僕という人間は猫です

雨宮夏月

皆何かを探している

僕は猫だ。

いや…人間だ。

体は人間だ…心は猫だ…

僕はどうしたらいいんだろう…

僕は…







「んにゃっ…」


猫の鳴き声が僕の耳を優しく撫でる。

夏の蒸した空気が部屋に籠る。

もう夏か…なんて言うふうに考えてしまう。

もうこの部屋に、この家に篭って3年。

あれから外に出ていない。

そう…あの3年前の事件から…




3年前。

彼女が教えてくれた。

僕の本当の正体を。

彼女は教えるだけ教えて消えてしまった。

僕の手から離れてしまった。

あの時、彼女の話を聞いてあげれたら良かったのにな…なんて思ってしまっている。

未だに沢山の事を後悔してしまっている。

僕はどうしたら良かったんだろう…

未だに分からない。




3年前。

彼女と出会ったのは図書室だった。

中学一年生。

夏休みのことだった。

俺は元々独りぼっちで、やることも無かったので普段から図書室で過ごすことが多かった。

勿論夏休み行き場もない僕は図書室にいたのだった。

いつもは誰もいないけど、その日は珍しく先客がいた。

先客は、僕の指定席に座っていた。


「君は?」


「ええっ…?私?」


「君以外以内じゃないか…ここには」


「確かにそうね。」


こっちに向いた女子は僕の知らない人だった。

普段ここに来るような人ではない…

僕が毎日来ている中で1度も見たことのない顔ぶれだった。

彼女は二つ結びで、見たことあるものに表すとしたら何だろう…兎のような物静かな少女に見える。


「どうしたの?」


「そこ…僕の指定席なんです…」


彼女は僕からその言葉を聞いて、驚いたようだった。

表情には見えないけど、確かに驚いている。

そして済まなさそうな表情でこちらを向いている。


「あっ…ごめんなさい。」


彼女は、謝りながらすくっと立ち上がった。

まるで、誰かに命令されたように。

そんな彼女に僕は何か悲しさを感じた。


「いいよ、いいよ。座って。」


「ありがとう…」


けれど、今日あったばかりの相手に唐突に何かあるのかと聞くのはおかしいだけだから、とりあえず話してみることにした。

そんなこと言ってもいつも1人の僕には何を話せばいいのか分からない訳で正直困った。


「ねぇ…君何年生?」


「えっ…僕ですか?1年です。」


唐突に話しかけられたので思わず驚いてしまった。

普段女子と話さないし、女子も僕をきもく思って話しかけないから実際話しかけられたのは初めてだし…。


「1年生か…じゃあ私の後輩だねっ!」


「こ…後輩?」


「だって私、4年生だもん。」


あっ…そっか。ここの学校中高一貫校だったんだ。

僕よりも3年年上の先輩に僕は何をしてしまっているんだろう。

流石にさっきのは悪かったかもしれない…

態度が大きかったかもしれない…


「あれれ?後輩くん私より年下だって知って困ってる?でも別にいいよ。私そういうの苦手なんだよね…実は。」


「い…いいんですか…?」


「いいよ?名前は?」


名前を聞かれた時は流石に逆ナンパかと思った。

逆ナンパでもない限り、向こうから興味を持って話しかけてくることないし。

僕なんてただのコミュ障だし…


「名前ですか…僕の名前は栗田コウと言います…」


「じゃあコウ君だね!私は蔵田ミキ。ミキって呼んで。」


初めて話した女子に、いきなり下の名前しかも君付けで呼ばれて、しかも下の名前で呼び捨てで呼べって言われても難しい話。

照れて呼べるわけないじゃないか…


「ミキ…よろしくお願いします。」


「でさぁ?君図書委員?」


「そうですけど?」


「ちょっといい?座って?」


隣の椅子に座れと女子がいうなんて僕には死んでも無理だと思っていた。

でもそれが目の前に現実となっている。

こんな時間が一生続けばいいのにな…

なんて思ってしまう。


「ねぇ、メアド交換しよ?」


「はい?」


「メアド。交換しよ?」


最初一回目は聞き間違えだと思った。

けれど、二回目。

何度聞いても、メアド交換のお誘いでしかなかった。

女子とメアド交換するという行為は、女子と話すのより何倍も難しいことでそんなことを今目の前でしている。

恋愛ゲームでもなかなか無いイベントではないか。


とりあえずメアド交換したけど、なんだか恥ずかしいな。

きっと顔が赤くなってしまってる。

でも彼女はニコニコしていて幸福そうだからいいや。


「ねぇ、一回試しに送るよ?」


彼女がなにかを入力して送られてきたと思うと『こんにちは!ミキだよ! 』と来ていた。

とりあえず僕は『よろしくお願いします!ミキ』と打ち返しておいた。


「コウくんにちゃんと届いたみたいだね!よかったぁ…安心っ!これからもよろしくね!それじゃあ帰ろう!」


「か、帰るんですか?」


「家までついてきてよ…。」


「は…はいっ!」


仲良くなって1日目で女の子の家に着いていくなんて僕は何をしているんだ…

僕はなんていう状況にいるんだ…

こんなはず無かったのにな。

というか、僕にはこんなの無理なはずだったんだけどな…

人生って不思議なものだな…

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僕という人間は猫です 雨宮夏月 @Umukinoko

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