episode8-10
本館一階にある、小さな祭室にて。
椿姫は突如として現れた幻獣の攻撃を受けていた。
始めの奇襲は何とか防いだものの、続く猛攻には耐えられず、一階へと落とされてしまい。そして、その謎の異形と山羊の異形との戦闘を余儀なくされていた。
〈くッ! アイツ、何処から来たっていうの!?〉
「ポロロ、ロロロ、ロロロ、ロロロ」
身体から空気の漏れる音が一定のリズムでそう聞こえた。
時間が経ち、上階から舞い落ちてくる砂煙が徐々に晴れていく。
そして、謎の異形の背後にあるステンドグラスから光が差しこんできた。
謎の異形のシルエットが映し出される。いや、シルエットと呼んでいいのだろうか。
彼女はその全貌を見るために、藍色の鎧の頭部に内蔵されたライト機能を使用した。
〈……何、これ〉
何と形容すればいいのか、椿姫は言葉に詰まった。
それは非常にアンバランスで、継ぎはぎで、まさに異形と呼べる姿だった。
背中からは無数の触腕が伸び、左手は獣の頭、右手はカマキリのような鎌。
それでいて、その身体は長さや毛質、色も様々な体毛によって覆われている。
顔は不気味な蒼く輝く一つ目だけがあり、口や鼻といった必要な器官はない。
特徴的な音が漏れる度に、蒼い瞳が波紋を作り出し、透明な液体が零れ落ちる。
椿姫は今まで出会った異形の中で、最もこの世の生態系から外れた存在に思えた。
〈私一人で相手をするには、ちょっと荷が重いわね……。応援が欲しい所だけど、この通信障害のせいで出来ないし、というか、何でこの異常事態に来ないのよ……!〉
「イタイ! イタイィィィィィ!!」
幸い、山羊の異形は未だに戦闘は出来ないようだ。
椿姫はひとまず、謎の異形に集中することにした。
目標は離脱、一人で勝つのは相当に厳しいからだ。
いや、そもそも応援を呼んだ所で勝てるかは疑問だ。
出来れば兄の力が欲しい所だが、生憎、攫われて何処にいるか分からない。
〈頼りないなあこれ!〉
今、彼女が身に着けている装甲鎧は、従来の物よりも性能がアップしている。
現在の最高戦力と言っても過言ではないが、異形には足りないような気がした。
彼女は不安に駆られながらも、自分を奮い立たせるために、兜越しに頬を叩く。
〈ああもう! やってやるわよ!〉
「ロロロ、ロロロ」
不気味な音が、謎の異形から発せられる。
それを合図にして、椿姫は異形に向けて発砲する。
激しい唸り声を上げて、五つの弾丸が異形を肉薄する。
だが、
「ロロロ、ロロロ、ロロ」
それらは異形の触手によって悉く弾かれてしまった。
〈最近、まともに銃弾効くヤツがいないわねッ〉
しかし、それは彼女の想定内でもあった。
椿姫はライフルの下部にマウントされた武装の引き金を引く。
空気が勢いよく抜ける音とともに、一つの物体が謎の異形に向けて射出される。
異形はそれを触腕で叩き落とそうとするが、触れる寸前にその物体が炸裂し、触腕を吹きとばしてしまった。
〈グレネードは効いた! よし!〉
「ポロロ、ロロロ!」
〈ってえ! やばっ!〉
怒っているように身体を揺らす異形を見て、椿姫は額から汗を流す。
そして直後、無数の触腕が藍色の鎧に向けて、勢いよく向かってくる。
それらは地面を這い、宙を泳ぎ、瓦礫やベンチなどを押し退けていく。
椿姫は再びグレネードを触腕に向かって放ち、すかさず、回避行動に移る。
彼女がいた場所へ、まるで濁流のように、大量の触手や破壊されたベンチの残骸などがなだれ込んでくる。
〈冗談みたいな鳴き声してるくせに、馬鹿みたいに強力……〉
「ポロ、ポロ」
ステンドグラス越しの月明りが、腐肉のような謎の異形の体を不気味に彩る。
継ぎ目からは絶えず、種類の違う液体が流れ出て、混ざり、床に滴り落ちていく。
