望んだ世界
新しい職場
「
私より少し若い男の子はそう言うと、机の上に書類を置いていく。
四年前まで勤めていた青ガエル町の町役場、私は出世していて、係長補佐になっていた。
白田という旧姓で呼ばれることに午前中は違和感を覚えていたが、午後になりなじんできた。
運が良いことに今日は電話も鳴らず、私のところに来る人も印鑑を押してくださいとか、状況がわからなくてもこなせそうな用事を言うだけだった。
あのカエルが準備したのか、丁寧にマニュアルみたいな緑色ファイルが用意されていて、仕事内容が書かれており、私はそれを読んで状況を把握した。
青ガエル町はあの銅像が有名だ。だから、カエルに関するイベントや観光地が多い。
ファイルに挟まれた紙を読みながらそう思う。
そういや、あのカエルをどうにか見つければ元に戻してくれるかもしれない。昨日、何度もカエルを呼んでみたが、現れることはなかった。
そのうち母が心配そうに部屋に入ってきてから、それ以上呼ぶことはできなかったけど。
三十歳で彼氏もいない私は、母に心配されてるらしい。
確かにそうかもしれない。
でも結婚をして子供がいた私にとって母の心配は的外れとしか思えなかった。
結婚なんて、しなくてもいい。
でも、私は結婚してた。
だから元に戻らないといけない。
「白田。今日は何時に出る予定?」
ふいに軽やかな声がすぐ傍で聞こえ、私は驚いて振り向く。
「どうかした?」
それは
佳緒留は高校の同級生、私と同様採用試験に受かって同時に役場に入った奴だった。ハンサムな顔立ちだけど、軽い男で、高校の時から苦手だった。目の前の奴は4年前よりも落ち着いてる感じだが、やはりどこなくナンパなイメージだ。
そういや、この人、確か建設課にいなかったっけ?
なんでここに?
「白田。大丈夫? 今日飲み会だけど、覚えてる?」
「飲み会?!」
「そう。
「積谷……」
結婚している?
「白田。行かないの?」
「行く、行くわよ。何時から始まるんだっけ?」
「七時にナルト。一緒に行く?」
「……うん」
ナルトなら、役場の近くだった。
家に戻るより直接行った方がよかった。
机の上には読まないといけない書類が溜まってるし、時間までここで残業するものありかと思った。
「じゃ、六時四十五分に、下のロビーで」
桂緒留はにこっと笑うと私に背を向け、すたすたと歩いて行く。
そういや、桂緒留と私、そんなに親しかったっけ?
彼の小さくなっていく背中を見ながらそんなことを思う。
まあ同期だから、話すことは多かったかもしれないけど。
四年前の記憶ではこうやって一緒に飲み会に行くほど、親しくなかった気がする。まさか、私と桂緒留の間に何かあったとか?
まさかね……ないわよね。
そんなことより、優に会えるんだ。
彼はこの世界でどうしてるんだろう?独身なのかな?
子供は?
私はそんなことを考え始め、結局書類に目を通しながらも頭に入ってこなかった。
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