夢の続きを

マ菜

夢の続きを

 ジメジメした蒸し暑い休日。彼氏がバイトでデートをドタキャンしたので仲のいい友達を誘って遊んでもらうことにした。あまりに蒸し暑いのでアイスを買って、二人で木陰の柵に凭れて話しながら食べていた。


 何気なく、彼氏が好きだと言っていたお店に目を向けると可愛らしい女の子と手を繋いだ彼氏が出てきた。手の力が抜けて、アイスが落ちた。友達は私の視線の先を追い、ひゅっと息を飲んだ。


 私に気づかず歩いている二人は楽しそうで、幸せそうで。明るい昼間、なのにその二人以外が真っ暗になってしまって嫌でも目に入る。


 楽しそうね、そんなきらきら笑える人だったんだ。幸せそうね、その子に話しかける声が優しい。好きなのね、歩くペース合わせてさ、私にそんな顔、そんな優しさ向けてくれたことなかったのに。


 私には楽しそうに笑わせてあげれない、私は貴方の隣に並んでも遜色ないくらい可愛くなれない。私じゃダメだった。今まで縛り付けてごめんね。貴方が好きで傍にいてほしかったの。でもそれは私だけだった。勝手に涙が出て、遠ざかっていく二人が滲んで揺れた。一歩前に踏み出せば、さっき落としたアイスがぐちゃり、嫌な音を立てた。


 明転。暗かった視界が戻ると自室のベッドの上だった。涙がこぼれた。私には貴方を幸せにすることができないことを突きつけられた。私は貴方が好きだけど、貴方は好きじゃないみたいだ。私は貴方の傍にいて幸せだけど、貴方はそうじゃないみたい。このまま恋人でいるのは、私のエゴで、我儘で、独りよがりでしかない。


 電話帳、君の名前、発信ボタン。夢の続きを始めるため、私は勇気を出して電話を掛けた。少し眠そうな声の君が出て、会う約束をした。


 悪夢を今、始める。








 用意を済ませて、靴を履こうと目を向ければ、アイスがべったりついていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢の続きを マ菜 @mana27

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