8.
俺が言い切ったその時、ザザっとノイズが走る音がして、とっくに使われなくなって死んでいるはずのスピーカーからいきなり音が聞こえ始めた。
『〈赤鬼〉さんに〈日下村雨〉さん、〈乙屋のお二人方〉。皆さんお揃いですね。名乗りが遅れましたが、私は〈鴉〉に属する黒羽舞以と申します』
ボイスチェンジャーで音質を変えている声なのでどんな奴が話しているかは分からない。だが、おそらくこいつがここに俺たちを招いた組織――〈鴉〉とやらの構成員なのだろう。
「お久しぶりだね、舞以ちゃん」
『ええ、実にお久しぶりです乙屋等式さん』
テンション高めに等式が話しかけるが向こうの対応は素っ気ない(知り合いか?)。
『日下さんも……。招待状を読んで頂けたようで何よりです』
「……」
日下は天井の辺りを見つめ、沈黙を通す。
『そして、初めまして、〈赤鬼〉さん。こうして直接……、いえ間接的にでもお話しすることが出来て光栄です』
「そいつはどうも」
俺はそう言って天井を見上げる。
「これだけメンバーを揃えてまで俺に喧嘩を売るとは、よほど自意識過剰で命知らずなお嬢さんなんだろうな。それで、目的は何だ。お前は何を考えていやがる」
『目的。そうですね……。素朴な疑問ですよ』
そう言って、少女は楽しそうに笑いの滲んだ声で言った。
『子供の時に、ゲームとかで遊びませんでした?対戦ゲームとか。男の子はそういうの好きですよね。かくいう私も女の子ながら好きだったわけですけど』
子供の頃、ゲームで、遊ぶ。その問いに対する答えは三者(四者?)三様だった。
等式、ヒビキの乙屋一派は普通に頷き、村雨は小さく首を振っている。
かくいう俺はどう答えれば良いのか微妙な反応だ(ゲームくらいはするがガキの頃はそういう世代、というか時代ではないからな)
『私はその時、強いキャラ、中でも最強と呼ばれるキャラクターが好きだったんですよ。最強ですよ。聞くだけで、その響きだけでわくわくしちゃいません?』
言いながらだんだん声が高揚していく。
『だから、こう思ったんですよ。最強同士を戦わせたらどうなるんだろうって。それが、出発点。素朴な疑問です。だから、私はステージを自分で用意してそれを楽しもうと思ったわけです。〈最強の怪物である夜の王〉赤江創、〈一族最強と称された剣士〉日下村雨、そして、〈裏社会最強の殺人鬼集団〉乙屋のお二方。自分でこれだけのカードを揃えて、試合をしようって。例えば、ライオンとキリン。普通は狩る側と狩られる側ですが、もし真剣に戦ったら、どっちが強いのかとか興味が湧きません?あれって自然界では意外とキリンが粘り強かったりするんですよねー』
黙っていたら独演がいつまでも続きそうな感じだったので話に区切りが付いたところで俺は話しかけた。
「そのために、お前らはここに人間を閉じ込めているのか?」
『ええ、そうですよ?』
しれっと黒羽舞以とやらは言った。
『閉じ込めているというか、意図したことではないということが正しいんですけどね……。そういえば、ゆっくりお話ししていていいんでしょうか、赤鬼さん?』
クスリと思わせぶりな笑い声に何故だか俺は神経が逆撫でされたような気がした。
「どういう意味だ?」
『おやおやお忘れですか?まあお忘れならそれはそれでまたよいものですけど。下の階でどなたかと待ち合わせしていたのではないですか?』
俺は目を見開く。
気付かなかったというか、気にもとめなかった。そこまでこいつらが折り込み済みであったということに。
どんな奴にも
「予想よりお前らは汚い奴らみたいだな」
『知らないんですか?赤鬼さん。鴉は選り好みせずにゴミさえ食べる鳥ですよ。死体に群がるから死喰い鳥。私たちの名前はそこから来ているんです。汚れ仕事は当たり前じゃないですか。と、いうわけで』
パン、と手を打つ音がした。
ガシャン、と同時に何かが外れる音。
『ここからステージはレベルアップです!マンネリ化は大罪ですもんね』
上から、巨大な鎖と檻のような物体が落下してきた。
俺はすんでの所で避けて、床を転がる。
轟音が鳴り響いて、落下してきたものの重量で床が揺れた。
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