第十一話 女性の気持ちは幾つになってもわからない
エレナはこの状況を把握しようとアシュベルに詰め寄る。
「何故わたし達を狙って来るのですか!?」
これは当然の疑問だろう。
「ヒメ、あなたがこの国の王位第一継承者だからですよ。」
「え・・」
気配を気取られないように静かに答えるアシュベル。
「わたしは王位などに関るつもりはないのに・・」
彼女の心が沈んでいくのが分かった。
そうだ、この人は望めばその手に第一王女としての地位を要求できる立場にある。
しかし人の中には己の利益しか鑑みる事しかできない輩が多い。
上層部の命ならばその第一王女を暗殺することを厭わない連中は多いだろう。
大体第一王女を狙うという、神をも恐れぬ行為を実行するなどと正気の沙汰ではない。
・・・それができるという事は、王女を殺して利益を得ることができる連中がいるという事。
第一王女は世間的には死んだと見されているはず。
あの事件をきっかけに。
死んだはずの王女をこうも早く見つけて暗殺者を送り込んでくる・・組織か。
まるで待ち構えていたようだな。
やはり少々厄介だな・・アシュベルが思案している中。
アシュベルの脳裏にどうしてもあの人物が浮かび上がってしまう。
幼い頃に起きたあの事件、それを聞いた時少年アシュベルの心に拭いきれない疑問が残っていた。
俺の推察が間違ってなければ、暗殺者をよこしたのはあの人。
「とりあえず安全な場所へ移動しましょう。そこで俺の考えをお聞かせしましょう。」
彼の少し取り乱した表情を見て、エレナは素直に頷いた。
ここはエレナの部屋。
訓練場の警備兵を総動員して周りを見張らせてある。
部屋の前にも2名警備兵は配置しておいた。
あの様子なら敵もそう多くない筈だ。
アシュベルは紅茶を入れてエレナに差し出した。
「・・ありがとう、ございます」
それを受け取ると、そっと口へ持っていく。
少しは落ち着いたか・・アシュベルは安堵してベッドに腰掛ける。
「ちょっと!女の子の部屋のベッドに座るって不謹慎じゃないですか!」
訂正・・まったく動揺していないのかもしれない。
「座る所ないからいいんですけど、一言あってもいいのでは?」
「すみません・・」
なんだかどんどん彼女に弱くなっていく気がする・・。
落ち込むアシュベルの知らない所で、エレナの鼓動が暫く早くなっていた。
エレナは単刀直入にアシュベルに聞いた。
「暗殺者と言いましたね。私の意思と関係なく私を邪魔に思っている、という人がいる訳ですね」
この人は、やはり頭がいい。この状況で冷静な分析を口にする。
「これはおじい様から聞いていた以上に複雑な状況・・という事は分かりました。」
エレナの言葉にアシュベルは即座に立ち上がり、彼女の肩を強く掴んだ。
「俺の中で引っかかっていた事のひとつ・・」
「ヒメはおじい様と幼い頃から一緒に生活していたんですよね!?」
これが恐ろしくも引き返せない質問だということは十分すぎるほど分かっていた。
「・・・その人の名を聞いてもいいですか?」
聞いたのは自分だがごくり、とさすがのアシュベルにも緊張が走る。
「わたしはあなたの主。口外無用です。」
アシュベルは並々ならぬ覚悟で頷く。
エレナは憶する事無くその名を口にする。
「クレイル・・と呼ばれていたけれど、亡くなる前に教えてくれたのは」
「・・・・」
「あーその前に」
え・・今エレナから放たれるであろう衝撃的な名前を手薬煉引いて待っていたんだけど・・アシュベルは固まっている。
「すごく気になって気になって、この気持ちが悪い事象を解決したいと思っているのですが。」
うん、さっきのおじい様の名前からルートからは完全に外れたようだ。
ここは、まずエレナのその気持ちの悪い事象とやらを、即刻片付けてもとのルートに
戻さなければ・・。
「わたし言いましたよね、ヒメと言葉遣いはやめてください、と」
・・・・。
「今これ話し合わなければならない事・・ですか」
脱力感がアシュベルを襲う。
「ほら、その言葉遣い明らかにあなたの方が年上なのに変です、気持ち悪いです!」
「でも、今命を狙われて大切はことを話し合わなければならないんですよ!?ヒメ」
「ほら、またヒメって言った!さっきのことを話すにあたっても、それ聞かされ続けられる身になって
下さい。」
ああ、訂正。
俺の姫は賢くて、すこし天然なのかもしれない。
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