浅瀬の眺望(論集)

瀬海(せうみ)

前書き

 自分は書評というものを、あまり書いたことがありません。


 と言うのも、どれ一つとして同じ人生が存在しない以上、とある作品に対する印象も各々の経験に即した固有の文脈から顕れるべきであって、他人の感性から推し量った評価などを押しつけるべきではない、と考えるためです。


 そこにあって、自分の浅い知識で噛み砕かれた物語の残骸など、無用の長物を通り越して、産業廃棄物になるのが関の山でしょう。個々の楽しみを奪うばかりか、余計な先入観すら与えてしまいかねません。


 しかし一方、解釈なら可能ではないか、という思いもあります。好き嫌いを抜きにした――勿論、ここで取り上げる大抵の作品は好きですが――作品の分解と再構築ならば、読み方の可能性を広げこそすれ、狭めることはないのではないか、と。


 なので、ここで書くのは書評と言うより、むしろ論文に近いものとなります。


 言わば浅瀬の論文です。作品の奥深くまで分け入って作者の意図を解き明かそうとするものではなく、外側からの表面的な分析で、海そのものの景色を楽しもうという、気儘で横着な試みです。


 一応、論文と銘打ったからには体裁は整えるつもりでいますが――作者の来歴や作品が書かれた時代背景など、成立に関して細かく触れるつもりは基本的にありません。だからと言って、必ずしも作者と作品は関係しない、という考えでいるわけでもありませんが。


 ……さて、長々と建前を書き連ねましたが、本作でやりたいことは要するに、自分が目にして美しいと思った眺望の紹介になります。


 少々入り組んだ道程を辿るかも知れませんが。


 一緒に楽しんでいただけたのなら、嬉しく思います。






※紹介文にも記載した通り、作品のネタバレを含む場合があります。

 書き易さのため文章は原則、「~である」口調で統一します。

 参考文献に関しては、できる限り末尾で明示します。

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