第4話 おむかえ!

 一週間後。


哲子は自宅アパートの前で高岡さんの迎えの車が到着するのを待っていました。


背中に背負ったリュックの中にはレジャーシートや食料の他、ずっとタンスの肥やしになっていた露出狂レベルの“攻めた水着”も入っています。


「紫さん遅いわね~。もう五分も過ぎてるじゃない」


と文句を言っていた矢先、黒い大型乗用車がアパートの駐車場に入ってきました。


「おまたせ、哲子さん」


運転席の窓から顔を覗かせ、高岡さんはにっこり笑って挨拶しました。


しかし哲子は不機嫌そうに眉間に深くしわを寄せていました。


「ちょっと紫さん、話が違うじゃない!あなた、高級乗用車で来るって行ってなかった?」


「キャデラックは高級乗用車よ」


「キャデラックでもアフラックでもどっちでもいいわよ。この上に乗ってる金ピカの御輿は何?どう見ても霊柩車じゃない」


「大丈夫よ。死体は乗せてないから」


「そういう問題じゃないわよ」


「ごめんなさいね、実は実家が葬儀屋なの」


「そんなことだろうと思ったわ。言っておくけど私、霊柩車になんか乗りませんからね」


「助手席になら乗ってくれる?」


「前でも後ろでも嫌なものは嫌よ」


「ね、哲子さん。霊柩車に乗ると恋愛運が上昇するって言われてるのよ」


哲子はピクリと反応しました。


「…仕方ないわね。それなら乗るわ」


哲子は高岡さんのデタラメ話にまんまと騙され、霊柩車に乗ってしまいました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る