莉は涙ながら決意するとえりかが来るまでの間、必死になって感情を殺そうとしたのだった。



 _________



 __1時間後



 えりかは阿久津に連れられ初めて地下へと足を踏み入れた。灰色の高い壁にどこまでもありそうな広いスペース。階段を降りる間はそれに魅入っていたが、少し離れたところに由莉とその側にある大きなものを見つけ少し息を呑みながら由莉の元へと近づいていった。



「……えりかちゃん」



「ゆりちゃん……?」



 えりかは由莉の目を見てすぐに異変に気がついた。……感情が全くないのだ。いつも側にいてくれた由莉の初めて見るその様子に、えりかはえも言われぬ怖さを感じた。



「これ……耳につけて」



 まるで人形のように由莉が差し出したのは由莉自身が元々付けていたイヤーマフだった。えりかは頷くとそれを手に取った。



「……今から私がやる事、目に焼き付けてね」



「うん、分かった……」



 えりかはそう言うとイヤーマフをそっと耳につけた。すると、周囲の音が全然聞こえなくなり、聞こえるは耳に手を被せた時に聞こえるさざ波のようなあの音だけだった。

 その間にも由莉は銃弾を1発だけ弾倉に押し込み、装填するとすぐにコッキングレバーを引き給弾を行った。そして、狙うのは200m先にあるガスボンベだった。



 由莉はスコープでその缶の中央に照準を合わせると躊躇なく引き金を絞った。



 えりかはその瞬間を言われた通りしっかり見ていた。由莉が構えている何かの先が爆発したかと思ったと同時に重い音が耳を突き刺し呻きかける___が、すぐに2つめの爆発の音と衝撃がえりかを襲った。そして、かなり離れたところで爆発したその炎と黒い煙が激しく渦巻く光景にただえりかは呆然とするしかなかった。



 ___今のって……ゆりちゃんが…………?



 そう思っていると由莉がおもむろに立ち上がり後ろを振り返ると、えりかの耳につけられたイヤーマフをそっと取り外した。



「これが、えりかちゃんに隠していた秘密。私は本当はスナイパーなんだよ。そして___」



「スナイパー……?それって……っ!?ゆりちゃん、何やってるの?」



 えりかは由莉の起こした行動に思わず声を荒らげてしまった。由莉は再び前を見てしゃがむとその黒くて大きい愛銃を持って振り返りえりかの顔に銃口を突きつけたのだ。



「………人を殺すのが私の役割なんだよ」




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