TVの中の俺のよめ
秋峰
第1話
俺の名前は、堂本 幸司。
普通の高校2年生。
勉強も普通、スポーツも普通、家も普通の普通の中の普通の平凡な常識人だ。
そんな俺の楽しみは、深夜アニメを見る事。
深夜アニメは楽しい。
露出は規制されてしまってしまったけど。
それでも俺は楽しい。
それに今日は、楽しみにしていたアニメの第三期が始まるのだ。
もう楽しみで仕方がない。
でも、楽しみだからと言って、裸アニメを待ったりはしない。
それほど俺は常識人と言う事だ。
しかし、喉が渇くといけないから、ジュースくらいは用意しておこう。
アニメが始まるまで、1時間と言ったところか。
時間はあるな。
風呂でも入って、身を清めておこう。
30分ほど風呂に入り、俺はアニメに思いをはせる。
俺の好きなアニメは、異世界が舞台。
魔王の娘のことを頼まれた主人公が、魔界の者や勇者から魔王の娘を守るという、ありがちな物語だ。
その魔王の娘を俺は、俺の嫁と呼んでいる。
おっ、もう始まる時間だな。
アニメが始まり数秒すると、幸司は眠りに落ちた。
「・・・きてください」
誰かが俺を呼んでる気がする。
「おきてください、お客様」
お客様?
それよりここはどこだ。
俺の部屋みたいな、そうじゃないような。
まあ、そんなことは今はどうでもいい。
俺は何をしていた?
なんでこんなところにいる?
それに、今の声はいったいなんだ?
くそっ、分からないことだらけだ。
落ち着け俺。
落ち着いて、よく思いだせ俺。
う~んっと、おっそうだ、確か俺はテレビの前にいたはずだ。
そのはずだ。
そして、気づいたらここにいた。
そうだ。
そしてあの謎の声。
なんなんだこれは。
「おめざめになりましたか?お客様」
「ひっ!誰だお前。どこに隠れている。出てきやがれ!」
「わたしのこと、わかりませんか」
「わかってたまるか。ボケっ!」
多分俺は、この声の主に誘拐されたのだろう。
一体何が狙い何だろうか。
普通の中の普通の俺を誘拐しても仕方がないと思うが。
「おいお前。一体何っが目的だ。俺を誘拐しても何の得にもならないぞ」
「誘拐なんてしてませんよ」
「なに」
「誘拐なら、手足をロープで括ったりするでしょ」
「むっ」
確かにそうだ。
しかし、ならこれはどういうことだ?
手足を縛らなければ安心するとでも思ったのか。
暴れられると困るから。
ふっ、舐められたもんだぜ。
この、空手2段の俺様を。
通信教育だけどな。
だが、姿を現したときは、後悔をさせてやるぜ。
「ならお前は、なんで俺をこんなところに連れてきた。それに姿も現わさないし。
やっぱり、何かやましい事があるんだろ」
「ありませんよ、そんなもの」
「うそだ。絶対にあるに違いない」
「どう言ったら信じてもらえるんでしょうか」
「知るか」
コイツにやましいことがないとしても、俺は許さない。
俺の楽しみを奪ったコイツは。
「そうだ、もう一回私の声を、よ~く思いだしてください」
「思いだせだと」
「そうです」
こいつ、俺が名前を出したら、そいつになり切るつもりだな。
お前は、おれおれ詐欺師か。
「思いだせましたか」
「いや、思いだせんし、俺はおれおれ詐欺には引っかからん」
「も~う、なんで思いだしてくれないんですか~。仕方がありません。
最後の手段です。これを見ても、思いだしませんか~」
そこには、俺の嫁がいた。
アニメ、悪魔の娘の守護者のサブヒロインのティアが。
「てぃ、てぃあちゃんがいる。あ~、これは夢か。夢なんだな。変な夢だな。ティアちゃんに誘拐されるなんて」
「夢ではありませんよ」
「はは。夢ではない。そういう時は、夢に決まってる」
「あ~もう。なんて説明すればいいのよ~」
はは、ティアちゃん困ってる。そんな姿もかわいいなあ。
「まあいいです。おっほん」
おっほんだってよ。
夢の中とはいえ、本物みたいだ。
「お客様」
「は、はい」
夢だと分かっていても、緊張するものなんだな。
「お初にお目に、いや、ちがいますね。第一期から、毎度ご視聴ありがとうございます。この、悪魔の娘の守護者ではティアをやらせてもらってます」
「ああ、はい。知ってます」
ティアをやらせてって、どう意味だ。
ティアはティアなんだから、意味が分からん。
「では本題です。分かり切ったことですが、このアニメは好きですか」
「ああ、好きだよ。面白いし」
「大変結構」
なんだ、急に威張ってきた。
「次、あなたはこのアニメでは、誰のファンですか」
「えっとね」
そんなこと聞くなよ。
恥ずかしいだろうが。
まあいい。
恥はかき捨てって言うからな。
あれは旅だけど。
「そうだな。やっぱり、ティアちゃんかな」
