初級魔法をショボイと言わせない

タロウ

第2話 プロローグ後編

ガシャ。

パキッ。

バタン。

散々木の枝たちの命を犠牲にし、地面に落下した。

落ちた先を間違えていれば、今頃ゲームオーバーだっただろう。

「てかまたこれかよ!」

さすがにこれ以上背中にダメージを重ねると辛いものがある。


「誰だお前?」


頭を上げると、自分の背丈と同じ大剣を携えた男が腕を組み、仁王立ちをしていた。

俺に名乗れということだろう。


なら名乗るしか・・・。

あれ?

俺の名前って・・・。

頭に手を置き、考える。

が、まったくそれらしい答えが出てこなかった。


「まさかお前!」


名乗らないことでどうやらセンサーにでも触れてしまったようだ。

ここは弁解する他なかろう。


「いや俺もいつの間にか変な洞窟にいてさ。びびったよ」

あえて目を瞑って弁解を始めた。

だって怖いじゃん。

顔見れないよ。


「・・・。」


何も言ってこない?


こちらの言い分をわかってくれたのだろうか?

そうと信じ、ゆっくり目を開ける。


「あっ」

目と鼻の先に光によってギラリと光っている大剣の矛先。

やっぱりだめか。


「あのー」

「成敗!」

男は聞く耳を持たず剣を振りかざす。


剣が軌道変更不可能地点に達した瞬間、痛む体に鞭を打って四肢に力を込め、全力で右方角へ回避する。

回避に成功すると、立ち上がり真っ直ぐ走る。


「待てっ!」

意図はまだ判明できていないが、名乗らない時点で抹殺対象なのだろう。

そんなもの無差別すぎませんかね。

後ろを見ると殺意むき出しで、男は追いかけて来ていた。

それにしてもあんな大剣を右手に持って走っているのにも関わらず軽快な走りを見せているのか、不思議でならない。

だってあれ、あの男の身長と変わらないんだぞ。

俺も俺で先程から背中を強打させ過ぎたせいで、態勢が安定しない。

気付けばフラフラ逃走している俺に対し男は徐々に距離を詰めてきていた。


「もう一回話し合いしませんかーーーー」

返事はない。

だが、直後男が動きを止める。


「ここまでか」

小さかったがそう呟いたのが聞こえた。

最初から最後まで疑問ばかりだが、撒けたことに喜び、その場ガッツポーズする。

そこが空中とはつゆ知らず。


「またかよーーーーー」

二度あることは三度あるということわざが頭をよぎる。

最後に頭に浮かんだそれを口ずさみ終わった後、意識が途絶えた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


青年が三度目の落下を経験してから、三時間経過し、ようやく意識が戻ることになる。


左目につられて右目を開ける。

視界の先には鬱蒼と生い茂る草木の緑や雲一つない青空ではなく、茶色の何か。

いや、あれは木か。

それにしては光が下の方から差し込んでいる。

となるとあれは天井と考えるべきか?

