由莉と由莉
「えっ……?えっ?」
由莉は目の前の自分の雰囲気の変わりようにびっくりした。さっきまで冷気を纏ってるみたいな雰囲気だったのに、今は……すごく明るい……太陽みたいな……これが素の自分……私?
〈うんっ、言ったでしょ?あなたはわたしだって〉
「……なんだぁ〜本当にわたしなんだね」
少し考えればそうだ。もう一人の由莉は『あくまで』由莉の心であって、別人格って言うわけでもない。言いたくないことを言えばその分心はボロボロになる。心なのだから表層意識では必死に閉じ込めようとしてる事を無理やり引き出すことはカエルの内臓を引きずり出すような行為だ。故に____
〈そうだ……よ…………う……うぅ……っ!うああぁぁぁ……うわああぁぁぁっ!〉
一度気が緩んだもう一人の由莉に絶死をも軽々と超える苦しみが襲い、心身を食い散らかした。自分の大切な人を殺すなんて……そんな事、並大抵の気持ちで言える訳がない。ましてやもう一人の由莉にはなおさら___
「大丈夫、大丈夫だから……あなたは私を助けようとしてくれた。あなたがいなければ……自分一人では超えられなかったから……自分を責めたらダメ。もし、自分がそれを許せなくても私が許すから泣かないで?」
由莉は今すぐにでも消えてしまいそうなもう一人の由莉を抱きしめた。私が阿久津さんやマスターにしてもらったように___今度は私が。
〈私は……私はあなたを傷つけたんだよ?仮にあなたのためだったとしても……最低な事を言った事には変わりない。なのに……許すの?〉
「……許すよ」
〈っ!本当に……あなたって人は優しすぎるよ……〉
「……確かにあの時はあなたを殺したくもなった。大切な人を殺すなんて言われれば『私』は確実に殺意を覚える。私の狙いだったんでしょ?」
〈……すごいよ。そこまで読み取るなんて〉
なぜ?と聞こうとしたもう一人の由莉は由莉の言葉に遮られる。
「だって、あなたは私、だからね。……もう落ち着いた?」
〈うん……ありがと……〉
「……自分に自分からお礼を言われるってなんだか不思議な感じだね、あはは」
すごい不思議だった。全く同じ声、同じ容姿、今は性格さえ同じ人が目の前にいる。そんなの現実だったら間違いなく
もう一人の由莉は少し離れると、由莉の顔をしっかり見据えた。
〈さて、あなたは答えをだしたよね。その決意をした今ならきっと私の愛銃もその思いに応えてくれるはずだよ。〉
「うん……っ!」
〈だから…………あっ___〉
「どうしたの……?って、なに……これ…………」
二人の由莉が見たのは真っ白の空間が段々と崩壊していき真っ黒な世界が顔を覗かせ始めている様子だった。
〈そろそろ私の目が覚めるみたい……もうすぐお別れだね〉
「……そっか……」
少し感慨深いような素振りをしていると急にもう一人の由莉は由莉の肩をガシッと掴んだ。
〈いい?もうあまり時間がないから伝えておくね。大事なことだからしっかり聞いてね〉
「う、うん。分かった!」
もう一人の由莉の切迫した言い方に押された由莉は一言でも逃すものかと集中した。
〈あなたの過去の記憶は多分これから少しずつ蘇ってくる。それは……とても辛い……記憶。だけど、今のあなた……私ならきっと向き合う事が出来ると思う。そして……全ての記憶が蘇るのは……お母さんを殺す時〉
「っ!?」
〈その時には……きっとあなたを『ゆーちゃん』って言ってる子の正体も……分かるから〉
「……うん」
もう一人の由莉はどこか哀愁漂う表情をしていた。その原因がその子の事なのもすぐに由莉には分かったが敢えて触れないようにした。
そうしてる間に、空間のヒビは由莉たちのすぐ側まで来ていた。白と黒の単調な世界だが、どことなく幻想的にも感じられる風景だった。
もうすぐ……目が覚める。
〈それじゃ……お別れだね〉
「うん……」
もう多くを語る必要もなかった。
〈……これはあなたの人生。1回しかないそんなものだよ。だから、〉
〈『あなただけの物語を作ってね』〉
二人の声が重なって由莉の耳には届いた。一つはもう一人の由莉の声。もう一つは___その少女の声。
「っ!?うん!」
すごく心が癒された。自然と涙も流れ出た。こんなにも励まされる言葉は……無いかもしれない。
その少女の声はもう一人の由莉にも聞こえていたらしくその顔には冷たい筋か一本、目から伝い安らかな顔をしていた。
〈さ、行って!〉
「分かっ__ひゃっ!?」
由莉は背中を力一杯押され白い空間からどこまでも続きそうな真っ黒い所に放り出された。足が離れる直前に身体を捻っていたから後ろの様子がなんとか見えた。そこには身体を思いっきり前に突き出しながら両手の掌を見せる由莉の姿があった。手を伸ばそうとするが届くわけもなく、
「ひゃあああぁぁぁーーー!!!」
由莉は重力に従って、どこまでもどこまでも落ちていった。
〈あなたと会うのは……きっと次が最後だよ〉
その直前にもう一人の自分のそんな声が耳に優しく残っていた_____
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