表皮部分は気泡が浮かび上がっては弾け、再生するという動作を繰り返している。
加えて、体の部位は次々と入れ替わっており、左手にあった獣の腕は腐り落ち、凶悪な鳥の脚と思われるものへと変貌していた。
〈その内、アイツの体で部屋が埋まるんじゃないの? 常識外れも大概にしてよ〉
「ロロロ、ロロロ、ロロロ」
椿姫が謎の異形に向けて恨み言を吐いていると、
「ァァァァァァァァ! ヘァァ!」
山羊の異形が行動可能なまでに回復していた。
山羊の異形は自身に纏わりつく謎の異形の肉片を片っ端から燃やしている。
〈もっと最悪の事態ねッ!〉
「アァァァァ! ジャマダァァァ!」
〈え?〉
しかし、山羊の異形は椿姫ではなく、謎の異形に向かって突進する。
彼はもう敵と味方の区別すらつかないほど、理性を失っているのだろうか。
自身の脅威となるモノに攻撃する、動物的な本能しか残っていないのだろうか。
いや、本能だけなら生きるために逃げる方が、生物的には自然なことのはずだ。
きっと、彼をそうさせるのは胸の内にある、行き場のない、解消できない怒り。
何て痛ましい、椿姫は孤独な元人間の異形の姿に、深い孤独と絶望を垣間見た。
「ホロロ、ロロロ、ロロ」
「モエロォォォォ!!!」
山羊の異形は全身に黒い炎を纏わせ、謎の異形に迫る。
触腕が山羊の異形に群がっていくが、いずれも黒炎に焼かれ、融けた。
それにより、謎の異形の注意が完全に山羊の異形へと注がれることとなる。
この場から離脱する絶好のチャンスだ。だが、椿姫は敢えてそれをしなかった。
〈仲間割れって、好都合だけど……ああ、もう! 後味が悪いのよ!〉
彼女はライフルを構え、謎の異形の頭部を狙う。
こんなことをするのは自分らしくない、そう思う椿姫。
だが、山羊の異形の介錯をするのは、あの継ぎはぎではいけない。
彼女は確固たる意思を以って、謎の異形を妨害することを決めたのだ。
〈ゴメン、兄さん。それでも、私は……あたしは……〉
「ウオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォァ!!!」
そして、最後に山羊の異形を殺す。それがたとえ、兄の友人であっても。
その思いを胸にして、鎧の少女は無骨なライフルの重い引き金を引いた。
「アァァァァァァ!!!」
「ホロロ、ロロロロ、ロロロ」
謎の異形は頭部に向かってくる弾丸を対処しなければならなかった。
そのため、触手の何本かと右腕を弾丸に割いて、山羊の異形に立ち向かう。
山羊の異形はまるで椿姫と示し合わせたかのように、謎の異形に攻撃をする。
放たれた拳は謎の異形の腹部を正確に捉え、拳を包む黒炎が触れた部分を融かす。
拳と弾丸による攻めに謎の異形はなすすべもなく、噴き上がる煙に消えていった。
〈…………〉
まさに一瞬の出来事。
祭室は一転して静まり返った。
やったか、椿姫は内心でそう思った。
しかし、心は酷くざわついて、落ち着かない。
終わっていない、漠然とした不安が彼女の中にあるのだ。
黒い煙の向こう側では一体何が起こっているのだろうか。
やがて、煙が晴れ渡っていき、徐々に何かのシルエットが見えてくる。
〈……ッ! ブレード展開!〉
その行動は彼女の中に芽生え始めた、戦士の勘によるものだった。
左前腕部の装甲板が外れ、特殊な合金による刃が展開されていく。
彼女は勘に身を任せるまま、自身の目の前に振動する刃を置いた。
そして、ソレは目にも留まらぬ速さで来た。
〈……くぅッ!〉
置いていた刃に滑り込むように、腕のような触手が椿姫に襲い掛かってきたのだ。
力任せに押し込んでくる触腕を、椿姫は歯を食いしばりながら弾こうとする。
