第逸章 破滅は突然やってくる
第1話 朝は毎日巡ってくる
天にも届かんばかりの摩天楼。
各所に設置された太陽光偏向板によって、日光が反射され光の道を作り出す。
その光が半分寝ている僕――
僕は生物の本能に嫌々従って布団から這い出る。
これが、銀河統一歴2018年を生きる僕のいつもの朝だ。
僕たちが住んでいる銀河系は、超星間組織『銀河統一同盟』によって2018年前に1つになった。
もちろん、地球も銀河統一同盟の一員となり、彼らの庇護を受けて平和を享受している。
と言っても、それを実生活で感じることはあんまりない。
銀河統一同盟が、星々の統治をそれぞれの星に任せているのもあるし、そもそも名前が挙がることがそうそうないからだ。
だから、僕たちの生活は何千年も前からあまり変わっていないらしい。
科学水準は何千年もの間に飛躍的に高まったが、今までの生活をより良くするために使われているからだという。
その延長線上なのか、僕の親は「息子が一人暮らしを始めるにあたってより良い環境が必要だ」と考えて、僕を自然太陽光が入る少しお値段の高い部屋に入れた。
僕にしてみれば余計なお世話だ。
毎朝毎朝、強烈な反射日光に刺激されて無理矢理起こされる。
それがどれだけ辛いことか……
僕は中学まで、調節が効く人工光に慣れてから外に出るという習慣を続けていた。
そんな僕にとって、反射されているとはいえ太陽光はきつすぎた。
その代わり高校には絶対に遅刻しないようになったが……
……見返りがあまりにも微妙で悲しくなる。
だが、高校に行かなければならないことに変わりはない。
なので、先程まで文句の矛先だった太陽光に感謝し、すぐに朝食にする。
朝食と言っても冷蔵庫に常備している栄養補給ドリンクゼリーを喉に流し込むだけで、さっさと終わらせる。
そして、すぐにパジャマから制服に着替えてリュックサックを背負い部屋を出る。
ちなみに、教科書やノートの準備は昨日のうちに済ませてある。
もし何か忘れても、言い訳を作りたくないからだ。
面倒な性格だと言われるが、言い訳をする方が僕は嫌だ。
鍵をかけて、ついでにもう1度し直し、更に開いていないか確認する。
心配性だとよく言われる。
だが、やはり万全を期したい。
監視カメラやセンサーがそこら中にあるが、どちらにしても誰かに自分の部屋を狙われるのは御免だ。
鍵の確認が終わると、不意にドアを開ける音が聞こえてきた。
音の大きさからすると、すぐ近くのようだ。
「あ……」
音がした方向を見ると、同時に思考が止まってしまった。
僕の視線の先には、模範的な委員長という感じの女子がいた。
女子も僕のことに気づき、こちらを見てくる。
静まりかえる空気……
だが、それは心地良いものではなく息苦しいものだった。
「
僕はその女子の名前を口にした。
何を意図したわけでもないが、ただ彼女の名前を呼んだ。
彼女は、
僕と同じ高校に通う僕と同じクラスのクラス委員で、僕の幼馴染だ。
何の因果か、高校の寮に入って部屋が隣同士になった。
「っ……ごめん……」
千穂は少しの時間を置いて謝った後、走り去ってしまった。
世間一般に幼馴染といえば華やかなイメージがあるらしい。
だが、僕と千穂に限ってはそんなことはない。
中学生の時に僕と千穂は人生でも1位2位を争う程の大喧嘩をしてしまった。
それ以来、互いに関わらないようにしているからだ。
むしろ、部屋が隣同士になって却って気まずい。
もちろん、仲直りをして昔みたいに話をしたり遊んだりしたいとは思っている。
だが、そのための取っ掛かりが見つからない。
他人の力を借りればいいとも言われるが、僕と千穂の話だ。
あまり他人を関わらせたくないし、自分の力でどうにかすべきだと思う。
「ID確認。部屋番号1552、多々良正路」
不意に背後から機械的な音声が聞こえてきた。
振り向くとアシストロボットの警備員が立っていた。
銀河が統一されてから、人々は簡単な仕事をロボットに任せるようになった。
何故なら人間はロボットにはない頭脳を持っている。
その頭脳は考えることに使うべきだし、頭を使わなくてもできることはロボットにもできるから、人間は指示を飛ばしてロボットが実務をやればいい。
これが、銀河統一同盟の考えだ。
地球人のしかも日本人の僕にしてみれば、全てをロボットに任せて人間は怠けているように見えてしまう。
だが、宇宙人にしてみれば、僕たちの考えは知的生命体の誇りを捨てているようなものなのだという。
多分、この考えの違いは遺伝子レベルの環境の違いなんだと思う。
そして、人間がする必要はないが人型の存在がしなくてはならない仕事をするのが、アシストロボットだ。
充てられた職業によって機能に差はあるが、2本の武骨な脚と2本のロボットアームという人のようなフォルムをしており、簡単な会話を交わせる程度の人工知能が搭載されている。
ちなみに、アシストロボットを一般人が修理することはできない。
それをするのは、アシストロボット専門の業者だ。
ロボットでもできそうなものだが、ロボットでは予想外のトラブルには対処できないのだという。
だから、学習する能力を持ち、思考することができる人間が、アシストロボットの修理をする。
こういうことを知ると、銀河統一同盟の人間とロボットを役割分担させる方針はなかなか筋が通っている気がしてくる。
「あ、おはようございます」
僕は相手がロボットなのに挨拶をする。
昔からの癖で相手が何であろうと人型であればお辞儀をしてしまう。
「多々良正路サン。後5分以内ニ寮ヲ出ナケレバ、遅刻スル確率80%デス」
「いっけね!!」
アシストロボットの警備員にお辞儀をした後、急いでエレベーターに乗り、1階に降りる。
そして、ダッシュで学校に向かう。
科学が発展したというのに、こういうのは西暦時代から変わらないらしい。
「人類の虚弱化を防ぐために未成年は自分の身体を動かすように」と国が奨励している。
だが、その勧めている側が空を飛び交っている飛行機や宇宙船を使いまくっているのはどうなんだろう?
別に家から学校までの行き帰りを楽したって……と思う。
まあ何にせよ、そんな文句を言っても遠い空の彼方のお偉方を乗せている宇宙船に届くわけはない。
僕は不満を心の中に仕舞って学校に向かった。
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