金沢ひがし茶屋街外れの町家

沢田和早

 

前書き

 石川県金沢市は江戸時代以降加賀前田家の金沢城を中心にして栄えた北陸三県最大の都市である。加賀百万石として知られるように、外様大名でありながら徳川家に次ぐ石高を誇り、裕福な藩財政によって歴代藩主が進めた文化政策は、京の都と遜色ない金沢文化を開花させた。その伝統は幕藩体制が終了して百五十年を経た今も受け継がれている。


 金沢は地形も京に似ている。金沢城のある小立野台地は二つの川に挟まれている。南西を流れる犀川は京の桂川、北東を流れる浅野川は京の鴨川に例えられるだろう。男川と呼ばれる犀川に対して女川と呼ばれる浅野川右岸には観光名所が多い。市街地を一望できる卯辰山、その山麓にある寺院群、そして江戸時代に加賀藩公認の廓であったひがし茶屋街。


 町家喫茶卯辰はその外れにある和風の喫茶店だ。築百年を超える三階建ての町家を改修し、二〇一六年十月八日にオープンした。今では多くの観光客を魅了するスポットとなった古民家ではあるが、二十五年前、そこは老夫婦の大家と数名の大学生が住む下宿でもあった。


 大学がまだ金沢城跡に建っていたころ、浅野川に架かる梅の橋で過去と現在が交錯する……これはそんな物語。

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