11

 ツインテールが言ったように、ふたつ目の信号を曲がるとすぐに大きな公園があり、無料の駐車場もあった。


 公園も駐車場も人っ子一人いなかった。

 ガラガラの駐車場の片隅に車は自動的に停車した。

 ブレインアジャスターとやらを装着させている奴らには子供が沢山遊んでいるように見えるのだろうかと、どうでもいいことを考えて一人失笑した。

 それにしても、プリウスがあの弁当屋を奨め、この公園に行くように指示したということはここでなにかがある筈だが、そんな雰囲気は全く無い。

 何度も周りを見回したが、誰もいないし、何もない。


 仕方ないので、鮫川は弁当の蓋を開けた。

 美味そうな鯖の煮込みがほかほかご飯の横に寝そべっていた。


 鮫川は竹割箸を割って鯖の味噌煮に箸を伸ばした。


 その途端に鯖から白くて細いものが幾つも飛び出してきた。

 五匹や六匹ではない。数十匹の紐のような線虫が飛び出してきたのだ。


 アニサキスだ。

 火を通した鯖から大量のアニサキスが飛び出してきたのだ。


 そして、開かないはずのAIパネルがガバッと開き、ジャックホールや機械の間の隙間からアニサキスがそこに潜り込んだ。


 鮫川が驚いて眼をパチクリさせていると、いきなりプリウスが喋り出した。しかもさっきまでの声から十代後半くらいの女の子の声に変わっていた。

「気持ち悪かったでしょう?アニサキス型自動PUプログラムユニット。この車のプログラムと変数を変更しました」歯切れのよいテキパキとした声だった」

「相模原基地から来たのか?」

「そう、でもK1の情報で我々に近づけるのはここまでです」プリウスは言った。「声が変わって驚いた?線虫型ドローンでAIをバージョンアップさせたの」


 K1が川崎第一基地(つまり鮫川が居たところだ)ということは大貫から聞いていた。


「通信してるわけじゃないんだな?」

「まさか、私は只のAIです。ここからは私がご案内します。スィキーダ人の新たな計画が判りましたから、ルートを変更します」

「了解。これからはコーデネーム〈ジャック・バウアー〉と呼ばせて頂きます」

「バウアーでもハンバート(注1)でもいいから早く連れてってくれ」


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 車はゆっくりと走りだした。

 銀杏並木の広い路をゆったりと走る。


「君の名前はなんというんだ?」鮫川は車内の静寂さに耐え切れずに尋ねた。

「『車』と呼んでください」

 愛想のないAIだ。


「車」は工場地帯からいきなり瓦礫の砂漠に入ったが、道はきちんと舗装されていた。瓦礫の中をスカロイドと本物の人間が作業をしていた。

 スカロイドが人間を監督していたりその逆だったり、何故か仲良く作業しているように見えた。


 ビニールハウスのような者も見えた。その近くには、象と蛇と深海魚を足して三で割ったような奇妙な巨大な動物が鎖に繋がれていた。


 風景は段々と奇妙になっていった。被爆街の様子もひどくなっていった。

 そして、とうとう敗戦の象徴を目にすることとなった。


 奇妙な形で…。




(注1)「ハンバート・ハンバート」はナボコフの「ロリータ」の主人公



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