藍色の機械の鎧は石の床にめり込みつつ、段々と後方へ押されてしまう。
振動刃はしなやかさと堅さを併せ持つ触腕を、切り裂いていく。
だが、
〈ぐはあぅッ!〉
鎧の横腹を思い切り殴打する触腕には対応できず、壁に吹きとばされる。
激突の衝撃は、鎧では防ぎきれないほど大きく、彼女の肺から空気が抜けた。
それでも椿姫は必死に意識を繋ぎ止め、死んでいなかった異形を睨みつける。
それと同時に、彼女は目の前の光景に絶句した。無理もなかった、何故なら、
〈最悪の展開が続くわね……!〉
「ア、アァァ…………」
山羊の異形は謎の液を浴びせられ、腹と鎖骨の辺りを串刺しにされていたのだ。
蜘蛛の巣に捕らえられた虫のように、黒山羊は力なく体を引くつかせている。
謎の異形の半身は融けかかっていたが、それも回復しつつあった。
山羊の異形の捨て身の攻撃など、何の意味もなかったように。
「ホロロ、ロロロ、ロロロロロロ」
謎の異形のソレは高笑いに聞こえた。
また、山羊の異形と椿姫を嘲笑っているようにも。
いずれにせよ、椿姫や黒山羊が劣勢に立たされている事に変わりはない。
〈ムカつく笑い方してんじゃないわ、よッ!〉
「ホロロ」
椿姫は壁に背を預けたまま、リロードしたグレネードを撃ち放つ。
小規模な爆発は、異形の触腕を容易く吹き飛ばすが、すぐに再生した。
このままではジリ貧だ、椿姫はどうにかして逃げる術を必死に考える。
そんな彼女の横を、一つの影が、目にも留まらぬ速さで通り過ぎていった。
「……!!!」
〈兄さん、何故ここに!?〉
その影は白き魔人であった。
感情に突き動かされるまま、魔人は謎の異形に接近する。
串刺しにされた友人の姿を見たのだから、それは当然の事と言えた。
石の床を踏み砕きながら左腕に雷の刃を形成し、異形の触腕に向けて飛ばす。
空を切りながら進む刃は、触腕をいとも簡単に切断して、黒山羊を開放した。
「……!」
「ァァァァァァァ……」
魔人は黒山羊をキャッチすると、謎の異形から距離を取る。
魔人はちっぽけな祭室の隅に、黒山羊の異形を寝かせる。
黒山羊は魔人を見ても暴れはしなかった。
死に掛けだからだろうか、それとも。
「……アァァ、アァァァ……」
「キシマ」
「アァァ」
黒山羊は口をパクパクとさせるばかりで、言葉を発せない。
最早、言葉を話す元気すらも残っていないようだった。
魔人は彼の名前を呼び、黒山羊の手を握る。
「ゴメン、ゴメン……」
「アァァァァ」
黒山羊は力なく首を横に振る。
彼の命の灯は、間もなく消えるだろう。
黒山羊の瞳から一滴の涙が流れ落ちる。
「アァァァァァ」
その涙がどのようなものか、それは黒山羊にしか分からない。
堅く握り返してくる手の力と温もりが、徐々に失われていく。
魔人はその手を落とさないように、更に力を加える。
「アァァァァ……」
黒山羊、いや、木島優斗は苦笑するように口元を歪める。
それは元の人間だった頃に戻ったようにも見えた。
魔人の力は更に強まっていく。だが、
「隆一、ツグミにゴメンって伝えてくれ。最後まで迷惑を掛けるなぁ……」
木島は最後にそう呟くと、彼の手は魔人の手からするりと抜ける。
彼は黒山羊の瞳を閉じ、立ち上がると、謎の異形を睨みつけた。
刃のように研ぎ澄まされた殺意が、橙色の微細な電流となって放出される。
「ホロロ、ロロロロロロ」
「……アンタを許さない」
魔人からくぐもった声が漏れ出る。
地の底から響くような、低い声だった。
〈…………兄さん〉
椿姫の脳裏にある考えが浮かぶが、それはすぐに霧散した。
彼女の視線はステンドグラスがある方へと注がれる。
そこには、
「いやあ、隆一くん。随分と久しぶりだねえ?」
