第十九話 リンと魔法の修行 ※リン視点
「魔法を教えてください!」
「リン様? 急にどうされたのですか」
「魔法を教えてください……お願いします!」
「ふむ……」
悩んでそうなシルキーさんに、もう一度お願いする。
お姉ちゃんはこれからもきっと、わたしと一緒にいようとしてくれる
でも、大変な時とか、危ないことには連れて行かないで一人でどこかに行っちゃう
「リン様。それはなぜですか? なぜ、魔法を覚えたいと?」
「お姉ちゃんの力になりたいから」
「ミスティ様は極力、巻き込みたくないと思いますが」
「それはわたしが弱いからだもん……」
今回だって、ほかに旅人さんがいたことは聞いたけど
でも、わたしにとっては、お姉ちゃんが一人で行っちゃったのと変わらなかった
剣や魔法が使えないから、危ないから
そう言って、お姉ちゃんはわたしを置いて行ったんだ
だから、お姉ちゃんがお休みしていないといけない間に、少しでも魔法を覚えたいと思った
「しかし、かといってすぐに実戦に用いることができる魔法は習得できませんよ?
ミスティ様が今回乗り越えられたのは実戦レベルの魔法が込められた魔法石あってこそです」
「いますぐ出来ないのはわかってるもん!」
「!」
「わかってるもん……でも、お姉ちゃんだって、魔法はぴかぴか光る魔法しか使えないもん!」
まだ村にいるとき、お姉ちゃんが魔法の練習をしているのを見たことがあった
その時に、自分には魔法の才能がないって言ってたことや
その分、剣で頑張ろうとしてるって言うことも聞いちゃったから
「少しずつで良いから、魔法が使えるようになりたい」
「魔法は最も才能に左右される技能ですから簡単ではありませんし、
貴女に才能がない場合、魔法は中途半端な力しか発揮することはできません。
その中途半端な力が、貴女だけでなくミスティ様も危険に晒す可能性があります。その覚悟はおありですか?」
「さいのうがないなら、努力する!」
「ですから、それだけでは――」
「お姉ちゃんのことを助けたいの!」
「……リン様」
シルキーさんは呆れたような顔で私を見る
わがままだって言うのはわたしも分かってるけど
でも、どうしても魔法を使えるようになりたかった
(一緒に……いたいもん)
お姉ちゃんはきっと、これからも大変な事ばかりだと思う
そんな時に、ただ隠れてるだけ待ってるだけじゃ嫌だ
帰って来るって約束だけしてお姉ちゃんがいなくなっちゃうなんて嫌だ
「お姉ちゃんが魔王様でわたしがそくしつになるって約束したの」
「魔王様……?」
「シルキーさん?」
「あぁ、いえ……それにしても側室ですか……」
シルキーさんはちょっとだけ怖い顔になったけど、
すぐにいつもの笑顔になって分かりましたって言ってくれた
「良いですよ。ミスティ様には借りもありますし……リン様に魔法をお教えしましょう」
「やったー!」
「ふふふっ……ミスティ様は中々戦いの才能があるようですし、リン様にもそれくらいの才能はあるかもしれませんからね」
「お願いします!」
こうして、わたしはシルキーさんから魔法を教わることが出来るようになった
とりあえず、お姉ちゃんが動けるようになるまでの半月間
わたしはお姉ちゃんのところに通いながら、フレシアさんのおっきなお家で魔法の勉強をすることになりました
―――――
まずは、お姉ちゃんと少しずつやっていた読み書き
魔法を使うには言葉の意味をちゃんと理解していないといけないとのことで
そのために、色んな本を自分で、読んでいかないといけない
(知らない言葉ばっかり)
沢山の難しい本、知らない言葉を一つ一つ、自分で調べながら読んでいく
シルキーさんは魔法を教えてくれるといったけど
私はまずその基礎を頑張らないといけないと言われた
次に、魔法の種類
(これはお姉ちゃんが良く教えてくれていたので、ほとんど知っていた)
基本が土・水・火・風の属性魔法
それを組み合わせた雷や氷の複合属性魔法
自然に満ちたマナというのを扱って光らせる光魔法
精霊さんにお願いして力を借りる精霊魔法
(それで、鍛えてない人が四属性の中で使えるのは一属性。それと光魔法なんだよね)
