10
大貫達が言うには相模原の他に数カ所の拠点があるそうだが、教えては貰えなかった。
フロントの殆どが剥がれ落ちているプリウスはゆっくりと地下駐車場のスロープを登っていった。
このポンコツも「ブレインアジャスター」とやらが取り付けられている人間から見たら新車同様の最新プリウスに見えるのだろう。
地下から地上に出ると、翌日と同じ廃墟の光景が広がっていた。
これが夢だったら良かったのに。
コンクリートが剥がれ落ち、鉄骨がむき出しになったビル群、焼け落ちた家々、早足で動き回るスカロイド。人間らしい者も何人かいたが、そのうち半分くらいは人間の革を被ったスカロイドなのだろう。
昨日はバイクを突っ走らせるのに夢中だったので気付かなかったが、川崎駅前は、二足歩行する銀色の巨大「ナナフシ」とゾンビで一杯だった。
幹線道路は大抵修正されていたが、信号は殆ど機能してなかったが、車は定期的に停車した。よく見ると信号が青になる度に道に開いたの大きな穴の上を鉄板のようなものが孔を塞ぐようにスライドして深い穴の上を通り車や歩行者が通れるようになっていた。そんなモノがあちこちに存在し、意味のないところで交通整理がされていた。
道も星野が言っていたようにやたらと遠回りされた。
いきなり横浜の港北区まで遠回りさせられ、再び橋を超えて世田谷区に入り、246から東名高速に入り、県央相模原で高速を降りると、住宅街を延々と走らされた。
しかし完全自動運転だったので鮫川がイライラする事はなかった。その間、スィキーダ人の侵略の歴史と研究の動画を観るのに有意義な時間となった。
昼飯時が過ぎた頃、急に車は路側帯に停車した。
道の左側は工場の壁が遠くまで続き、右側は埃まみれの住宅街が広がっていた。
その中に一軒だけ小さな弁当屋があった。
「昼食の時間です。あの弁当屋は大丈夫です」プリウスが中年女性の言葉で喋った。
弁当屋と言っても、小さなショウケースの中に五・六種類の弁当を売っているだけの昼限定の弁当屋のようだった。
鮫川はポンコツプリウスの指示通り、反対車線の弁当屋に向かった。
弁当屋の売り子はツインテールの二十代前半の可愛らしい女の子だった。
「いらっしゃいませ」女の子は小首をかしげて微笑んだ。「本日のA定食はサバ味噌弁当ですが」
女の子の眼が意味ありげにキラリと光った。
「じゃあ、サバ味噌弁当一つ…」
この娘も俺達の仲間の一人なんだ、と鮫川は思った。
「有難うございます。お客さん、車ですよね?」ツインテールが言った。「ここ駐禁だから二つ向こうの信号を左に曲がると公園で食べるといいですよ」
「あ、ありがとう」この娘は『つなぎ』なのか、それとも敵の罠なのか、鮫川は迷いつつ金を払って礼を言った。
鮫川は車に戻って完全自動操縦を解除して、ツインテールが言っていた公園に行くべきか考えたが、車のドアを閉めると、プリウスの方が勝手に反応してくれた。
天井の飛行電源バネルのスイッチが次々とオンになり、「緊急脱出用に飛行モードを入れました」とプリウスが報告した。「公園までは陸送します」
ポンコツは自動的に走りだした。
その公園とやらで何が、或いは誰が待っているのだろうか?
何やら嫌な予感に苛まれたが、今更何を考えても無駄なことは解っていた。
鮫川は固唾を呑んで、錆だらけのボログルマに運命を託すよう心に決めた。
鯖の煮込み弁当が、急にまずく見えた。
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