何処から現れたのか、いや、始めからそこに居たのかもしれない。
闇に融け込む黒ずくめに光る目を持つ男、【幻相】は祭壇に腰を掛けていた。
「【幻相】……木島といい、さっきの薬といい、アンタの仕業か」
「薬? 何の事か分からないが、君の友人の事をなら、そうだね」
「アンタと、そこにいる継ぎはぎはここで確実に仕留める」
「おっと怖いなあ。ん? 後ろの方にいるのは君の妹さんだよね?」
〈ッ!?〉
【幻相】の視線が後方にいた藍色の鎧へと注がれる。
椿姫は素早く身構えながらも、その動揺を隠せなかった。
それは魔人も同様で、彼女を自身の背中に隠すように、男の前に立つ。
「いやあ、妹思いのいいお兄さんじゃないか。その厳つい見た目でさえなければ、すごくいいと思うよ。まるで劇にでも出てきそうな、感動的な光景だねえ」
「その減らず口を、叩けなくしてやる」
「おっと怖い怖い。頼んだよ」
黒ずくめに飛び掛かろうとする魔人。
だが男の声に、いや、青い目に呼応して、謎の異形が行く手を塞ぐ。
「邪魔をするんじゃない」
「ホロロ、ロロロ、ロロロ」
「じゃあ、頑張ってくれたまえ」
【幻相】は不敵な笑みを浮かべつつ、ゆっくりと黒山羊へ歩いていく。
魔人がその道を塞ごうとするが、それは謎の異形によって邪魔されてしまう。
「ついでに隆一君、君の友人が死んだのは、私のせいかもしれないが、その原因の一端は君の妹さんも関わっているということを知っているかい! 彼女が友人と戦わなければ、君の友人は今でも生きていたかもしれないな! それに、隆一君だって、今までどうしていたのかなぁ! もっと早く来ていれば、彼が死ぬことはなかったかもしれないのに!」
「……椿姫、【幻相】を頼む」
〈ええ……分かりました〉
「邪魔しないでくれ」
「ホロロ、ロロロ、ロロロ」
白亜の魔人は紅き左眼を煌々と輝かせ、左腕に雷の刃を形成する。
刃は向かってくる触腕を次々と焼き切った。
「ホロロロロロ!!」
異形は不自然な鳴き声を上げながら、体を捩り、逃げようとする。
それと同時に、無数にある触腕の幾つかに魔人の背後を攻撃させる。
醜いミミズが、白き魔人目掛けて、その背中を串刺しにせんと空を這う。
不自然に空気が揺れる音に気づいた魔人が、追撃を止め、防御体勢を取る。
その直後に無数の触腕が魔人に群がり濁流のように、彼の体を壁に叩きつけた。
しかし、それだけでは終わらない。魔人の肉体に大量の触腕が巻き付いたのだ。
「ホロロ、ロロロロロロ!」
ミシミシという、歪で背筋が凍る音が触腕の中から聞こえてくる。
触腕で作られた球体は、中身を潰すため徐々に小さく圧縮されていく。
その度に内部からは、悪趣味で吐き気を催す破砕音が聞こえてくるのだ。
「冷静さを欠いたのが災いしたねえ! 見たかい! あのセリフを吐いてすぐに捕まるなんて! あはははは! まさに傑作! 傑作だよ! あはははははははは! ねえ、妹さん、大事な大事な兄さんが死んでしまうよ? 助けに行かないのかい?」
〈その他ならぬ兄さんからの頼み、ですから〉
「随分とお兄さんを信頼している妹さんなんだねえ。普通こういう時は、取り乱して、何よりも彼の命を優先するべきところだと思うんだけど。ああ分かった! 彼の友人、木島君だったか、彼が死んだことに責任を感じてしまっているのかな! まあ、いずれにせよ、結果的に、君はまさに魔狩師の鑑と呼べるかもしれないねえ! いや流石だ!」
にやける【幻相】の頬を椿姫の放った銃弾が掠める。
わざと外したわけではない。黒ずくめがギリギリで躱したのだ。
〈やっぱり、人間ではないようですね〉