属性魔法は自分の体の中に宿る魔力を用いて行使する
そして魔法を使うたびに、より効率的に魔法を使えるようにするために、
体内で属性変換がされていくから、基本的には一つの魔法以外が使えなくなっていっちゃう
それでも頑張って鍛えて行けば、一握りの人は三属性までなら使えるようになる可能性があるらしい
二属性ならほとんどの人が使えるけど、やっぱり、魔力効率が悪かったり威力が中途半端になっちゃう
(でも、家事で使うなら問題ないから普通の人でも二属性使えるようにしてるみたい)
「さて、リン様」
「はい!」
「良いお返事ですね。リン様は魔法を使われた経験がないとのことですので
これから自分が極めたいと思う魔法を積極的に覚え、利用し、応用できるようにするべきかと思います」
「三属性魔法を使うことはできますか?」
「三属性扱えるのは本当に稀で一握りの人だけです。それこそ、魔王見習いと名乗っても良いかもしれません」
シルキーさんはそう言って
三属性を最初から覚えようとするのは負担がかなり大きいということなので
わたしはまず、火属性の魔法を覚えることにした
「火属性なら自分の体内の水を……まぁ、それは良いでしょう。まずは光魔法を使ってみましょうか」
「光魔法ですか? 火属性魔法じゃないんですか?」
「光魔法は魔法が現時点でどれだけ扱えるのかの良い指標となります。
ですので、今から光魔法の使い方をお教えいたしますので試してみてください」
そう言われて、教えて貰った光魔法の使い方
お姉ちゃんが言っていたあの小さなお歌みたいな言葉の一つ一つ
その意味をしっかりと考えながら、掌の上に光を集めていくことを想像する
「星の雫よ。集いて導く輝きとなれ!」
掌に集まっていく小さな光は急激に大きくなっていって、
バンッっていう大きな音を出して爆発した
「あ、割れちゃった」
「なるほど。リン様。どこかで風魔法をお使いになられていませんか?」
「ううん、使ったことないです」
「そうですか? それは……」
シルキーさんはしばらく考え込んだ後、
何もなかったみたいに、「合格です」とほほ笑んだ
―――――
魔法のお勉強三日目
「火よ。生命の燈火を映せ」
まずは小さな火から頑張った。
シルキーさんが言うには、家庭で最も使われる下級の火魔法で
なにかを焼いたり、燃やしたりする料理とか、お風呂とか
使い方によっては洗ったものを乾かすために使ったりするらしい
(そして……んっ)
魔力供給量を増やすことで弱火は中火、強火と料理で使う段階の大きさの炎にすることができる
わたしの場合はなぜか風属性が混入してしまうらしく、シルキーさんに許可されているのは中火までの使用
そうじゃないと、中火でも強火の火力に相当するわたしは確実に事故を起こしてしまうらしい
(風属性……使ったことないけど)
シルキーさんは、何かしらのきっかけで
風属性に準ずる何かを使いたいと強く思ったことがあるはずと言ってたけど
お姉ちゃんから聞いたことくらいしか知らないのに、使ったことがあるはずないよね
魔法は詠唱しないとうまく扱えないんだもん
―――――
魔法のお勉強七日目
「火よ。命の燈火を映せ――んっ!」
「まだ遅いですよ。詠唱中に魔力を力いっぱい放出してください」
「はい! 火よ――」
「リン様! 詠唱が遅れてます。初めから!」
「すみません!」
前日まで弱火から中火へと少しずつ変えていっていたのを、初めから中火の火力で灯させるようにする練習が始まった
これは家事をするだけなら必要はないけれど、戦闘で使う可能性があるなら。と
シルキーさんが教えてくれたこと
瞬間的に魔力を消費して、一気に最大火力に持っていく
魔物と戦うなら、確実に必要な技能だって、シルキーさんは言う
でも、普通にやるより多く早く魔力を消費して疲れちゃうから上手くできない
(だけど、お姉ちゃんを助けるためだもんね……少しでも頑張らないと)
「あの、シルキーさん」
「なんでしょうか?」
「その、他の火属性魔法とかはないんですか?」
「色々ありますよ」
そう言ったシルキーさんは小さな声で何かを言って手に持っていた棒を指でなぞると
その瞬間、棒は燃え上がって剣の形に切り替わる