視線を自分の体に動かす。

白い布。

これ布団か。

だんだん頭の中での整理がつく。

どうやらここは建物内で今自分がいるのはベットの上。


「目が覚めたかね?」

右側に白い髭を伸ばした大柄の老人がこちらの顔を窺っていた。

寝ているのは失礼と思い、体を起き上がらせようと試みる。


「痛っ」


「無理に起き上がんでもよい」

爺さんに介護され、もう一度寝床につく。

「いやービビったわい。いきなり空からお主が落ちてきたんじゃから」

人が死にかけだったというのに悠長な爺さんである。


「ありがと」

「なんじゃ?礼か?そんなのいらんわい」

「いや礼儀としてな」

仮にも命を救ってもらった身なのだ。

礼を言うのも至極当然だ。


「お主ここらじゃ見かけぬ顔じゃな。どこから来た?」

目を爛々と輝かせる爺さん。

「質問を質問で返すのは悪いが、ここはどこなんだ?」

「落ちて記憶が消し飛んだかのう?まぁいいじゃろ。ここは中央王都セーヴァルから北の大地。

ミーアの村じゃよ」


やっぱりか。

信じたくなかったが。

ここは異世界のようだ。

それなら大剣を持った男といい、巨大なイノシシがいるのも納得できる。


「どうした?」

「いや!あのー」

一人の世界に突入している俺を救出する。

「爺さん聞きたいことが山ほどあるのだが、いいだろうか?」

俺はとにかく情報が欲しいのだ。

「クロムだ」

「はぁ?」

何のことだろうか?

「わしの名前だ!だから爺さんと呼ぶな!」

脇腹に手を添え、高らかに笑う。

そんなことか。

「なら改めて。よろしく頼む!クロムのおっさん!」

「おっさんとも呼ぶな!」

あんたは電車やバスで席譲ったら、年寄扱いするなって言う老人かよ。


それから俺はこの世界のあれやこれらを訪ねる前にクロムに自分の置かれている状況下から説明することにした。


「違う世界から来ただと!」

「声がでけーよ」

まぁこの反応が普通だわな。

俺の場合そんな状況じゃなかったし。


「つまりお主は別の世界からこの世界から来たと。そして現在その理由や原因がわからんと」

「そういうことになるな」

俺の知っているアニメではだいだい自分が異世界に転生してきたとか転移してきたということを話さないが、俺はそんなのは知らん。

そのせいで何かあったときはそのときだ。


「ならお主の存在は魔女のゴミということにしといた方が良さそうじゃな」

「魔女?それにゴミって?」

ゴミは勘弁なんだが。

「この世界に魔法という存在を広めた人物。みなそいつのことを魔女と呼ぶのじゃ。そしてその魔女が実験のために連れ去り、その後不要となり、記憶を消され捨てられた人のことを魔女のゴミと言うのじゃ」

自分の存在を語るには確かにそちらの方が便利そうだが、ゴミっていうのがな。

「クロムはその魔女のゴミにあったことあるのか?」

「いや実際にはないが、王都の兵士にいるというのを聞いたことがある」

「というか何で魔女なんだ?そんな素晴らしい人物ならもっといい名前あったろうに」

クロムの顔が少しこわばる。

「お主さっき言ったろう?あいつは人を道具のように扱う人物なんじゃ。しかもあいつが魔法を世界に広めてからこの世界の死亡者が増えた。もちろん魔法のせいでな」

最後の言葉に重みを感じる。

自分もその被害者だと言い張るように。

でもその魔女なら・・・。

「クロム。俺は魔女に会いたい」

「本当に言っているのか?さっきまでの話を聞いていないわけではあるまいよ」

自分のことは自分がよく知っている、だかろこそ俺の記憶は消されたのではないような気がしてならない。

どちらかと言えば封されている感じ。

魔法を広めた人物ならもしかしたら。


「ダンジョンではだめなのか?」


「ダンジョン?」

唐突になんだ。

「王都にある塔のような建物がある。それをダンジョンと呼ぶのじゃ。そして最上階にはどんな願いも叶えてくれるものがと言われておるそうじゃ」

「マジで!」

魔女に会うという危険を晒すよりマシな話だ。

「最上階に行くだけだよな!」

気付く。

この世界はゲームのような世界。

ならばダンジョンは敵だらけ。

もちろん最上階には相当強いボスが・・・。

「もちろんじゃ。最上階に行ったものはおらん。しいて言うなら、そのダンジョン100層あると言われ、現在到達しているのは最高65層までじゃ」

「絶対無理じゃーーーん!」

思わずベットに鉄拳制裁を与える。

「そう嘆くではない。これをやろう!」

クロムから差し出されてたのは分厚い本であった。

「初級魔法魔法陣一覧?」

「お主がダンジョンを攻略すればいい話!」

こうして俺の異世界での生活が幕を上げた。

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