「ほ、ほんとに?」
うおっ、顔を真っ赤にしてる。
か、かわいい。
「ほんとほんと。俺の嫁にしたいくらい」
「そ、そう。へ~っ、そうなんだ。へ~っ」
おお、ツンデレっぽくてかわいい。
「じゃあ、あいつは?」
「あいつ?」
「アリアの事よ、アリアの」
アリアか。
アリアもいいよな。
違う魅力がある。
ティアと違って、ボンキュッボンだからな。
「アリアもなかなかいいよな」
「なにそれ、さっき私のこと嫁に・・・えっと、なんでもない」
こいつ、ツンデレっぽいじゃなくて、ツンデレだな。
「アリアもいいって言ったけど、どこがいいの」
「そうだな。見た目で言えば、少し吊り上がり気味で大きな目かな。鼻筋も通って小さな唇で。それに何と言っても、あのボディーだな。胸がこうおっきくて」
「ああ~っ、もういい。見た目はもういい」
「そうなのか」
もっといっぱい、言いたかったな。
「一ついいこと教えてあげる」
「あ、ああ」
いいことって、なんだろな。
夢なのは分かっているけど、わくわくするな。
「い~い、あいつはね」
ティアちゃん、何でアリアのことあいつって言うんだろ。
侍女なのに。
「アニメの中じゃ、気は強いけどとても優しいって設定だけど、ほんとは根性腐ってんだから。根性ばばっていうやつよ」
そのとき、テレビの中から誰かが飛び出してきた。
「だれが根性ばばじゃ~っ!だまって聞いてりゃいい気になりやがって」
うおっ!こんどはアリアが出てきて、ティアに飛び蹴り食らわせた~!!
なんじゃこりゃ~!!
「根性腐ってるから言っただけよ」
「うっさい。とりけせ。今すぐ取り消せ」
信じられない光景が、幸司の前に広がっていた。
自分の好きなアニメの、それもアニメじゃとても仲の良い二人が、つかみ合いの喧嘩をしている。
呆然と幸司は眺めていたが、意識をしっかりと持ち、仲裁に入ることにした。
「死ね、牛乳おんな!」
「あんたこそ死ね、この乳無しが」
「おまえ~、言ってはならないことを言ったわね」
「あんたが先に言ったからよ」
恐る恐る幸司は仲裁に入る。
「あ、あの~、喧嘩はその辺にしてはどうでしょう」
「「うっさいはげ」」
二人そろって言わなくても。
それに、これは剥げじゃなくて、丸刈りなんだけどな。
もういいや。
好きなだけ喧嘩してろ。
10分ほどすると、喧嘩はとまった。
はあはあはあはあはあ
二人ともアホだな。
へとへとになるまで喧嘩するなんて。
「え、えと、すみません。はあはあはあはあ」
「なんですか、アリアさん」
「お水を一杯いただけないでしょうか」
「わ、わたしも」
「ジュースならそこにあるよ。コップは一個だけだから、喧嘩しないように」
幸司は、ベットに寝転がり二人を眺める。
あ~あ。喧嘩するなって言ったのに。
コップをめぐって喧嘩をする二人を見て、幸司はもう一つ取ってくることにした。
「喧嘩はやめろ。もう一個とってくるから」
そう言ってドアを開こうとした時、ティアとアリアの二人は大きな声で叫んだ。
「「ダメ~っ!!」」
もうおそかった。
幸司が扉を開くと同時に、止まっていたアニメの画面が動き出した。
「どうした?」
「「・・・」」
二人は床にへたり込んでいる。
「どうしたんだよ」
「テレビを見て、気が付きませんか」
テレビを見て気づかないかだと。
魔王の娘の守護者がやってるな。
う~ん。
あれっ、これって、俺が夢を見る前の続きじゃ。
えっ、あれっ、うそ。
「おい、どういうことか、説明しろ」
「はい、わかりました」
説明は主にアリアがしてくれた。
アニメの中の自分は、いったいどう思われているのか知りたくなって、
画面の中から飛び出してきたと、いうことだった。
時間も止めて。
そうすれば、画面の中に戻れば一瞬の出来事で、俺はこのことを覚えておくことが出来なかったらしい。
それを何回か繰り返し、いろんな人からアンケートをもらうつもりだった。
しかし、時間を止めておいた空間を、つまり、俺の部屋のドアを開けてしまったから時間が動き出し、自分たちもアニメの中に帰れなくなった。
だから俺が悪い。
それがこいつらの言い訳だった。
「おい、なんで俺のせいなんだよ」
「幸司が開けなけりゃこんなことにはならなかったんだから、幸司のせい」
随分態度がデカくなったな、こいつ。
「おい、まて。なんで俺の名前知ってる」
「ん、これに書いてあるよ。幸司って、頭悪いんだ」
「ひ、人のテストを勝手にみるな~!」
「こうじ~おなかへった~」
「なんなんだよお前ら。早く帰ってくれ~!」
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