過大評価に対する考察

支部長、と呼ばれる事に以前の様な抵抗は無くなった。

むしろそう呼ばれる事を、自分の立場を実感し立ち続ける為のエネルギーにしている。

している、のだが。

榎本結絆にそう呼ばれる時は、特にどうにも複雑な心持ちになる。

彼が俺を自分の居場所だとか、そういうウェイトの重いモノの象徴の様に考えてる事はなんとなく察していた。

そういう感情が、俺を支部長、と呼ぶ時にちらりと見え隠れするからだ。

かつて俺は彼のしたい事を、それを良しとしてやりたい様にさせていた。

だからだろうか、彼が俺の事を自分の心を踏みにじらない上司(おとな)だと思っているのは。

しかしそれは彼の買いかぶりだ。

俺はただ何を指針にしたらいいのか途方に暮れ、一番分かりやすく『もっともらしい』目的を持っていた榎本結絆を行動指針にする為に彼の心情を優先した。

要は自分が動く為の理由を彼に押し付けたのだ。

だからこそ、彼に支部長、と呼ばれる度に少し心苦しくなる。

その信頼が少し眩しくて、ふいと目を逸らしたくなる時が多々あった。

信頼は嬉しい、でも俺はその信頼に足る人物では無い。

自分の中で相反する思考を、多分聡い彼は気付いているのだろう。

俺は上手く隠しているつもりだけれども。

かつて俺が動く理由を求めた末に掬い上げられた彼の掛け替えのない親友は、榎本結絆が聡明で自分の大切なものを諦めない人間だったからこそ救われたのだ。

だからきっと、俺がこんな事を考えている事くらいは聡明な彼にはお見通しなんだろう、多分。

それでも俺はそれに気付いてないフリをして、上手く隠せていると思ってる様に振舞っている。

気まずい気持ちを誤魔化す為に、他愛のないからかいで彼の頬を摘んでへらりと笑うのを、彼はどういう風に思ってるのだろう。

眼下で怪訝そうな顔をしながら、何するんですか支部長、と宣う彼に曖昧な笑みを浮かべて「別に?」と答えた。

俺が君の信頼に面と向かって答えられない事も、君の名前もちゃんと呼ぶ勇気がない事も、どうか知らないフリをしていてくれますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少年Aの酷薄 ゆに @yuni_sisn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る