ナイフ

裸木のまま、あるいていると

胸のうらにまで、電線が刺してくる

おれだってナイフくらい

使えるぜ、二足歩行の

猫がいった


だれの食器も見当たらない、みんな

帰っちゃったんじゃない?

、あ

と息をのんでふりかえる

峠のむこうへ畦道が

失語のリズムで続いていた


あくる朝、初版の骨折が山から

おりてくる、杖はつかずに

唾液でかためた、袈裟をかぶって

みた人は悉く

瞼をこわしてしまった

眦からあふれる水銀に

からまる稲穂が燃えていく


骨のふりした金属が

窓枠に肘をついている

「夕間暮れの秋空は、」

弁解しても、控訴の余地もない

マグカップの底で、じぶんの影が

つぶれている

喉から、喉でないものが

こみ上げて


指をくんで寝そべる裸身に

たてられる蝋燭、ナイトインザウッズの

毛並みにさわられる

うまれてこないでみても

誕生会は終わっていた

刺し傷に繁られて、いきてはゆけぬかと

たずねても


おれだって詩ぐらい

書けるんだぜ

だとよ

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