ずっとここにおるからの

仁志隆生

第1話

 ふう、今日も誰も来ないのう。


 まあ遠くに住んでるそうだし、仕方がないと言えば仕方がないのじゃがな。

 せめて年に一度くらいは顔を見せてほしいものじゃな。

 ずっとここで待っているのにのう。



 おお、右隣の所には今日も来とるのう。

 じゃがいつも泣いとるのう、あの娘さんは。


 なあ右隣の、あの娘さんはどうしたのじゃ?


 フムフム、そうじゃったのか。

 想い人に先立たれてしもうたのか。


 そうじゃな。儂等にはただ黙って話を聞くくらいしか、時が解決してくれるのを待つしかできん。

 ほんに歯がゆいのう。


 え、何じゃと?

「儂等に歯はないだろが」じゃと?

 あのなあ、これは物のたとえじゃ。突っ込むな。



 

 おや、左隣の。

 今日はえらくサッパリしてるのう。

 

 ほう、今日は法要じゃったのか。

 ん? 

 ほうほう、あの小僧がもう父親になったのか。

 昔あんたの頭の上に乗ろうとして親にこっぴどく怒られとった奴がのう。

 ほんに月日の経つのは早いのう。


 

 おう、裏の。

 何じゃと?

 そっちが裏だろうがって?

 あのなあ、こっちが近いんじゃから、はあ?

 昔はこっちが近かったじゃと?

 馬鹿言うな、儂等はもうずっと昔からこのままじゃろが。

  

 と、まあそれはひとまず置いておこう。

 なあ、あんたの所は大丈夫か?

 もうずっと誰も来ないが。


 ん?

 そうか、もう皆おらんようになってしもうたんか。

 後を継いでくれる者もおらんのか。

 それではあんたはいずれ……


 ん、そうか。

 それはそれで仕方がない、か。


 しかしなあ、そこにいるのはあんたの方がいいのじゃがなあ。

 実は儂、こうやってあんたとどっちが裏なのか、と言い合いながら過ごすのが楽しみでな。


 何?

「どうせお前さんもすぐにあっちへ行くだろう」って?

 馬鹿言うな。儂はずっとここにおるぞ。

「へん、どうだか」って?

 そうか、なら見とれよ。

 そのうちに……

 

 


 と、裏のに言ってから何年経ったかのう。


 あれからしばらく後、裏のは他所へ行ってしもうた。


 ふう、もう何年も誰も来ないのう。


 儂もそろそろなのかのう?


 いや、まだあやつがおるはずじゃ。

 来る度に儂の体を洗ってくれて、近所中に元気よく挨拶して回っとったあの小僧がの。

 今時の子にしては珍しいのう、と皆が言うてくれた。

 あの時は鼻が高かったわい。


 しかしあれからもう何年も顔を見せてくれんのう。

 今はどうしているのかのう?


 ああ。もうそろそろだとしても、せめてもう一度あの小僧に会いたいのう。




 おや、何か眠くなってきたのう……


 ……


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