「おっと危ない。そう言えば部下から聞いたんだが、キミは確か、滝上家の次期後継者なんだってねえ。才能ある若き後継者とは、滝上家も安泰だねえ。キミも後継者になれてうれしいんじゃないかい? 隆一クンが事故に遭った時、密かに嬉しくなったりしたんじゃないかな?」
【幻相】は歪んだ笑みを鋼鉄の少女へ向ける。
それは愉悦と邪推がこれでもかと含まれた下卑た笑みだ。
椿姫の触れられたくない部分に、易々と踏み込んでくる。
〈何も知らないで勝手な事ばかり……!〉
激情に駆られた椿姫は、黒ずくめの返答に銃弾で返した。
しかし、その動作は恐ろしいほど精確で、機械的だった。
その内の一発が黒ずくめに向かって飛び、彼の青く輝く右眼を貫く。
「ぐぅッ! 小娘ェェッ!」
〈貴方、そんな表情も出来たんですね〉
「調子に乗るなよ、ヒトの子よ……!」
右眼を押さえる手の隙間から、止めどなく赤黒い液体が流れ出ていく。
その顔は怒りと苦痛で歪み、口調も何処か別人のようで、余裕がない。
彼の青き左眼が煌々と輝き、それに謎の異形が呼応して奇怪な音を放った。
〈あの幻獣と貴方、何かしらの力で繋がっているのね?〉
「……くくッはははは! ちょっと違うが、勘が良いな」
「殺す、殺す、殺してやる」
謎の異形が、ハッキリとそう放った。
怨念と憎悪、あらゆる悪感情が形となったような存在。
怨念は黒ずくめの怒りに呼応して、魔人を更に強く締め上げる。
無機質な音と、背筋が凍り付く歪で生理的嫌悪を催す音がより強く響く。
だが、
「……!」
異形の触腕で出来た球体は、徐々に崩れていく。
いや、内部の強烈な熱によって融けているのだ。
解けていく球体の隙間から、太陽のような眩い光が漏れ出ている。
それが魔人の放つ光であることは、その場にいた誰もが想像できた。
そして、一瞬のうちに触腕の球体は吹っ飛び、破片がそこら中に散る。
「……俺は邪魔をするなと言ったんだ」
中から出てきた魔人の白い鎧は所々罅が入っていた。
幾つかはパラパラと剥げ落ち、地面に散らばっていく。
特に顔の部分は損傷が激しく、今にもすべて剥がれ落ちそうだった。
だが、魔人がダメージを負ったようには見えない。むしろ、力が溢れ出ている。
左腕に纏う日色の雷が、魔人の感情に呼応するように、その輝きを増していく。
「……!」
「あの輝きは……まさか!」
〈兄さん……?〉
次の瞬間、日色の雷が解き放たれ猛々しく吼える。
そして、眩い光が一瞬のうちに不定形な異形の肉体を貫いた。
異形に開いた小さな孔は、瞬く間に広がり、その半身を抉り取る。
すかさず魔人が異形へと迫った。雷は刃に姿を変え、応戦する触腕を切る。
魔人の攻撃は荒々しいながらも的確で、異形の再生や増殖が追い付かない。
肉が焼き切れる音が響く度に、触腕や肉塊などがそこら中に飛んでいった。
「……ァァ!」
そして、白亜の魔人が異形の胴体を一刀両断しようとした瞬間。
「待て! 滝上隆一!」
異形の触腕が地面から現れた。しかし、それは魔人に対してのものではない。
藍色の鎧を身に纏う椿姫の周囲を、触腕が檻のように取り囲んでしまったのだ。
〈なッ! ブレード起動!〉
鋼色の刃は再び甲高い音を立て、現れた触腕を次々と切る。
しかし、全ての触腕を切るには、あまりに時間が足りなかった。
切り落とされなかった触腕が、彼女を絡めとり、宙に浮かせる。
〈ぐぅ、ぅぅ!〉
「椿姫!」
「動かないでもらえるかなあ? 動くと大事な妹さんが死んでしまうよ? さっきの君に友達の、そう、木島君みたいにね。経験を食べた後はこれだから駄目だ……」
【幻相】の不敵な笑みが魔人と椿姫に向けられる。
静かになった暗い祭室を、四つの瞳が見つめていた。
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