溶けて液状になった棒が、地面に落ちていった
「こういったものとか」
シルキーさんは炎の剣を掌の上で浮かせ、上に向かって放り投げて爆発させる
威力はかなり抑えていたように見えたけど
それでも、音は大きくてとても強そうな魔法だった
「リン様は火に風属性が付与される稀な性質をお持ちですので、こういった爆裂系魔法が主体になるかと思われます」
「爆裂……お姉ちゃんが使った魔石の?」
「ええ、その通り。火属性魔法はそもそも火力が最も高い魔法なのですが
そこに風の性質を加えることで威力を増しているので、本気で扱えば上級魔法に匹敵します」
「じょ、上級ですか!?」
「ふふふっ、ちなみに先ほどのは本来武器に宿して魔法属性を付与させるものですが、
風属性を含んだことで、中距離魔法として行使できるようになるのです」
「そうなんですね……」
そもそも、複合魔法自体がかなり上級に近い技能で
上級を普通に使えるようになってからようやく使えるようになるってシルキーさんは言うけど
それなら、それを普通に扱えるシルキーさんはなんなんだろう?
そんなことを考えながら、お姉ちゃんのところに行くと話すくらいには出来るようになってて
これからのことについて少しだけ話した
「えっ? それじゃぁ、王国には残らないの?」
「うん、王国だと滞在費だけで凄いお金が掛かっちゃうし、フレシアさんたちにこれ以上迷惑かけたくないからね」
「わたしも連れて行ってくれるんだよね……?」
「そうね……リンを一人にしたくないわ」
ただね。とお姉ちゃんは申し訳なさそうな顔をする
無理をするときの、私があんまり好きじゃない顔
「リンにはまた少し無理をさせちゃうと思う……それでも――」
「大丈夫だよ」
「でも」
「大丈夫! わたしも……ううん、わたしはお姉ちゃんの側室になるんだから」
「側室じゃなくて、幹部ね。幹部」
―――――
魔法のお勉強十四日目
「火よ。生命の燈火をここに映せ」
スイカを両手で挟むような構えをしながら、静かに詠唱して
ゆっくり、ゆっくりと小さな種火から大きく作り上げつつ、わたしが一番分かりやすいスイカの形にしていく
そして
「たぁっ!」
その火の玉を上に向かって投げるとぼんっと爆発して、離れたところの木が少しだけ揺れる
今のわたしが出来る精いっぱいの攻撃魔法は、火の玉を飛ばすこと
爆発範囲は1メートルくらい、距離は最大50メートルくらい
風属性の魔法よりも火属性の魔法の集中したから、風は爆発よりも飛ばすことに集中しているのが
威力が上がらない原因だってシルキーさんは言ってた
(でも、そうじゃないと火の玉は1メートルくらいしか投げられないし)
「リン様、これまで大変お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
「いえ。ですがリン様。リン様が扱えるのはあくまで初級の発炎魔法
それに風属性を付与し威力を上昇させたものに過ぎません。過信はなさらぬように」
「はい」
私の上達具合を見てくれたシルキーさんは、ぱちぱちぱちと手を叩きながら、
いつもの優しい笑顔を見せてくれた
シルキーさんたちにも、お姉ちゃんから王国を出ていくことの話はしたみたいで
少し強引にでも魔法を使えるように厳しく教えてくれたから、笑顔を見るのは久しぶりだった
「ですが、リン様は魔法使いの資質があると思いますよ」
「えへへっ」
「ですから、何卒。その純粋な優しさを損なうことなく立派な魔法使いになってください」
「シルキーさん?」
「魔王様になるのではなく、そうですね……そう。勇者やその仲間を目指すとよいかもしれません」
今までとはちょっと違う変な顔をしていたシルキーさんだったけれど、すぐにいつもの顔に戻って、笑う
「期待していますよ」
「はいっ」
「ふふふっ、では、ミスティ様をお迎えに行きましょうか」
「ありがとうございました」
「いえいえ」
こうして、お姉ちゃんがいない間の十四日間の厳しい魔法の修行は終わったのでした
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