第2話 想定外のミス

 最適な家族。


 パートナーこそはマッチングできるのだろうけど、家族は到底無理だと思う。


 親としての適性があるから子供を立派に育てあげられた、子供としての適性があるから親と仲良くなれたケースは、決してないと言い切れずとも、あったとしてもまれ中のまれだろう。


 親は子が選べず、子も親が選べないのがディフォルト。誰もが不適合な子にして不適切な親からのスタートで、自分以外の人間とともに暮らすことで、我慢しながら役割に適した形になってゆく。


 理想な家族はあくまでも結果。

 最適な家族なんてただの空想。


 古今東西のしあわせ家族をAIにいくら学習させても、最適は弾き出せないはずだ。


 幻影はいくら分析しても存在しない。


 もちろん再現もできないはずだ。


 だしたら、この「親子マッチングプロジェクト」は、結婚相談所などのプログラムをベースにいじっただけで、それをマッチングAIだとでっち上げ、税金を削り取るために国をくるめて仕組んだ——世の中すべての親と子供の叶わない願いにつけ込んだ、壮大な詐欺ではないかと思わざるをえない。


 懐疑できる痕跡があるとしても、証拠もなく決めつけるのも良くないので、チサはプロジェクトの資料を請求し、オンライン方式で申し込み、いくつか仕掛けを施して提出資料を送信した。


 希望役割項目を空欄にするのが一つ。普通なら記入の不備だと見なされ、申し込み自体がはじきされるはずだけど——なんと普通に受理されて、案内書や新生活マニュアルなどの書類を含めたスタートキット一式が送られてきた。


 マッチング結果も。


 空欄にしていたのも関わらずに送信できて、しかもマッチングもできてしまうところから、システム自体がザルだと判断しても良さそうだが、この欠損した条件から自分が親に振り分けられたのに、チサは違和感を覚えた。


 貰うより与える立場に指定されたのだ。


 あるいは誰から何かを貰う資格がないとAIが見抜き——それともインチキプログラムに判定された。


 知ってた。


 貰う資格も立場もないことぐらい——だからこそ背を向けたかったのかもしれない。


 思えばいろんことから背を向けてきた。


 いまもなお電車の進行方向に背を向けている自分が、見知らぬ少年にどんな表情で向かえばいいのか。


 一番ほしいものが、まだ手に入っていないのにも関わらず、与えろというのか。


 理不尽だ。AI云々だなんて、やっぱインチキだろう。


 とは言え、チサの探偵ごっこはコウジくん——「息子」と振り分けた少年と関係ない。


 ロクでもない親を振り切って、マッチングシステムが見つけてくれた「最適な親」との新生活を楽しみにしているかもしれない少年に、自分はいつ、どう説明すればいいのか。


 あなたとの出会いはミスを狙った結果で、想定内のミスなのだ——と、言えるわけないのだろう。


 少なくとも面に向けては無理。


 何を話せばいいのか。


 とりあえず会ってちゃんと親としての役割を果たし、3ヶ月間のお試し期間が終わったら「不適合」だと申告しようか。


 答えが見つからないまま、チサは中野なかのに行き着いた。


 当駅止まり。


 ◇


 それからおよそ15分後。


 先ほど電車の中で考えたあれやこれやなどとは、すべては要らぬ杞憂だったと、チサは確信した。


 なぜなら。


 受け取った資料に書かれた17才の少年が、おっさんだったから。

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