伝統、それは人の意思の強さの形

ハル

第1話 災害発生

 今から約14年前の7月、朝5時小学校高学年の僕と中学1年の兄、そして父と母は旅行に行く為いつもより早い朝食を摂っていた。しかし、その日は生憎音を立てて雨が降っており、その雨で窓を見ても家も工場も、いつも見えていた風景が全く見えなかった。そこで、両親は僕たちに準備を勧め二階に上がらせ、両親は何かを話し合っていた。僕たちは両親の話声のトーンから良い話ではないと思いお互い聞こえない振りをして、自室で着替えを終え鞄を持って下の階に降りた。僕と同じタイミングで降りてきた兄とともに居間にいる両親に準備完了の報告をすると、父はいつもと同じトーンで旅行を中止を伝えてきた。それに僕たちは怒りを覚えたが、父は僕たちに告げてすぐに自分の工場に行ってしまい、僕たちの言葉を聞くことはなかった。父は伝統工芸である漆器の職人であるため、日夜仕事に明け暮れ僕たちはそんな父に遊んでもらった記憶すらなかった。今回の旅行はそんな父が、兄が中学入学して最初の夏休みだからか、初めて言い出したことだった。そのこともあった為、僕たちのこの旅行に対する期待は大きかった分中止になった時の落胆も大きかった。それから、僕と兄は自室に戻り不貞腐れてベッドに潜り込んで眠った。

 しかし、午前9時頃だったと思うが、母の憔悴しきった僕たちの名前を呼ぶ声が聞こえた。僕たちは慌てて起き上がり下に降りると父と母が居間の畳を上げて壁に立てかけており、その様子に僕たちは立ち尽くしていた。そんな僕たちに母は手伝いを頼んできたため、とりあえず母の頼みを聞き居間にある畳を4人全員で全て立てかけた。それから、数分後だったか急に”ザー”と水が流れるような音が聞こえ始めた。僕はその音の方に目を向けようとしたら、父が兄、母が僕の手を引き上の階に連れて行って、そこにある父の自室に連れて行かれ僕たちは両親に囲まれるようにして固まっていた。そこで、僕の耳に届いたのは早朝に聞いた雨の降る音でも二階に上がる前の水が流れる音でもなく、ただ”チャプン、チャプン”と水どうしがぶつかりたてる音だけだった。

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